25 プレシャスの苦悩-1
こちらはギャロウェイ伯爵家の領地に構えた屋敷である。アリッサがラインと結婚したことに、ギャロウェイ伯爵家の人々はとてつもなく腹を立てていた。
「娘などあてにならぬな。あれだけ、何人も家庭教師をつけ最高の教育を受けさせてやったのに、親を裏切るとは! 政略結婚のためにかけたお金が無駄になってしまったわい」
「まったくですよ。ギャロウェイ伯爵家の利益になるような結婚をするべく育てられたくせに、愛だの恋だのと騒ぎ立て家出までして困った妹だ。せっかく、サミー卿とダイヤモンド鉱山事業の提携ができるところだったのに・・・・・・」
ギャロウェイ伯爵とニッキーが居間でアリッサの悪口を言う。もう、幾度も繰り返された会話だ。
「アリッサはおバカさんですよ。大金持ちのサミー卿よりライン卿を選ぶなんて。ギャロウェイ伯爵家の貿易ネットワークでダイヤモンドの販売や流通を支援し、サミー卿はその見返りに利益の半分をくださるという、滅多にない好条件だったのに」
「ライン卿だって医薬品の製造・販売を手がけるお金持ちですわ。なにより、アリッサ様は幸せそうでした。それが一番ではないのですか? 」
「プレシャス! 君の意見は関係ない。ライン卿も条件の良い相手だったが、彼には貿易ネットワークが不要だった。高品質な薬は入手が難しいほど値が上がる。大金持ちの顧客がいれば、ギャロウェイ伯爵家と連携するメリットなんてないんだ」
「でも、アリッサ様は幸せになりますわ。ライン卿は心からアリッサ様を愛しているように見えましたもの」
「それ以上、余計なことを言うな。プレシャスは早く子供を妊娠してくれればいいんだよ。結婚してずいぶん経つのに、まだ妊娠しないとは、もしかしたら君は子供ができない体質かい?」
プレシャスは顔を歪ませて、居間から自室へ戻る。彼女はサングスター男爵家の令嬢で、ジェニング男爵家のレイフと婚約していた。しかし、美しい金髪と青い瞳の儚げな美貌にニッキーが惚れ込み、無理やりギャロウェイ伯爵家に嫁がされたのだった。ニッキーはアリッサには政略結婚を押しつけたが、自分は好きな女性と結婚したわけだが、プレシャスを大事にすることもなかった。
プレシャスはレイフに嫁ぎたかった思いを胸に閉じ込めてつぶやいた。
「きっと、ニッキー様も子供ができたら少しは変わってくださるわ」
淡い期待を胸に、ギャロウェイ伯爵家で耐えるプレシャスであった。
その数ヶ月後のこと、プレシャスが妊娠したことがわかると、ニッキーは驚喜した。
「でかしたぞ! プレシャス。すぐに、占い師に見てもらおう。とてもあたると評判の者を知っている」
「占いですか? 生まれてきてからのお楽しみでいいと思いますけれど。性別がなんであっても、大事な命に変わりはありません」
「いや、これはとても重要なことさ。さぁ、早く支度をして。一緒に占い師のところに行こう」
ニッキーはわざわざ王都にまでプレシャスを連れていく。数日かけてやっと王都に着けば、石畳の道を夜の闇が静かに包み込んでいた。ニッキーは少し興奮した様子で、プレシャスの手を引きながら歩いていた。
「本当に占ってもらうのですか?」
プレシャスは不安そうにニッキーを見つめながら、豪華な屋敷や賑やかな通りを見渡した。
「もちろんだ。プレシャスも知りたいだろう? 占い師が確かなことを言ってくれたら、私たちの未来がもっと明るくなるんだよ」
ニッキーは楽しそうに笑いながら答えたのだった。
二人が向かっているのは、王都でも一際高級な地区にある石造りの豪邸だった。外観は古びた石材で築かれ、立体的な装飾が施されている。屋根には、星や月の模様が描かれたタイルが並び、まるで夜空の一部が切り取られたようだ。
「ここが……?」プレシャスは豪邸を見上げ、不安そうに呟いた。
「そうだ、ここだ。ここでお腹の子の未来を占ってもらおう」
ニッキーは扉を叩き、返事を待つことなく開け放つ。扉の向こうに立っていたのは、豪華なローブを身にまとった年配の女性だった。彼女の髪は銀色で、まるで光を反射しているかのように輝いていた。その瞳は冷静で鋭く、まるで人の心を見透かすような眼差しをしている。
「よく来たね」
まるで、ニッキーたちが来ることをわかっていたようだった。占い師はゆっくりと微笑み、二人を中に招き入れた。屋内は贅沢な装飾品で溢れ、壁にはリサベス・アートリアの絵やタペストリーがかかっていた。中央には大理石のテーブルがあり、その上には大きな水晶玉が鎮座している。
「そこに座りなさい」
占い師は二人に椅子を指し、落ち着いた声で促した。
「私たちの子が女の子かどうか、それを知りたいんだよ」
ニッキーは興奮気味に言い放ち、占い師を見つめた。プレシャスは一言も発せず、ただ緊張した面持ちで占い師をの答えを待っていたのだった。




