24 ラインの決意
夜会や舞踏会で、ラインは何度もアリッサを遠くから見つめていた。彼女は清楚で可憐な姿をしていた。しかも、幼い頃から英才教育を受けた才女として名高い。
母国語と共通語のほかに五カ国語を話し、商業に関する深い知識と財務管理も学んできたと、アリッサの自慢話をギャロウェイ伯爵夫妻が繰り返すのを何度も耳にした。確かに、彼女は学園を首席で卒業したほど努力家らしい。
(円満な形での婚約解消は嘘だろうな。サミー卿がセリーナ嬢に弱みでも握られたか? 急遽結婚しなければいけない理由ができたのだろうな。それによって、アリッサ嬢は捨てられたに違いない。被害者はアリッサ嬢なのにおかしな噂までたっている)
ラインはアリッサを気の毒に思った。そして、彼女のような女性が自分の婚約者であったならと、以前から心のどこかで願っていた。だから、いつか機会があれば声をかけてみたいと考えていたのだ。
ある日、トラスク公爵が主催する夜会でアリッサを見かけた。彼女はトラスク公爵夫妻へ優雅にカーテシーをし、その場を離れて周囲を注意深く観察していた。そして、ゆっくりと人目につかないバルコニーへと移動していく。
(まずいな。きっと、アリッサ嬢は心ない噂を気にして、あのような人目につかないバルコニーで時間を潰すつもりでいるのだろうが、不埒な男性に見つかったら・・・・・・急がなければ)
ラインはアリッサの後を追ってバルコニーに行き声をかける。だが、彼女から返ってきた言葉は、予想だにしないものだった。
なんと、セリーナは「ラインが浮気をして、自分のほうから婚約破棄した」とアリッサに吹き込んでいたのだ。アリッサはそのことを信じ、ラインを強く責めたてる。予想外の展開にラインは驚きを隠せなかったが、すぐにセリーナの浮気こそが事実であることを説明した。
その後、ラインがアリッサに交際の申し込みをしたのは、セリーナがアリッサに侮るような言葉をかけたからだった。アリッサは決してセリーナのような人間からバカにされたり、サミーのようなくだらない男に振り回されていい女性ではない。自分が守らなければ、ラインはそう思った。
サミーが「ラインには浮気癖がある」と言った言葉には、心の中で大笑いをしてしまう。
(ブーメランとはまさにこのことだな。婚約者の友人に乗り換えるような男が、よくも私に浮気癖があるなどと言えたものだ。まさに自分のことじゃないか……しかも、本人にその自覚はないらしい。こんな男とずっと婚約させられていたアリッサ嬢が本当にかわいそうだ)
ラインはアリッサを、サミーやセリーナのような邪悪な人間や、心ない噂から守りたいと思った。
(ずっと、好意を抱いて見つめてきた女性だ。一生、大切にしよう。私のすべての誠意と真心を捧げると決めた)
交際を始めてからは、アリッサから好きになってもらいたいという一心で、デートの場所を考えたり、彼女に似合うドレスをプレゼントする。しかし、ラインはアリッサが自分の価値を理解していないことに、たびたび気づかせられることがあった。
「お兄様のように金髪碧眼の華やかな顔立ちだったらよかったのに……」
アリッサは、たまにそうつぶやく。初めて出会った時も、セリーナより自分の容姿が劣るという言い方をしていた。ラインは驚きすぐに反論した。確かに、アリッサの兄であるニッキーは目立つし美しい。しかし、どこか軽薄で、性格の悪さがにじみ出ているような男に見えて、ラインはまったく同意できなかったのだ。
「ニッキー卿に似なくて良かったですよ。アリッサは品があって清楚で、とても綺麗です。内面の美しさが外見にも表れています。アリッサに似合うドレスをたくさんプレゼントしますから、自分にもっと自信を持ってください」
ラインは会うたびに、アリッサの美しさや賢さ、愛らしさを口にした。アリッサは自分を過小評価しすぎていた。話を聞けば、ギャロウェイ伯爵夫妻やニッキーに問題がある。ギャロウェイ伯爵夫妻がアリッサの能力や才能を伸ばした功績は大きいが、その容姿を不当にけなし、能力すらも政略結婚の道具としか考えていない。サミーの裏切りも、彼女の自信喪失に大きく関与しているに違いない。そう思うと、ラインはアリッサを取り巻くすべての悪意から、彼女を守りたいと、改めて決意を固めたのだった。
(この愛はアリッサだけに……君だけに捧げる。どんなことがあっても、全力で守り抜くよ)




