19 領民のために頑張りたいアリッサ
子ウサギたちに救われてしばらく馬車を走らせると、道の両脇に大きな工場が次々と姿を現した。それらの工場は自然との共存を重視した設計が施されており、周囲の森の景観に見事に溶け込んでいた。工場の周りには広大な薬草園が広がり、その中で働く人々が勤勉に作業を続けている。森から続く道沿いには宿屋や馬小屋が点在し、ワイマーク伯爵邸や領地の商業地域を訪れる者たちが休息を取れるよう、しっかりと整備されていた。
「あの点在している大きな工場で医薬品や化粧品がつくられているんだ。そこで働く人々はこの近くに集落を築いて生活している」
ラインは工場を指さしながら話を続けた。
「彼らは誠実で勤勉な人たちばかりさ。薬草園も工場も、ワイマーク伯爵家が直接経営しているから、彼らの働きぶりを定期的に視察するのが私たちの大切な仕事のひとつだよ」
アリッサは馬車から窓越しに薬草園を見渡しながら、感心した様子でうなずいた。
「私もライン様の視察にご一緒していいかしら? ところで、商業地域はどこにあるの? 製造した医薬品や化粧品を売るお店が見当たらないけれど……」
「もちろん、いいとも。商業地域は伯爵邸を挟んで反対側にある。医薬品や化粧品の流通は商人たちが担っていて、ワイマーク伯爵家の後ろ盾を得て、商人ギルドが統制しているんだ」
ラインは、運輸ギルドも連携していて、彼らが薬品や化粧品の輸送を一手に引き受けていることも付け加えた。
「わざわざ工場から遠く離れた商業地域にいったん集めて、そこで売りさばくわけね……効率的には問題があるわね」
アリッサは少し首を傾げ、心の中で考えを巡らせる。
王都や他の貴族領の購入者は直接買いに来るか、高い輸送費を払い商業ギルドを通して屋敷まで届けてもらうしかない。運輸ギルドはそのたびに高額な輸送費を請求し、商業ギルドとともに大きな利益を得ているはずだ。アリッサは商業地域の商人たちの屋敷はさぞ豪邸だろうと想像する。
アリッサは、頭の中で自然に問題点を整理していた。しかし、今はまだワイマーク伯爵領に着いたばかり。これから領内のことをもっと知り、問題をしっかりと把握してから改革に取り掛かるべきだと自分に言い聞かせる。
馬車がさらに進み集落の近くに差しかかると、温暖な気候の中、道沿いには色とりどりの花々が咲き誇り、果物の木が豊かな実をつけていた。薬草園で働いていた村人たちは馬車の音を聞きつけ、顔を上げて恭しく挨拶をしてくる。その表情には敬意とともに親しみが感じられた。
通りの端にある宿屋から、店主が気さくに手を振ってきた。
「お帰りなさいませ、伯爵様!」と声がかかり、ラインは窓越しに軽く手を上げて応じた。
アリッサは馬車の窓から景色を眺め、村人の素朴な暖かさや働く人々の姿を目にするうちに、自分がワイマーク伯爵夫人として、どれだけ大きな責任を背負っているのかを実感しつつあった。
(ライン様や領民の皆のためにも、私がお役にたてることは頑張りたいわ。それには、まず領地をしっかりと見て回らないとね)
アリッサは心の中でつぶやき、穏やかな決意を胸に抱いていた。村の一角には新鮮な果物や野菜が並ぶ小さな市場があり、村人たちが生き生きとした表情で品物を選んでいた。アリッサは村の穏やかな雰囲気と人々の温かい生活を目にしながら、彼らの暮らしにどこか懐かしさを感じ、温かい気持ちになるのだった。




