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17 迫り来る危険

 翌日、馬車はワイマーク伯爵領の森へ向かって進み始める。道中、見晴らしの良い丘に差し掛かった。二人は馬車を止めて、丘の上から広がる美しい景色を楽しんだ。森と湖、遠くに続く山々が一望でき、まるで絵画のような光景が広がっている。


「ここは『恋人たちの丘』と呼ばれているんだ」とラインが静かに語り始めた。

「昔、身分の違いから引き裂かれた恋人たちがいてね。彼らは決して一緒にはなれない運命だった。でも、二人は諦めなかったんだ。この丘で月明かりの下、誰にも知られないように密かに会い、永遠の愛を誓い合った。二人の絆はこの丘に宿り、その誓いは奇跡を起こした」

 ラインはアリッサの目を見つめながら、続ける。

「やがて彼らの強い想いは運命を変え、反対していた家族や周囲も二人を祝福し、無事に結ばれたんだよ。それ以来、この丘で愛を語り合った恋人たちは、どんな困難があっても引き裂かれることはなく、永遠に幸せを手に入れると言われているんだ」

 

「そんな素敵な伝説があるなんて……」アリッサは風に揺れる髪を押さえながら、ラインの言葉に聞き入っていた。目の前に広がる美しい景色は、胸の中に温かい感情を呼び起こしてくれた。この丘で誓いを立てた恋人たちが、どんな困難をも乗り越え、永遠に結ばれたという物語。その言葉が、アリッサの心に響く。


 アリッサはそっとラインの腕に手を添え、微笑んだ。

「ライン様、私たちもここで愛を誓い合いましょう。これからの人生、どんな困難が待っていても、私たちならきっと乗り越えていけるって、この丘で誓いを立てたいの」

 ラインは驚いたようにアリッサを見つめたが、すぐにその表情は優しい顔に変わり、彼女の手をしっかりと握り返した。


「アリッサがそう言ってくれて、私は本当に幸せだよ。もちろん、私たちもここで永遠の誓いを立てよう。どんな時も、アリッサを守り、共に歩んでいくことを誓うよ」

 二人は丘の上で向かい合い、静かに互いの手を握りしめた。風がそっと吹き抜け、草木がざわめく音だけが二人を包む。アリッサの瞳は優しく輝き、ラインもまた彼女の手を温かく握りしめた。


「これから、二人で幸せな未来を築いていきましょう。ワイマーク伯爵領での新しい生活も、どんな瞬間も一緒に楽しむことを約束するわ」

 

 アリッサも誓いの言葉を紡いだ。ラインは笑みを浮かべ、アリッサを優しく引き寄せる。


「これからはずっと二人だよ。どんなことがあっても、私たちの愛は永遠だ」

 二人の誓いは恋人たちの丘に深く刻まれ、まるでその場に宿る伝説のように、永遠の絆となって彼らの心に残ったのだった。



 


 ワイマーク伯爵領に近づくにつれて、道が徐々に自然豊かな景色へと変わっていく。気候も穏やかで暖かい。馬車の窓から見える森や小川の景色は神秘的で、アリッサはまるで物語の中にいるような気持ちになった。


 森の中での夜、馬車を停めた一行はキャンプを準備していた。

「ここはもう、ワイマーク伯爵領だよ。大自然に抱かれて寝るのも楽しいと思う」と、ラインが提案したからだ。護衛騎士たちは警戒を怠らず、周囲を見渡しながら、辺りに焚き火を用意する。一方、侍女たちは慣れた手つきで食事の準備を始めた。食材は道中に立ち寄った市場で買い揃えた新鮮な野菜やパン、干し肉、干し魚などだった。


「旦那様がキャンプをしたいとおっしゃられていたので、食材は買いそろえておきました。今日はシンプルな料理になりますが、素材の味を引き出すように工夫しますね」


 侍女の一人がアリッサに微笑みながら言う。彼女は素早く持ち運び用の鍋に野菜と肉を入れ、煮込み始めた。やがて、豊かな香りが夜の森に漂い始め食欲をそそる。もう一人の侍女は干し魚を串にさし焚き火で焼き、少し離れた網の上ではパンを温めた。


 アリッサとラインは手作りのスープを味わいながらパンをかじり、焼いた干し魚も堪能した。

 

「自然の中で食べる素朴な料理は美味しいわ」

 

 アリッサは心地よさに身を委ねながら、微笑みを浮かべた。護衛騎士たちはその間、少し離れた場所で食事をとりながらも警戒を怠らない。侍女たちは二人の甘い時間を邪魔しないように配慮しながら、後片付けを手際よく進めた。


 森の中で聞こえる風の音や、時折小動物が駆け抜ける気配が、二人の時間を一層特別なものにした。翌朝、朝露に輝く森の中で目を覚ました二人は、新たな一日を迎える喜びに満たされ、馬車を再び走らせたのだった。



 馬車が森の奥へ進むにしたがって、馬車の窓越しに小さな白い姿が目にはいるようになった。それはふわふわの毛並みを持つ小さなウサギだった。木陰からこちらをじっと見つめていたり、馬車と並んで移動しながら跳ねてみたり。愛らしい姿にアリッサは喜びの声をあげた。


「ライン様、とても可愛い子ウサギを見たわ」

「いつも、子ウサギたちは見かけるよ。ワイマーク伯爵領の森はウサギが繁殖しやすいのだと思う」


 馬車が進むにつれて、同じような白い子ウサギたちが次々と現れ、まるでアリッサたちを見守っているかのように現れては消えていった。


「あの子ウサギたちは私たちを見守っているように感じるわ。幼い頃に子ウサギを飼いたかったのだけれど、お母様は動物が苦手だから飼えなかったわ。あぁ、あの子ウサギに少しでも触れることができたらいいのに。モフモフしていて、きっと気持ちいいと思うの」

「だったら、犬でも猫でも好きな動物を飼えばいいよ。子ウサギは森を自由に駆け回りたいだろうから、捕まえて閉じ込めてしまうのは可哀想だ」

「確かに、檻に閉じ込めるのは可哀想すぎるわね。あの子ウサギたちが、たまにワイマーク伯爵家のマナーハウスの庭園へ遊ぶに来てくれたら、それで充分よ」

「そうだね。あの子ウサギたちに人間の言葉がわかったら、きっとアリッサを大好きになり、毎日庭園へ遊ぶに来ると思うよ」

 ラインはアリッサに優しく笑いかけた。


 しばらくして、アリッサたちは湖のほとりで休憩を取ることにした。馬を休ませる間、アリッサは湖の美しさに見惚れながらも、先ほど見かけた子ウサギたちのことが頭から離れなかった。突然、背後からかすかな足音が聞こえた。振り向くと、7匹の真っ白な子ウサギがアリッサのすぐそばまで近づいている。ウサギたちは恐れを知らぬ様子で、とても人懐っこい。


「あなたたちは・・・・・・ずっと私たちを追いかけてきたの?」


 アリッサは微笑みながら、子ウサギたちの柔らかな頭を優しく撫でた。ウサギたちはその温もりに安心したように、彼女に体を寄せてくる。

 しかし、その瞬間、森の奥から低く響く唸り声が響いた。アリッサが顔を上げると、木々の間から狼の群れが姿を現し、鋭い目でアリッサたちを狙っていた。緊張が一瞬で辺りを包み込み、アリッサは心臓の鼓動が高鳴るのを感じたのだった。


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