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16 甘い時間

 嬉しいラインとの結婚式を済ませたアリッサは、ラインのタウンハウスに戻り、ゆったりと居間で寛いでいた。ウェディングドレスから今はシンプルなスリップドレスに着替え、ラインの腕の中で微笑んでいる。入浴も済ませ、これから緊張すべき初夜ではあったが、アリッサはラインとならなにも怖くはなかった。


「アリッサ。新婚生活はどこでスタートさせようか?」

「もちろん、ワイマーク伯爵領でスタートさせたいわ。社交シーズンもそろそろ終わるし、ワイマーク伯爵領の森を案内してほしいの。広大な薬草園や医薬品の製造工場も見学しなきゃ。私がライン様の妻になったからには、もっとワイマーク伯爵領を繁栄させてみせるわ」

 

「それはすごいなぁ、期待しているよ。ワイマーク伯爵領の森は絶対気に入ると思うよ。なにしろ、あそこには精霊が住んでいるからね」

 

「本当に? 見たことはあるの?」

 

「残念ながら森に住む動物しか見たことはないが、アリッサを連れて行ったら出てくるかもしれないよ」

 

 アリッサは期待に胸を膨らませた。ウサギやリス、鹿やキツネ・・・・・・もしかしたら狼もいるかもしれない。二人は結婚式を境に、お互いに自然体で接し合いリラックスした関係を築こうと話し合った。その結果、堅苦しい敬語は取り払われ、より親密さが増した会話になっている。

 

「ライン様、狼もいたら森の中は危険かしら?」

「狼もいるにはいるのだが、人間を襲った記録はないよ。ワイマーク伯爵家の森が精霊に守られていると言われる理由さ」

 

(精霊さんか・・・・・・会ってみたいわ。どんな姿をしているのかしら? きっと、美しい女性の姿だと思うわ。それとも、愛らしい少女の姿かしら?)

 

 アリッサが幼い頃に読んだ絵本では、精霊はとても綺麗な女性の姿をしていた。他愛のない会話をしながら二人は、自然と手を取り合い夫婦の寝室へと消えていく。アリッサを見つめるラインの目には愛があふれ、ラインを見つめるアリッサの目には嬉しさと恥じらいが浮かんでいた。


 一夜明けた朝、アリッサはラインの腕に包まれ、幸せに満ちたまどろみを感じていた。二人の絆は一層強まり、確固たるものへと変わりつつある。この瞬間、アリッサはまるで世界中の幸せを独り占めしたかのような幸福感に酔いしれていたのだった。






 ワイマーク伯爵領への道のりは、アリッサにとって新しい冒険のようだった。王都を出発して一日目、二人は日の暮れる頃、古風で温かな雰囲気の宿にたどり着いた。宿の外には小さな花壇があり、アリッサはラインと並んで歩きながら、その花の香りに癒されていた。


「今夜はここで休もうか」とラインが微笑む。宿の主人は彼らを歓迎し、美味しい夕食とふかふかのベッドが用意された。二人は暖炉の前でワインを片手に語り合いながら、これからの生活に胸を躍らせた。


 二日目の午後、馬車は海に面した小さな漁港へ到着した。この場所は、王弟のアマディーアス・トラスク公爵が治める領地で、海からの恩恵を受けた豊かな土地だった。海風が心地よく、アリッサは潮の香りを吸い込みながら港町の活気に目を輝かせた。


「この港では美味しい魚料理が食べられるんだよ」とラインが言うと、二人は馬車を降り港町の市場を歩き始めた。新鮮な魚や貝が並び漁師たちが賑やかに声をあげる光景は、アリッサにとって初めての体験だった。漁港の一角には小さな食堂が併設されており、そこで獲られたばかりの新鮮な魚介類をその場で調理してもらい、すぐに味わうことができる仕組みになっていた。香ばしい焼き魚や、貝を焼く匂いが辺りに漂い、訪れる者たちの食欲をそそる。


「これは何?」とアリッサが指差したのは、奇妙な形をした貝だった。

「それは珍しい海の幸だよ。少し塩気が強いけど、新鮮で美味しいんだ」と、ラインが笑いながら説明する。二人はその場で料理を頼み、魚介を使った料理を食べることにした。


 貝の網焼きの香ばしい匂いが漂い、アリッサの食欲を刺激する。ラインが小皿に盛り、焼き立ての貝をアリッサに差し出した。


 アリッサは興味津々でおそるおそる口に持っていく。ひと口かじると、甘みと旨みが口の中に広がり、驚きの声を上げた。

「網の上で焼いただけなのに、とても美味しいわ」


 さらに、ラインは生の魚を使った料理も注文した。アリッサはその美しい盛り付けに目を奪われ、思わず息を呑む。

「これはどうやって食べるのかしら?」

 少し緊張しながら訊ねると、ラインが優しく教えてくれた。緑色の香辛料を少しつけて、黒っぽいタレにつける、と。

 アリッサは一切れ口に運び、魚の新鮮な味わいに驚いた。


「海から渡ってきた東洋人が広めた文化らしいよ。その黒っぽい調味料も、その国ではよく使われているものらしい。アマディーアス・トラスク公爵は文化大臣(芸術振興大臣)だからね。芸術家や知識人を支援し、こうした異国の文化も取り入れることを推奨している」

 

「トラスク公爵は温厚で優しそうな方よね。ライン様と初めて会ったのも、トラスク公爵主催の夜会だったわ。それにしても、生のお魚ってこんなに美味しいのね」

 アリッサは嬉しそうに言い、次々と手を伸ばす。新しい味に驚きながらも、ラインと楽しい会話を交わし、心温まるひとときを満喫した。


 その日の夜は海辺の宿へ泊まることにした。窓からは波の音が聞こえ、アリッサは月に照らされる砂浜を眺めながら、ラインと寄り添う。


「こんな時間が永遠に続けばいいのに」と、アリッサがささやくと、ラインは優しく微笑んで答えた。

 

「私の可愛い奥様。これから、もっと素敵な素晴らしい時間をたくさんあげるよ。楽しみにしていて」


「ふふっ。ありがとう。私の素敵な旦那様」


 アリッサとラインは新婚らしく、甘い時間を過ごすのだった。

 





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