番外編 イノシシ事件前のユグドラシル
番外編です!
ユグドラシルが匡近の所に行く前のお話です。
楽しんでいってください!
世界を支える樹。世界樹と呼ばれ崇められる樹の精霊、ユグドラシル・W・ソフィアは暇を持て余していた。
数百年続く平和な世界。魔物の暴走もなく、人々の侵略も無い。
今日という短い1日も、これまでのように何もせず過ぎるのかと、そう思ったとき、ユグドラシルのいる部屋のドアが勢いよく開けられた。
「ユグドラシル様! 魔物が世界樹へと迫ってきています! かなりの規模で、都市壊滅級のリーダーらしき者もいるそうです!」
「なるほどのう・・・。お前らは取り巻きを頼む。妾は親玉を叩きに行くのじゃ」
「承知しました! 無理はなさらぬように」
そこまで言って部屋から消える二人。
次の瞬間、遥か地平線から迫る影が、大規模な爆発を起こして弾け飛んだ。
おおよそ1万近くいた魔物の軍隊が、8割近く壊滅する。
一瞬で死屍累々となった大地を悠々と歩く、大爆発を起こしたユグドラシル。
すでに数少ない生き残りの中に、禍々しいオーラを放つ二足歩行の牛を見かけると、ユグドラシルは声を掛けた。
「貴様が今回の侵攻の指揮役か! 妾はユグドラシル! ここ、世界樹を統べる精霊神ぞ! 天誅を下されたくなければ、即刻立ち去れ!」
神を名乗るに相応しい程の圧を込め、牛男へ警告する。
本当に体が押しつぶされるように錯覚し、本能が警鐘を鳴らすが、牛男は自身のプライドを守り、宣言した。
「我は魔神軍大佐、ミノタレスである! 魔神様の意志により、世界樹を我らの統治下としに来た! 貴様らに投降の意思が無いようなら、武力突破を強行する! 生きて我らに従うか、ここで死ぬか選ぶと良い!」
軍隊の8割を削られながらも、牛男は宣戦布告した。
その勇気は、余裕とも、無謀とも取れる。
だが、多くの戦士の命を奪ったあの爆発を耐え抜いたのも、事実である。
「雑魚が粋がるか。ならば! ここで無謀を自覚すると良い!」
一見は、ユグドラシル一人に対して魔神軍大佐、ミノタレスを含めた魔物たち約2000。
数の差は圧倒的であったが、その実力差は、真逆であった。
ユグドラシルが右手を掲げる。そのままで何かを呟いたかと思ったその時―――
―――戦場に、薔薇が咲いた。
ミノタレスを除く魔神軍の戦士たち、その全員の心臓から、赤く大きな花が咲いた。
口角を釣り上げ、不気味に笑うユグドラシルは、純然たる恐怖を本能に植え付ける。
自身から花が咲いた戦士らは、何が起きたのかわからぬまま、永遠の眠りへと就いた。
花びらを象る、結晶化した戦士達の血が、砕けて空へ散った。
キラキラと、太陽の光を乱反射し、ステンドグラスのように大地を赤く色づける。
それは残虐な魔法とは裏腹に、あまりにも美しすぎた。
《死の花園》。この魔法の名前であり、ユグドラシルのオリジナルの魔法である。
一部の地域では禁術と謳われる程の魔法だ。
「全滅、か。・・・クハハ、クハハハハハハハハ! 魔神軍の精鋭を連れてきたつもりだったが・・・。ならばせめてもの報いだ!」
絶対的な実力差を突きつけられたミノタレスは、足掻くように金色の小さな指輪を取り出した。
「『スキル《刻封》』!」
ミノタレスが叫ぶと、ユグドラシルの体がミノタレスの持つ指輪へと引き込まれてゆく。
抵抗できぬまま、やがてユグドラシルの姿が見えなくなると、ミノタレスは達成感に満ちた顔をして、指輪を握りつぶそうとした。
が、
「カハッ!?」
「ユグドラシル様の仇です!」
ユグドラシルへ侵攻を報告した精霊、樹の精霊のティアが、ミノタレスの心臓を穿つ。
樹の精霊の、生命を操る能力により一瞬で寿命を奪われたミノタレスは、枯れ木のように干からび、生涯を終えた。
数十年後
「うむむ・・・ とりゃっ! っと。やっと出れるようになったな。まさか対魔の結界だったとは・・・。抵抗できぬわけじゃな」
自身の入っていた指輪を睨み、呟くユグドラシル。
と、全身に違和感を感じた。
まるで封印された瞬間のような、引き寄せられる感覚。
瞬間、部屋が光に包まれた。
光の収まったその部屋には、もう誰もいない。
「ユグドラシル様ー? 寝てるんですかー?」
用事があり部屋に来ていたティアが、声を掛けるが、返事は無い。
ユグドラシルが指輪に入ってるときの頭に直接届く念話も無いことを不思議に思い、扉を開けると、指輪も、ユグドラシル本人もいなかった。
『ティアか?』
「ユグドラシル様! どこにおられるんです?」
『すまぬ。転移されてな。異邦者の装備となってしまったようじゃ。そちらに戻るのはかなり厳しいようなのじゃ。念話もそろそろ限界じゃ。しばらくの間そちらを任せるぞ』
「理由がわかりませんが了解です。無事を祈ります」
指輪に施されていたプログラム、《魔神級の魔力を感じ取ったら転移する》を無事遂行し、匡近の下へ転移したユグドラシルが、ティアへと念話を飛ばす。
理解が追いつかないティアだが、自分をなんとか納得させ、返事を返した。
だが、その後、ユグドラシルの念話が来ることはなかった。
「・・・そういえばあのときの魔物侵攻のとき、私達出番なかったな」
数十年と経った今更、ティアは一人愚痴った。
読んでいただき、ありがとうございました!
次話もできるだけ早く上げれるように頑張ります!
改善点などあればぜひ!
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