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聖剣と往く大陸放浪記  作者: あかさか
3/4

1日目

妖精にばかされたような感覚だろうか。

朝起きるとそこにはかすかに垂れた長耳に金髪をかけて、大雨に遮られた淡い朝日を見つめる乙女が腰かけている。

私の腹の上に収まってしまうコンパクトさを除けば、とても魅力的で色香にあふれている。

「火をおこすから、腹の上からどいてくれないかお姫様」

「おはよう、ダン」

「あぁ、おはようアイリ」

アイリは私の上着から抜け出して、膝の上で乱れた衣服を整えて髪を手櫛する。

私は聖剣の柄を握った。

焚火の燻った炭に火がともる。

そこに薪をいくつか投げ込む。

「ダン、何日か雨は続くわ

 今日はここでずっといるでしょう?」

顔を動かさないままニアはつぶやく

「あぁそのつもりだよ。

 薪を探しに出たり、近くに魔物がでれば狩るかもしれないが」

「よかった、絶対いてね。

 私は荷物をまとめてくるから」

「ほんとに一緒に行くつもりなのか」

「えぇ、後悔はさせないわよ。

 それに旅は1人より2人が良いわ。

 絶対に。」

力強く言うアイリに少々押される。

「わかった。

 最近忙しかったし2~3日ゆっくりしてもいいだろう」

アイリは満面の笑顔になって言う

「うん!

 今から出て、暗くなる前には帰ってくるから」

「アイリ、それならこれを被っていくといい」

早速外に出ようとするアイリを引き留める。

雑納の中にあった防水紙を広げる。それをいくつか織り込んで、雨合羽を作って

アイリにかぶせた。

「紙でしょ?」

「あぁ、水をはじく仕掛けがしてある。

 これを被って行っておいで」

「そうなんだ、不思議な紙ね

 それに頑丈だわ

 まえ村で見た紙はみんなひどくて使えないって

 お父様がボヤいてたのに」

「あぁ、特別なものなんだ」

「そうなのね、ありがとう行ってくるわ

 絶対移動しないでね」

アイリはくるりと回ってから俺の膝を抱きしめて膝小僧にキスをしてから階段を駆け上がって外へ飛び出していった。

「さて、何をしたものか。」

雑納に入れたパンや、吊るしている昨日の肉はまだ余裕がある。

ここから移動し始めたら途中で野草や動物、魔物類を狩ることができると思えば

多少ここで2~3日滞在することになっても問題はないだろう。

あのアイリというエルフは何をそんなに私のことを気に入ったのかわからないが、

確かにこの旅は以前の旅に比べて目標も厳密に定まっているわけでもないし、

多少ゆっくりと過ごすのもよいのかもしれない。

肉をナイフで削いで、雨で洗っておいた石の板に乗せる。

昨日のように棒切れに刺してもいいが、こげやすい。

鉄板がないから石の板で焼くわけだが、これも割と良い塩梅ではある。

鉄板よりふっくら焼きあがる気がする。

焼けた肉を裏返し、塩を振って食す。


以前の旅も突然だった。

明確な世界の危機とそれを打破するための手段が私には提示されていた。

それに従って行動し、ひたすら鍛錬と対策の日々、神託と言われる抽選に当たることさえも

事前に知らされていた人生というのは途中から合流した私にとっても楽しいといえるものではなかった。

結果、魔族との闘いのさなかに私は今この世界に飛ばされたのである。

今回は前回のような明確な道しるべも未来に対する知見も授けられることはなかった。

不安があるとするなら、そのあたりだが。

考えてみれば皆そうやって生きるのが普通なのだから、

私もゆっくりとものを知りながら生きてみるのもありだろう。

幸いにも周辺に魔物の気配はなく、暇な一日、雨音と薪のはじける音を聞きながらうとうとして過ごした。

雨は止むどころかさらに激しさを増す勢いである。

暇なので、あたりの土を盛ったり削ったりして、窪みの周りを家のように造形する。

時間はたっぷりあるし、雨が一部の屋根から浸透してきたために、少々手入れをせざるを得なくなった。

鼻歌交じりに重力魔法を使用し、周りの土壁圧縮したり盛り付けたりして

今寝転んでいる拠点の周囲に積んでいき、自分が立てるくらいの高さの内部空間を作る。

中央に設置していた焚火は台のようにして階段をつけてアイリも行き来できるようにする。

思ったよりは長く滞在することになりそうなので、少々頑丈なつくりにしてみた。

なんでこんなことばっかり上達したのかと言えば、向こうでは騎士に召し上げられる前は野宿をよくしていて、生活環境改善の一環で屋外拠点の作成に凝っていた時期があるからだったわけだが、自分自身がこういったものを形作るのが好きだったりする。

そして騎士になってからもずっと土嚢と塹壕制作の日々。聖騎士として任ぜられた際には多少残念に思うほどだった。

外から見たらどこかの妖精が住んでいそうな丸い屋根に丸い煙突。

ところどころに着けた窓には雨よけの庇のようなものも付けて、外の様子がわかるようにする。

ガラスがないのだから、見た目だけの枠があっても雨は降りこむので庇は必要だ。

うんうんと、うなずきながら暖炉と化した焚火に薪をくべる。

上着などを枝にかけて壁につるす。

下着と聖剣だけをもって雨の中、土台の上にでてあたりを見渡す。

出来のいい小屋ができたのはいいが、部屋面積が大きくなった分焚火の火力が心もとない。

今のうちに薪を取っておくことにした。

土台から下に降りると切り倒しておいた樹木のいくつかを聖剣で適当に分断する。

横に割ってから縦に割る。

そして台の上になげる。

後は縦にいくつかさらに分割して、先ほどリメイクした焚火改め暖炉のわきに積み上げて熱を当てて乾かしておく。

下着類も雨を浴びてぬれてしまったので絞って乾かす。

乾いた衣服を一通り身に着けて、本当になんというか。

肩の荷が下りたことを実感した。


聖騎士だとか、聖剣だとか。国の存亡だとか、怨敵の殲滅だとか。

そういった誰かに勝手に乗せられためんどくさいあれやこれやがない世界に来れたことの実感がやっとわいてきた気がする。

大きく深呼吸をして伸びをしてから座り込んで少し眠った。

雨はまだ降り続いている。

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