まんじゅうマジ怖い
饅頭怖いを改変したものです。
ですがむしろ、饅頭怖いの名残はわずかしか残ってません。
「申し訳ありません。 目的地に着いた安心感で、長旅の疲れが出てしまった様です」
「そうか。 江戸城へ登城する為に江戸の入り口を通った所で宿をとってもうすぐの所で、残念だな。
だが登城するまでにまだ数日ある。 今は休んでいると良い」
「本当に申し訳ありません」
「気にするな。 ひとまず精のつく物をかってきてやろう」
「助かります」
「うむ」
会話の中にあった通り、ここは江戸の端っこ。
参勤交代か何かは知らないけど、この侍達は江戸城へ用が有るらしい。
それで江戸まで遥々やってきたは良いけど、その中でも軟弱者と仲間内で陰口を叩かれている1番若い侍が倒れたそうだ。
なお当時の侍の口調など作者が知らないし分からないので、現代風の口調で進行します。 ご了承下さい。
それで宿の布団で横になっている若い侍は、襖を1枚挟んだ向こうで他の侍達の会話を聞いてしまった。
「アイツはどうだった?」
「多分長旅の疲れだろうって見立てで合ってると思う」
「そうか……だったら何かをかってきてやるか」
「鯉の生き血が薬になると聞いたが……」
「いや、そんなのはアイツに勿体無いだろう」
「だよなぁ。 じゃあどうするか」
「…………」
「…………」
なんて会話が聞こえるが、そこから急に不穏な流れへと変わってしまう。
「……なあ。 折角だし、アイツの嫌いな物を体にいいと言って持ってってやるのは、どうだ?」
「「良いねぇ」」
「でも、アイツの嫌いな物を知ってるか?」
「…………」
「…………」
「だよなぁ」
「アイツは今寝ているだろうし、悪夢でうなされて、何か寝言を言ってくれればなぁ」
なんてのも聞こえた若い侍は、ここでピンときた。
チャンスだと。
ここで好きな物を大嫌いな物として呻くフリをすれば、好きな物を持ってきてくれる!
――――そう言った悪知恵が働く所も、他の仲間の侍達から良く思われていない原因の1つであることを、この若い侍は知らない。
が、そこはひとまず置いておく。
若い侍が、悪夢でうなされている演技を上手く行う。
「うぅ……饅頭が…………怖い饅頭が列をなして迫ってくるぅ……!!
饅頭こわい饅頭こわい饅頭こわい饅頭こわい……」
そのいかにも説明臭いセリフだが、演技自体はとても上手く、他の侍達は疑わなかった。
「ほう、ちょうど良くうめきやがった」
「饅頭か。 この辺でも手に入るだろう」
「よし。 怖がらせるために、沢山集めてこようか」
なんの疑いも持たず、侍達は宿を飛び出して行った。
それに「ヒヒヒ、うまく行った」と気を良くした若い侍は、本当に倒れてしまった体を休めるために、目を閉じた。
〜〜〜〜〜〜
「ん…………」
目を開けると、そこには他の侍達が若い侍を心配して覗き込んでいた姿があった。
「体はどうだ?」
「疲れが幾らか取れたか?」
「もう少し寝ていても大丈夫だぞ?」
「…………ありがとうございます。 お陰様で少し楽になりました」
なんだかんだ言って本気で心配してくれる侍達を、若い侍は好きだった。 練習や訓練や修行と称して、若い侍をきつく扱いたり意地悪をしてこない限り。
「お前がそうして寝る前に言った通り、お前のために一杯かって来たぞ」
「そんなわざわざ……ありがとうございます」
そんな事を言ってくる侍達に感激して、お礼を言う若い侍。
だって意地悪されるのを聞いていて、それへの一計として対策し、若い侍の好きな物を持ってきてくれたのだから。
それを聞いてニコニコする他の侍達が言った。
「さあ、楽しんでくれ」
「ん?」
楽しむ?
嫌いな物を堪能しろって事か?
なんて若い侍は思ったが、でも食べ物なら“楽しむ”より“食べる”の方がより正解である。
だから楽しむがどんな意味なのか確かめるために寝ていた体を起こし、辺りを見回すと………………。
「うお…………」
周囲は生首だらけだった。
パッと見にして、およそ100。
なお首から垂れる血は、どうやったのか垂れていないので宿の畳は血で汚れていなかった。
若い侍が出した小さな驚きの声を聞いたのだろう。
他の侍達が自慢げに話す。
「お前が饅頭なんて言うから、嬉しくなってな」
「アレだろ? 海を隔てた向こうの国では儀式で川へ流すヒトの頭の事を、饅頭と言うのだろう?」※諸説あり
「だからこの周囲の民を、斬り捨て御免の名の下に我らが示現流で一太刀の下に首を狩って集めて回ったんだ」
この自慢話に若い侍は「そっちの饅頭じゃない!」と顔面を蒼白にして叫びたかったと言う。
学のある薩摩隼人、意地悪の規模がとんでもなかった。
饅頭の曲解は、間違いなく色々分かっててやった。
と言う、どうしようもないブラックなジョーク。
と同時に、方言は極力回避する方向で。
斬り捨て御免ですが、自分が聞いたのは一太刀で命を取れれば無罪。
取れなかったら逆に死罪。
そんな極端な話だったと聞きました。
一太刀で命を取れないのは、斬られた側を苦しめる事になるので。
とか言うトチ狂った理屈だからとか。
それが本当だったか、そもそも斬り捨て御免が本当に有ったのかは、自分は知らんです。
なお指摘を受けたので検索すると無礼討ちみたいなもので、無礼を働かれた証拠が無い場合でも斬るに値する理由が無かったとして武士の方が処罰を受けるみたいです。
ですが、自分がソース不明(覚えていない)で聞いたのが無礼討ちではなく、無差別に斬っちゃうやつだったので、そちらで。
と言うか複数人の武士の集団なら「一緒に行動していたが、あいつ(切り捨て御免された人)が斬った武士の悪口を言っていたから斬り捨て御免した」とみんなで証言すれば何でもアリなので、それの対策がなければ(機能していなければ)事実上ザル法……かも知れない。
あ、饅頭のは諸葛孔明起源説のですね。
儀式で使うヒトの頭の代わりに……と考案した肉饅頭がソレだとか。
そもそもが饅頭の事を蛮頭で、ばんとう。 それがなまって、まんとう。 それが更に変化して、まんじゅう だそうで。
最初はその肉まんも川へ流していたが、それでは勿体ないので、いつの間にかみんなで食べる決まりになったとか何とか。