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置物

作者: 永尾佳鈴

子供の頃、暗くて人気のない狭いアパートから引っ越してきた私にとって、壮大に開拓されたその土地は、光輝き新天地に導かれた如くに眩く明るく日の光に照らされていた。まだ私は目が慣れていなかったので、当分の間、日中でも眩しそうに目を細めて日の光に抵抗していた。そのうち、誰かが自転車で私の新居に近寄ってきて、親しく話しかけられたという初めての経験をした。私は自然と笑みがこぼれた。嬉しかった。すべてが新鮮で大事件だ。その子は、リコちゃんと言って聞きなれない方言を話すので、覚えることに全神経を総動員させて、必死に習得を試みることにした。私は当時三歳で、友達という存在はまだよく知らないで居たが、リコちゃんという子は、そんなことつゆ知らず、お構いなしにやってきて、すぐ慣れ親しんできて自然に話しをしてきた。リコちゃんは、ひょうきんで楽しくて進んでたし、明るかった。私は、すぐ好きになったが、あまりに自然な成り行きで、どう好きでいたのか今一つはっきりしていない。そのうち、リコちゃんの家を知り、そうこうするうちに、その向かい側に家が建てられて、同じ年頃の女の子が住むようになるまで、とんとんと、事が進んだ。もう一人の、女の子は、清ちゃんという子だった。

そのうち三人でよく遊ぶようになると、リコちゃんが時々私を仲間はずれにした。清ちゃんは、おとなしくてリコちゃんの言う通りだった。お陰で私は負けん気が強くなった。五歳になって保育園に上がってもリコちゃんの癖は続いた。たとえば、お昼寝の時間の布団を私だけ遠くに敷かれたりといった具合に。

保育園に上がってからは、リコちゃんと私の知恵比べの毎日だった。リコちゃんは頭がいいらしく、何かと知恵を使って悪ふざけをするようにもなってきたが、他に仲間外れをする以外は人気者で好かれていた。清ちゃんは、そんなリコちゃんにべったりだった。私はリコちゃんの悪さに怒ったりしながら、どうしたら悪さに引っ掛からず清ちゃんとも一緒になれるか考えさせられた。先生の目は役に立たない。自分にしか何ともできないことだった。

小学校に入ると、リコちゃんの悪ふざけは少々度が過ぎた。私のランドセルは押しつぶされへんな形になり、独りきりで片道三キロを帰る日もあった。そうはいっても、小学校から、新たに引っ越してきた玲ちゃんという子が時々味方になってくれたことで、幾分か救われた。玲ちゃんは私の家の近くに引っ越してきていた。リコちゃんは清ちゃんを子分の様に連れて歩いて帰った。玲ちゃんは、私とその様子を見ながら、清ちゃんがかわいそうとか、リコちゃんは良くないだとか、言っている日が毎回訪れた。私は加担はしなかった。意地悪されたら困るけれど、その他の感情は湧いてこなかったのだ。ただ、何もされなければ、平穏で居られた。それ程に、リコちゃんのやり方はエスカレートしていた。


ある日を境に、玲ちゃんは私と清ちゃんと、対リコに対する組織を作った。小学五年生になった私たちは、言う事もそれなりに言え、行動もそれなりにとる様になっていた。リコは弱ったが、私達組織は強力だった故、三人対独りになったので、リコは孤独の内に独りで学校から帰るようになっていった。私はそんなリコをかわいそうだと思ったが、玲ちゃんは、正義による闘志をみなぎらせていた。玲ちゃんが、リコを避けずむ言葉を、清は同意だけし続け、私は肯定だけし続けていたような気がする。殆ど玲ちゃんによるリコへの抗議による諍いだった。玲ちゃんは正義感が強く友達思いだったのだが、少々度が過ぎたと思う。リコは孤独の内に約二年打ちひしがれていた。二年後には、とうとう私が余りにも後ろめたさとリコが可哀そうで見てられなかったので、玲ちゃんに許してあげてほしいと申し出たのだった。リコはわがまますぎたのが良くなかったのだろう。二年も月日がたった後だったが、ぎこちないながらも私たちは距離を縮めていけた。リコは持ち前のひょうきんさを取り戻し、おどけたり砕けたりして、元のリコらしくなっていった。


そうこうする内に、私は清ちゃんの家で遊んでいた時、廊下に何本も傷をつけたのだろうか。今思うとそれが原因のような気がする。当時の私は知らずにいたのだが、ある日を境に清ちゃんのものすごい怒りに私はおののき、絶縁をされてしまう。理由が分からないので、意味もなく謝るが、酷く怒っていたのでとても太刀打ちできる状況じゃなかった。このことは、後々苦い思い出となり、消えることがない。玲ちゃんは、清ちゃんの友達なので清ちゃんと一緒に行動するようになった。私は、独りで居るようになり、見かねたクラスの先生が中学でリコと同じクラスにしてくれた。遠目から見ても、私の孤独な有様は労わりを受けるほどだったらしい。いつも一人で居た。リコは普通にいてくれたけど。


そうはいっても、思春期が、私の孤独を一層強くした。中学に入ってから、私は友達が一人も居ず、自分から同じクラスになったリコからも距離を置き、孤独に耐えた。そうこうする内に、清ちゃんが引っ越すことを知り、幼馴染だけによけいにつらく、耐え切った。年頃になり、へそ曲がりにもなったと思う。頑固に孤独を貫いたのだった。今思うと、この時が人生で一番辛かった。


やがて、清ちゃんとは、二度と会うことがなくなり、リコちゃん玲ちゃんとも疎遠になってしまった。



ある日の夕方。私は今では結婚して子供がいる。久々に実家に帰ったら目の前を犬を連れて走ってくる人がいた。

「いつもこの辺走っているのよ」とその人は言いながら行ってしまっていた。

相手は知ってか知らずか、私は覚えている。遠い昔、ここで出会った、リコだった。

早いもので、わたし達は、もう彼是四十歳になろうとしている。

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