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8.命の軽い世界



 …説明されれば、不思議と理解出来てしまう内容であった。


 純人(ナチュレ)/造人(クリエ)はこの世界に生きる人間。荒は少なくともクリエらしい。錠剤炉心(パナケイア)はカミサマから賜われる継続的な『不死』を体現する為の妙薬。


 カミサマは要約するならば『願いを叶えてくれる存在』。…難しい事のない、単純にして明快な構造の世界。


 けれども、同時に()()()()()()世界だと、理都は理解を拒んだ。





 「……命を粗末に出来るって事…じゃないですか…」


 「それも正解だ。此処はその粗末にされた命の『廃棄場所』。サイハテなんて銘打っちゃいるが、要は()()()()()なんだよ、此処は」





 死ぬのは怖い。故に世界は、その根源的な恐怖を排斥したのだろう。


 この世界には幽霊も外宇宙的な恐怖を揺るがす神性も無い。見ず知らずの存在に臆する事無く、無謀と勇気の境目も存在しない。怒りも、悲しみも、それによって引き起こされる悲劇も、『カミサマ』が受け入れた上で拒絶される。


 その結果、生まれたのは『命』がこの上なく軽いこの有り様だった。



 「……理想郷で誰かが死ねば、『死にたくない』と願えば生き返る。そのまま死にたい奴は終わりを迎える。


 本来であれば…その選択は一方的で選び様のない絶対的なモノだ。そうでなくてはならない」



 荒の言葉を、ジャンクが拾って続ける。



 「選べるようになった、『人』を唄う住民共(やつら)は既に人じゃねェ。苦悩も恐怖も覚悟も無くて、同じような顔立ち。人の腕を容易く外せる馬鹿力と、ただ盲信するだけの取ってつけたような性格。


 ……人の形をしているだけの異形だ、あんなモンは」


 「……」






 『カミサマへの否定をこれ以上重ねてはならない。折角の願いが穢れてしまうだろう?』





 フラッシュバックする記憶と、住人の言葉。


 姿形は同じ人である筈なのに、確かに感じ取った説明し難い『ズレ』。連ね束ねこそするものの、一切が空を切る程軽い、滅裂な言動。


 度し難い世界に降り立ち、暫くの間は喘鳴に構わず逃げ続けていた。━━その理由は、嫌悪は。理都の悪心を煽り立てる。



 「っ……うぇ…」


 「っと……荒、コイツを彼女に」


 「うおっ!? りょ、了解」



 次へ次へと場面が転回し、泣く暇も吐き気に駆られる暇も無かった。此処に来て即座、目の当たりにしたのは一人の『死』。


 肉体を突き破る花が、形容を拒否する音を立てながら一輪、一輪と芽を開き、その度に人体を内側から裂いてを繰り返し、痙攣しながら━━






 「うぇっ……ゴホッ…!!」


 「…何見てきたんだお前」





 荒に背中を擦られ、口元に袋を当てながらも、理都の頭の中で一つ、一つと繋がっていく。


 根本的な恐怖を消せたとしても、『許さない』と何かを断罪する基準があるならばそれ以外の基準もある筈だ。身体を捻じ切れる程の力があるならばそれにも理由がある筈だ。願いが叶うならば、限られた中で誰かの死を願える筈だ。


 ━━命を粗末に出来るならば、『娯楽』で人を殺す者も間違いなく居る筈だ。




 「……私も、ホントは殺されてたかもしれません」




 『その為に私が呼ばれた可能性も、ゼロではない筈だ』。


 彼女なりの答えは、背中を擦る荒の手を求めた。血の気の引いた、最低限度しか感じられない体温。荒に微かに伝わったのか、此処まで彼女に無頓着だった荒は温もりを分けるかの様に、彼女の手を握り返す。



 「…もうちょっと休め。精神的にはまだ回復してねーんだろうさ。


 ナチュレでもクリエでもない。この世界の人間じゃないのなら尚更、その命は重い。…住民共(やつら)のオモチャになんかさせねーよ」

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