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6.月下に微睡む




 「……アンタねぇ…私を守るのか傷付けるのかどっちなのよ…っ!」



 涙目を一層腫らし、荒を睨む理都。彼女からすれば傷口を安直に抉られた上、苦悶に歪んだ自らを出汁に使われているも同然だった。


 腕を抑える彼女の額には冷や汗が滲んでいる。ビルに吹く弱い風は容赦なく濡れた服を冷やし、体温を奪っていく。


 ユーシャと顔を合わせるジャンクは強面を崩し、薄布を用意すると『無いよりマシ』と理都の肩に掛けた。



 「まぁ、よく吠えたって所だ」


 「イヤミかテメー」


 「悪かったっての……保護するに値すると認めるさ。怪我の様子も分からねーとなりゃ、物資も追加しねェとな」


 「当然だ。ユーシャ、理都を頼んだ。


 俺とジャンクは『残業』だ」




 『どうせカミサマには敵わない』


 世界全体がたった三から四の集団未満を嘲り、そう拒んでいるからこそ。目下に広がる眩さは変わらず摩天楼の上からの抵抗を許容していた。



 「いってらっしゃい。……リツさんは後で着替えよう。ボクの服を貸してあげる」


 「そっ…そこまでしてくれなくても良い!ほんとに!!……って…その……」


 「二人が行ってから。ボクは女だから気にしないで大丈夫」








 「……気合入んねー」


 「入んねェなら一発入れてやろうか?」


 「洒落になってねーよタコ」



 さて、どのように噛み付き、千切り、喰らおうか。……そんな風に考える雰囲気を、ユーシャと理都の緩くデリケートな会話が瓦解させる。


 ビル風は相変わらず弱々しく、時折肩を強く撫でる。眼差しの先にいるであろう『人』を前にやる気を削がれた荒はガラの悪い座り方で身体を屈めるが、それを許すまじとジャンクの右手で雷電を弾く。



 「━━ジャンク、ロストマキアじゃ力不足だとか何とか抜かしてたろ」


 「……テメェ、いつから居やがったんだ」


 「力不足なんかじゃない。こんなモン、『人』に向けて良いもんじゃないんだ」



 言葉を遮ろうとしたが、逆にジャンクの言葉が塞がれる。それ以上の卑下を許そうとしない荒の言葉は、至極強いモノだった。



 「人間は『死を克服しちゃならなかった』。した結果、狂ってることにすら気付けなくなった怪物だらけになっちまった」



 腰に携える疑似再現機構(ロストマキア)を抜刀する荒。刀身の纏う灼熱は時を問わず、空を揺らす。



 「俺等は違う。ロストマキアの恐ろしさを知っている。何十何百を一瞬で屠れるコイツが規格外な兵器だと、恐怖を知っている。……俺等こそが人間で、()()()()は違う」



 その直後。造られたような赤髪が一瞬、月明かりに照らされて僅かに輝く。ほんの僅か、時間にして秒にすら満たない刹那。


 『回路』を彷彿とさせる罫線が、荒の顔に刻まれる。それは勿論、理都の目にも映る。


 錯覚ではない。傷跡とも思えた顔の刻印が確かに閃光を伴って、得物と呼応していたのだ。



 「例えこっから先()()()()がどうなろうと、俺等は人間としてこの理想郷を否定する。『理想郷は此処じゃない』と吠え続けて生き延びる。


 リーダーのアンタが弱気になっちゃ困んだよ、俺等がな」



 ジャンクの吐いた弱音を掘り返し、奮起の為の種火とした様な荒の言動。そこには何処か、何処かに間違いなく自虐的な意図が含まれていた。


 同時に、信頼もあった。『弱気になるな』と焚き付けられた以上は、言葉の矛先を向けられる彼も黙っていられない。靡く結んだ銀髪を、発現した外骨格(ロストマキア)で包み込む。



 「…もう一遍言ってやるよ、『よく吠えた』じゃねェか」


 「おうおう、ずっとそうやって尖っていてくれ…よっと!!」



 荒、そしてジャンク。二つの光を伴った影が天地を往来すると、数刻と経たない内に音が軋んだ。捻れた。炸裂した。彼等の口にした兵器が、下にいる人の形をした怪物を蹂躙する度に、音は激しさを増した。


 けれども、理都はその状況を呑み込めなかった。断片的に印象に残った言葉が脳裏を漂うだけで、それ以外を整然と処理するだけの余裕がない。


 体力も、精神も、既に底に達している。身体の警告に身を委ねるよう、彼女の視界は次第に狭まっていった。



 「(……これ…夢だったらなぁ………)」

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