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5.歪曲な証明



 「(……辛気臭ぇ話してやがるから、出ていき辛いだろうが…)」


 「ちょ、ちょっと。なんで行かないの?探してる人達って絶対…」


 「バカッ…!声デケーんだよお前っ…!」



 …そんな傍ら。ユーシャが来る少し前に到着していたモノの、重苦しい雰囲気を前に足踏みをしている荒と、彼に背負われている理都。粗野な彼にも空気を読むだけの良心があるのか、それとも要らぬ探りを入れたからか。何故だか二人を見つめる彼の頬は赤く染まっている。


 なるべく声を小さく理都を嗜めるが、残念な事にこの会話は全てジャンク達には届いている。



 「馬鹿はどっちだ。全部聞こえてんぞ荒ァ?


 それと━━、背中のソイツは誰だ」


 「っ……!」



 理都の身体が緊張する。一瞬フランクに会話が続いたと思えば、自身に移したジャンクの視線は、間違いなく『敵』として認識していた。


 襲われた所を助けられたばかりの彼女にとって、それは些か刺激の強い洗礼だった。荒の肩を掴む力は強く、そして震えを伴い始める。



 「……下で住民に襲われてたのを俺が助けた。大丈夫、害は間違いなく無い」


 「ならその理由を教えろ。住民共(あいつら)の悪辣さはお前だって知ってるだろうが。


  足元を掬われりゃ俺達は全滅する。確実にだ。……だから此処でソイツが無害だと証明しろ」



 沈黙する荒。ぶつかり合うのはいつもの事の筈なのに、今の一幕に流れる空気は二人の間柄をいつ両断してもおかしく無い。敵地の中心、露払いをしたとて油断する事をジャンクら許さない。


 かといって、荒には証明する手立ては無い。出会って間もない以上説明する事すら出来ない。





 「……何ビビってやがんだガラクタ野郎。テメーが凄んでブルってるコイツを見て、何か裏がある様に見えるかよ」


 「あぁ。俺達は此処じゃ無力に等しいんだ。臆病にもなるぜ。…で、テメェこそどうなんだよ。俺に噛み付いて、弁明の一つでも思いついたかよ?」






 故に、噛み付く事しか出来ない。通す筋も正論もなく、荒はジャンクの威圧に立ち並び、引き下がり続ける。


 かろうじて繋がった命。繋げたのは荒の一太刀。いくら彼が粗野で辛辣な性格をしていても、自らの選択と責任で掴んだ手は決して、離す事は無い。



 ━━言っても聞かぬならば、『致し方無し』と。彼は仲間の目の前で得物に手を掛ける。







     「━━━あのっ!!」






 ……話の中心である、理都が沈黙を裂く。言うまでもなく荒の背後で張り上げた大声は、彼の得物ではなく度肝を容易く抜かすに至った。



 「私…気が付いたら此処に居ました。その…信じられないかも知れないですけど、私…本来この世界の人間じゃないんです。もっと平和というか…似たような街並みはあったけど、こんな不夜城みたいな感じじゃなかったし…その……」


 「……良いよ、続けて」



 声はユーシャにも届いて居たのか、緊張を解すかの様にジャンクの傍らから二人の声とは明らかに違う声色が理都の耳に届く。


 ……かといって戸惑いはすぐに消える事は無く、整い過ぎた造形を前に理都は目を合わせられなかった。



 「私が居た世界で…人があんな死に方したら一週間はニュースが鳴り止まないだろうし…。


 嫌な夢だって言い聞かせながら逃げて…走って…。捕まって逃げられないと諦めた瞬間、彼が助けてくれたんです。だから……」


 「それを無条件に、事実だと呑み込めと。…君の言い分はそう受け取られても仕方が無いぞ」



 口を紡ぐ理都。対峙するジャンクの言葉は、以外にも高圧的にはならなかった。彼女の意見を汲み、否定こそしない。けれども納得する事は明確に拒絶していた。


 ジャンクが求めているのは説明ではなく『証明』だ。彼女が自らの口で説明をした所で受け入れられる事は無く、事実であったとしても彼は理都を優しく突き放すだろう。





 「……いくら何でも意地が悪過ぎんだろ」


 「あ?」



 片耳を抑えながら理都を庇うように立ち上がり、ジャンクに詰め寄る荒。



 「ちょ……いっつッ!?」


 「コイツのデケー声で発破掛けられたお陰で一つ、思い出した事がある。…コイツ怪我してんだよ」



 掴んだのは彼女の腕。まともな処置を施していない負傷した腕は熱を帯び、痛みが彼女の口から嗚咽を漏らす。



 「……腕か」


 「関節か、骨のどちらかがイカれてる。俺が介入した時にはもうこうなってた。


 コイツは住民から逃げようとしていた。首を落とせば明日には元通り。命の尊厳なんてモノの無いこの場所で、コイツには恐怖がある。


 痛い時に痛いと吠え、危機に瀕せば恐怖する。人間らしい感情は証明になるだろ」



 「コイツは……理都は住民共(あいつら)とは違う」




 『これだけは、たとえ刺し違えてでも、押し通す』。


 彼の眼差しはジャンクを捉えてそう語る。求めるのならばくれてやると言わんばかりに、この世界において排斥された苦痛を、理都の『尊厳』として荒は証明した。


 



 ……沈黙の末、ジャンクは口を開く。





 「…荒、そろそろ離してやれ。痛いだろ、それ」


 「あ?」

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