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◇36.暗赤色の先行き(3)




 「…我儘だと思われても、仕方ない事だった」


 「自覚があるみてェで何よりだ」


 「時間も無いみたいだしな」


 「何が言いてェんだ、クソガキ」 



 『いい加減しろ』。そんな顔色が荒の背中を冷たく押す。不貞腐れた顔と態度、己に踏ん切りをつけるべくして、荒は自らの頬を思い切り、強く叩く。


 当然顔に滲む涙。呆れて眉をハの字に向けるジャンクと、少しだけ調子の戻った荒の様子を目の当たりにして、ユーシャが少し微笑む。


  

 「……こんなのは戯言だから。言った所でアンタが首を縦に振ると思えなかったんだ。何せさっきまで、俺は炎に呑まれて寝込んでいた身だ。頭の何処かにガタが来たと思われて『ハイおしまい』…そんな風に棄却されるって」


 「ジャンクならそうするね」


 「ユーシャテメェなぁ……」


 「ははっ。…ぶっきらぼうな物言いで責め立ててはいるけど、普段のアンタは感情よりも合理性で動く男だ。それが『こんな』になるまで追い込まれた。…なら尚更、戯言は聞き入れられない。可能性に掛けたけど、俺も俺で退けなかった。


 ……ごめん、抱え込んで」



 先の強行に対して孕んだ恨み言を吐き捨てるかと思えば、力なく言葉にしたのはジャンクへの多面的な信頼だった。だからこそ、虚を突かれたジャンクの顔からは一瞬、表情が固くなる。


 別の角度から受け取れば、確かにそれは皮肉交じりな恨み言にも聞こえる。しかし、何よりも『リーダー』として我を貫き、咄嗟に判断する彼を荒もまた信用していた。故に、彼は空耳かもしれない『声』を交渉材料として出せなかった。



 「…そうだな、俺はテメェ等を率いる、徒党ライフラインのリーダーだ。悠長に考える事も、考えなしに適当に即決するのも許しはしねェ。かといって素っ頓狂な事を言われちまえば、事を急いで却下したかもしれない。待ったも無しにな」


 「荒も、ボクも。…ジャンクをちゃんと信頼してる。でも、すべてをオープンに話せるリユウにはならない。…ジャンクはそのあたりの融通がきかないからね」


 「(なんか俺には手厳しいなコイツ……)」


 

 辛口な評価を横に、既に事切れてしまっている生命線でんげんの内側にレンチを噛ましながら、ジャンクはナットを緩め始める。辛うじて使える汎用品と、流用素材として最低限の加工が出来る部品を得るのが目的であった。それがダメ元であったとしても、手持ち無沙汰の解消が目的だとしても。何が理由であっても、彼は工具を手に取った。


 矢継ぎ早に荒はジャンクに問い掛ける。



 「…今のジャンクは…アンタは俺の言う事を信じるかよ」


 「信じるさ。…じゃねェと、テメェはテコでも動きそうに無い。つか仲間ユーシャからの視線が痛ェし、此処で断ったら何されるか分かったもんじゃねェ」



 緩め終わったナットを、側に屈んで荒は拾う。一つ外れればもう一つ。『ソケットとラチェットを取れ』と言われればミリ数を切り返し、指定の大きさの工具を渡す。


 生きる為に幾度と無く繰り返したルーティンを熟す二人の背中が、見守る一人の背中が。この徒党の一つの信頼の形であった。


 顔を合わせずとも、押された背中を『受け止めてくれる』と。



 「……『緋熾ヴルカーノ』と、話す事が出来た。壊れたのは事実だけど、まだ()()()()()()


 「何だと!?それは本当かッ!?」


 「わざとらしいんじゃテメェこのガラクタ野郎」


 「コッチはお求めの品物を差し出しただけだボケガキ」


 「なら面構えも所作も細部まで丁寧にしてからお出ししろや」




 ……等と、いつも通りの、彼等にとっての日常が僅かに里帰りしたかの様に、空気が切っ掛けを得てか、和み始める。




 「そうか。……確かに、その話をさっきみたいな状態では、聞き入れられなかったかもしれねぇな。


 疑似再現機構ロストマキアは元々『理想郷うえ』のモンだ。アイツ等の作り上げた産物だとしたら、俺等でも要領を得ないナニかがあるのかもしれん。そこに荒は触れたって事だ」


 「……どうかな。ほんの一瞬だけ、だったからさ。それでも目覚めて、俺が緋熾ヴルカーノに触れようとしたら、『コイツは死んでない』って……。


 でも、そう考えるとおかしいんだよな…。『()()()()死んでない』って物言いは、緋熾ヴルカーノを差してナニかが言っている」


 「聞き間違え、だとするとどうだ?よく思い出してみろ。お前の話を聞くに、俺は『目覚める前にも何か話していた』と踏んでいるが、どうなんだ?


 だがそうなると、『夢』とかの類の話になる。思い出せって方が酷か……」



 荒自身も、その指摘には腑に落ちる所がある。納得はする。…しかし、同時に『夢』だという部分を思い出す事は難しいと、ジャンクの言葉をなぞる様に頭を抱え始める。



 「……何か、『名前』を言ってたような」





















 『ありゃ?ワシは確かに名前を告げた筈だがなァ?友人』


 「ッ!?」





 ━━抱えた頭に、ふと『火』が灯り始めた。綻んだ穴が突如として埋まる感覚が、荒を支配し始める。

 

 

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