30.朧の中で目を覚ます(2)
「……こんな事、言いたかねェんだがよ。荒」
「…………」
バツの悪そうな表情で、数分の沈黙を破ったジャンクが続ける。
「理都が、仮に生きていたとしてもだ。俺達の素知らぬ所で蘇った彼女が、また同じ様な形で味方になるとは思えない。……あの悪趣味な御使いの事だ。後は言わなくても分かるだろ?」
「色々な憶測が立てられる。しかもそれは全て最悪な矛先を向いている。……もう、忘れた方が楽だ。玄絲も真の意味で弔われたと、そうやってスイッチを切り替えないとな。
━━踊らされて、幻影を追いかけて死ぬのが一番馬鹿げているだろ」
荒は依然として黙り込んだまま、目線を逸らす為に俯いている。
全霊と命を投げ捨てても間に合わなかった命が再生し、その結果として毒や白刃となって自らに降り注ぐ危険性。それらを考慮しない事は、最も情けない惰弱な選択といえるだろう。人が容易く死に、容易く蘇るこの世界において、それは『現実』と同時に『摂理』とも言えた。
「(……カラダが熱いのに、震えてる。病み上がりで体調が優れないのは当然として、今度は理都を『自分の手』で始末する。その場面が訪れるかもしれない可能性への恐怖が、きっと荒の中にはある)……荒…」
……目の当たりにした上で、理解した上で。その最果てに考えられる一つの可能性を、強く忌避して認められないでいた。
「━━ほれ」
「…!」
突如差し出されたのは、嗜好品の缶コーヒー。あまりにも冷たい容器は結露で濡れていて、触れた瞬間に荒の意識はそっちへと移った。
「キンキンに冷やしてある。あんだけ炎に包まれてたんだ、喉乾いてるだろ?」
「いやいや…『喉乾いてる?』が口実ならフツーは水とか出すもんでしょ。真っ先に取らせるものがカフェインって……」
「要らねェなら飲んじまうぞ?」
「要らねぇとは言ってねぇ」
『火照りがまだ収まらない、そういう事にしておいてやる』。言葉にこそしないが、ジャンクは荒の赤らんだ顔を見て笑顔を含ませる。あの場で存在を焼却されていれば、こんなやり取りすらも奪われてしまう。
だから、ジャンクは心から笑う。心が浮つく程に安堵を感じている。
対する荒。ジャンクの珍しい笑顔を尻目にプルタブを軽く開けると、冷えたコーヒーを喉へと一気に流し込んだ。
「(……俺は…やれるのか……。『その時』がもし訪れたのなら……理都を…)」
かつて彼女に突きつけた現実が、自分自身への牙となって返ってくる。だから今一度、荒は己に対して問い掛ける。
「(━━いや、出来るかどうかじゃない。答えはアイツがもう出してるじゃねぇか)」
「(『させない』。……難しいのは行動に移す事。アイツ自身にエラそうに口出しして、俺が出来ねぇんじゃ笑われるってもんだ)」
彼の視線の先にあるのは、自らの得物である『緋熾』。冷えて冷静になった頭に、思考の火は容易く灯り始める。




