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3.乱暴な少年と強気な少女


 「どうするっ……て…」



 困惑が脳裏に巡る。息をつく間も無く委ねられたのは『次はどうするか』の選択だった。無論猶予など与えられる訳もなく、その眼差しは直ぐ様の回答を欲している。


 …踏み込めない。決められない。此処で一度奮起した所で、選択を肯定するモノも保証するモノも無い。

 なれば回答は待てども出ず。少年の短い気はすぐに痺れを切らす。



 「結構トロいな、お前。そんなに迷う事でもねぇだろ。死に目に遭った時点でお前にゃ害悪なヤツしかいねぇって分かんだろ?」



 蔑ろな言葉。負傷者に対して、ましてやこれから無惨の矛先に貫かれる目前だった彼女には適さない不満の言葉が注がれる。


 …彼は続けた。



 「俺達には時間がねぇ。こうしてる間にも理想郷の防衛機能が動き始める。…そもそもお前が『奴等側じゃない』事が分かってなけりゃ、助け舟なんか出さねぇんだよ」


 「え……?」


 「助かりたいか、助かりたくないか。後者を選ぶなら勝手だ。機会ならそこら中に……」



 続ける彼を、彼女は阻む。


 生きている腕でしがみつき、箔の押された安堵にやっと腰を落ち着けたのか、引き攣った泣き声は留まる事を知らなかった。


 



 「たすっ……助けて下さい゛っ…!!周りの人達皆おかしくてっ…何とか逃げ出したのに此処で捕まって……!!」




 あと一歩、一刻が遅ければ、気狂いの果てに我を放棄していたかもしれない。正気を自らの手で砕いていたか、或いは砕かれていたかもしれない。事実、手を下した彼をすぐに信用する事が出来なかった。


 …しかし。やっと。


 やっと『味方』が見つかったという確証を得られた。たった一言だけでも光明を確かに見た。だからこそ泣いて、泣いて、どうしようもなくなった。



 「あーあー分かった分かった。後はもう何も考えんな。すぐに帰してやる」



 しかし、そんな彼女との対比を示すかの如く、静謐に一切の干渉をしない少年。阻む彼女の片腕を解くと即身体に手を掛け、彼女の身体を持ち上げる。



 「えっ……っいつ!!」


 「お前、名前は?」



 少女は助ける。けれども体調や症状なんかはお構い無し。この男、性格が捻くれ過ぎていた。



 「ちょっと待…そっちの腕今っ…!!」


 「あぁ、怪我してたのか。……っと」


 「っぁあ!!もう少し優しく……」


 「逐一喧しいな。向こうで治してやるから少しは我慢してくれ。それよりも名前だ、それ位は分かんだろ」



 捻れた方の腕に負荷が掛かろうとも、『そんなことよりも名前が先』と言わんばかりに少年は尋ねる。



 「…理都(リツ)だけど、そうじゃなくてもっと優しく…!」


 「俺は(アラ)。これから仲間と合流するから口閉じてな。『そんな事すら言えなくなる』」


 「え━━━━っ」



 一体、どんな種を仕込んだのか。中心線や軸なんかの身体諸共に、摩天楼の中腹まで『引き上げられた』ようだった。


 爆弾?火薬?そのどちらにも当てはまらない、小規模の熱量と見合わない衝撃と威力。炸裂した迸る熱を感じたと思えば、中腹から中腹までを延々と跳梁する。


 『何故?どういう理屈で?』等という思考が巡る内に。



 少年(アラ)少女(リツ)の姿は、月に照らされていた。

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