19.白の御使い(1)
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「さーて。こんだけやれば少しは整頓デキたかな?…やれとは言われて無いけど、ゴミ処理場を綺麗にする位なら許されるでしょ。探しやすくもなる…確か一石二鳥って言うんだったかな?」
純白に身を包む白銀の青年が、か細い彫刻が如し指を鳴らすと空が『夜』から『昼』へと姿を変える。
天上にて人影は嗤う。残り滓に根を張り続ける者達の『生きたい』という願いは、人影にとって『汚い』に変換される。何故なら其処は、底は。ガラクタの廃棄場所でしかないのだから。
サイハテを見下すその視線には侮蔑すらもない。たかだか塵芥を処理するのに浪費する感情を、純白の人影は持ち合わせていない。……さもそれが当然だと言わんばかりに、その人影の双眸は閉ざされたままだった。
「まー、言われてるコトはこなさないとね。
おーい。居るんでしょう?悪い事は言わないし、これ以上の攻撃をするつもりだってない。だから出て来てくれると僕としてもヒジョーに楽なんだけどなー」
━━━━返事はない。
「……やり過ぎちゃった?もしかして。流石に度が過ぎちゃったかなぁ………言われてないコトまでするからってバチかー?」
開けた空には珍しく白雲が群れを為しており、サイハテでは久しく見えなかった青空が広がる。
白い人の━━、青年の独り言は空へと霧散する。瓦礫と靴底の擦れる音が聞こえるだけの静謐な場所には、既に人の痕跡も残されていなかった。
「うわぁ……こりゃ参った。他の皆に何て言ったら良いんだろう。うっかり特権に巻き込んでしまったって正直に言うべきかなぁ……。正直が一番だよなぁ……うん……」
「……………………ん?」
━━ふと、華奢な身体に『熱』を感じた。
『熱』を感じたと思えば、それが『火』であると分かった。
『火』だと分かった途端、それは青年の目の前で万象を薙ぎ払わんとする『業火』へと変化した。
五体四肢しかない形一つを屠るにはあまりにも大きすぎる、慈悲をも焼き尽くした残酷な緋色は瞬く間に土台ごと青年を呑み込んだ。
「あぁー…。懐かしいね、それ」
「……………ッ」
呑み込んだ。━━ただ、それだけだった。
焼却する為の、破砕する為の業火はその役目を果たした。周囲の土台は瓦礫を経て礫となり、礫を経て塵芥となって空へと吹き上がる。
……が、青年の命を奪う事は無かった。衣服の一つも焦がす事なく、荒もまた分かっていたかのように奥歯を噛み締め、刀身を構え直す。
「確か疑似再現機構……だったっけな。中でもソレは熱、閃光、音の三位一体を兼ねた『爆発』を権能として持つ、近接戦装備類『緋熾』。
かつての主力兵器の一角だったが、もう廃棄されて久しいなぁ。過剰供給による増強も今じゃかなり効率化された。……随分旧いだろう、それも。その戦い方も」
「…黙れ。テメーの能書きをこれ以上聞かせるな」
「おいおい物騒だなぁ。何をそんなカリカリしてるのさ?まだお互い何もしてないだろ?」
対峙する二人の合間には強い敵意が渦を為す。荒が底無しの殺意を差し向ければ、青年はこれ見よがしに抉れた土台に向けて両手を拡げ、悪意を以て逆しまにそれを煽り立てる。
「『黙れ』じゃない。━━廃棄物共が喚き散らすな」
「‥!」
瞬間、青年の纏う透き通った空気が豹変する。
「意志を持つな。希望を持つな。心を持つな。貴様達にとってはモノを望む事すらも至高の美酒と知れ。知覚せよ。 有象無象にも下賤にも届かぬ骸芥は、早々に『忘れ去られる』という責務を果たせ。
…それが貴様達に唯一許された正義であり、役割なんだよ」
否定。否定。否定。
意志を。理由を。証明を。存在を。其処に立つ事すらも許さぬと、白い青年は続ける。
サイハテは街に非ず。元来より理想郷の外側に『廃棄場所』として存在を許されただけの区画。根を張り生を掴む事も、隣人と共に歩む事も全てが間違いなのだと、静かに威圧する。
……しかし。
「へっ、ソイツは無いモノねだり……『僻み』ってヤツか?
━━意志も、希望も、心も。テメー等とうの昔に全部捨てちまったんだもんなぁ?」
決して荒は怯む事は無い。
彼にとって青年は、忌むべき『仇敵』なのだから。




