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16.『人』に拘る理由



 「俺達は最初から、死んだも同然の存在だ」


 「…!」



 沈黙と一度の深呼吸の末、再びジャンクは口を開いた。



 「長く、長く落ちた上で痛みが全身をのたうち回り、遮断されなかった意識を恨みながら暫くを過ごした。此処に生きる奴等は、それが『最初』だ。だから殆どは廃棄場で、廃棄処理された芥として生きていく事を諦める。


 死を克服したが故の愚策、愚行。…『個体の厳選』によって、人である普遍すらもこの世界では奪われちまった。親の顔なんて見た事もねェし、理想郷(あそこ)に行きゃ同じ顔の二つや三つはウンザリする程居やがる。


 ……それをお前はどう思う。理都」


 「…私にとっては、異質で異常です」



 複製体(クローン)でもない、双子や三つ子なんてモノでもない。倫理の遥か外側を往くかの如く横行する酷の極み、この世界の支柱の一つを腐らせた命の選別。


 より良質を求める優生思想、それを抱いた者がどの様な末路を辿ったかを理都もまた理解していたからこそ、即座に答える事が出来た。あってはならない事だと。



 「良質に良質を求めた結果…『理想郷』は今や怪物の街だァ。どんだけ俺等が間違ってると吠えようが、彼処(あそこ)に住まうのが『人間』ってのが現実なんだよ。


 悩まず、飢えず、戦わず。必要の無くなった物は『旧い』と、かつて奴等が生み出した武器すらも棄てられた。それが玄絲(アラクネ)緋熾(ヴルカーノ)みたいな、ロストマキアだ」



 「……………」



 「こんな物騒な兵器を奮ってまで人に拘るのは意地であり、普遍を望む願望であり、此処に積み重なる芥となっていった同胞の分も抱えてる誇り…矜持。無念。


 形容しようと思えば色々と出てくる、雪辱の塊さ」



 ジャンクの回答が終わる。彼等(ライフライン)のリーダーとして、存在を否定された物として、認められなかった芥を乗り越えた者として。彼は同じくして捨てられた雷霆を奮う人殺しとなった。



 「お前の世界は違うんだよな。命を重く扱う…此処とは真逆の光景が広がっている。……生まれるのなら、そっちが良かったぜ」


 「…そんな事無いです。戦いはあったし、型にハマる事を『自由』として謳ったり。人間関係も面倒臭くて良い事なんてない。願う事なんか、そうそう叶うことなんて無いんですから」



 彼女は語る。



 彼女の世界は命を尊んだ。億に至る群像の一つ一つを唯一無二として愛を育んだ。


 けれども人は争う事をやめなかった。それが本能だと謳うが如く、あらゆる理由を以てして殺戮を正当化しようとした。


 それでも尚、世界において命は重いモノだった。




 蛹である事を彼女の世界では自由と呼んでいた。


 枷を付けた状態を、糸に絡まれてる様相を、蜘蛛の巣に囚われた光景を充実と形容した。


 尊ぶのは管理であり、その充実であり、羽化する事を否定する自由だった。


 それでも尚、『人』として生を為した以上は人であると皆は謳った。それは誰が為の宣言でも目標でもなく、長くして根付いた常識だった。






 「━━━━━━あ?」






 男として生まれたとして。女として生まれたとして。


 意識の上でそれを変えられるとしても、潜在的なモノがどうあるとしても、構造ごと身体を再構築したとしても、その二元からは逃れる事は出来なかった。


 それでも尚、人はその在り方を否定しなかった。『死んでやり直す』事が出来ないと言う事もまた常識だと、そんなの絵空事だと諦める事が出来たのだから。





 彼女の世界に、神は宿らなかった。


 だからこそ、人は人として生きる事が出来た。




 「(私には産んでくれた両親が居る。どれだけ嫌になっても離れられない友達も居る。━━私はちゃんと、元の世界に帰らないと。だから…)


 ……私には、やっぱり人殺しを誇る事は出来ない。でも、荒にも言ったけど。足手まといにはならない。


 やられて足を引っ張る位なら、蝕まれようとも耐えてみせます」


 

 













 「(なんだ今の……頭ん中が捩じ切れたみてーな……?)」



 ━━その奥。話を耳にした荒に一つの『変化』が発生していた。

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