15.底からの問い掛け
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「……で、それが庇護対象を戦わせる言い訳って訳か?あ?」
「言い訳ってなんだテメーガラクタ野郎。意志尊重した結果だってのがテメーにとっちゃ言い訳なのかよ。あ?」
「…………あの、余計な事してホントにごめんなさい…。怒るだろうなって分かってたけど、此処まで喧嘩が長引くなんて……」
「大丈夫。イツモの事」
火を見るよりも明らかで、分かり切っていた事ではあった。
唐突に襲われ、街中で無闇矢鱈に兵器を振るい、墓を荒らされ、守る対象だった筈の少女を鉄火場に引き摺り込んだ。それも理由も無しに。
どうしたって止められない場面もあれば、説得さえすれば抑え込めたかもしれない場面もまたあった以上、納得のいく説明は困難を極める。現に何を言おうが、ジャンクはそれを全て『言い訳だ』と棄却している始末だった。
……が、如何せんその応酬が長過ぎる。白い目でやり取りを達観するユーシャと、事の発端が故に落ち落ち座る事すら出来ない理都の横で、かれこれ同じ説明と否定を繰り返して二十周を迎えようとしていた。
「……君の勇気に敬服するよ。好戦的な訳じゃないけど、戦う事から逃げようとしない。そんな人が後継人なら、きっと『リッツ』も喜んでくれる」
「リッツ…ってもしかして、これの……」
視線を玄絲へと落とす理都。
「うん、前任者。君とは名前も性格もそっくり。姿だけ似てるケースは沢山あるけど、そうじゃない所で此処が似通ってるのは稀有。
だからこそジャンクは警戒したし、荒も君を手放す事が出来なかった」
「………………」
「君は自分を腫れ物扱いしなくて良いし、我慢して感情を殺さなくても良い。相応の立ち位置で動ければ御の字さ。
ボク達は人殺しだ。でも『殺戮兵器』じゃない。苦悩はあって然るべきだよ」
感情を尊び、苦悩すらも受け入れ、人殺しである事すらも誇りとする。
朗らかに、晴れやかに、ユーシャは笑う。微笑み掛けながら理都を、自らを誇りと思って良いという激励を送る。
しかしその表し難い悦は、圧となって理都の額に汗を滲ませる。ただし、その後に生まれたのはただ困惑するだけの時間ではない。
「……じゃあ、その苦悩を一つだけ吐き出しても良いですか」
「うん」
承諾に甘え、深呼吸をする理都。
それは、彼女にとってごく普通で、当然で、当たり前の苦悩であり、懐疑。
「どうして、其処までして人である事を望むの」
『理想郷』の存在しない世界に根を張る、理想郷を無意識下で望んでいる者の訴え。人である事を肯定され、認められ、人である事を大前提とした世界からの、対極な見解だった。
緊張が空気の隙間を通り抜け、縫い付けたかの様に硬直し、荒とジャンクの諍いも二十五周目を迎えようとした辺りで止まった。
「ごめんなさい。…私の世界の事、何も話して無いから。『そういう世界なんだ』って呑み込む事は出来た筈なんだけど、どこか突っかえてる感じがあって…。
玄絲を使うのなら、私は私の世界の話をしておきたいし、踏まえた上で理解したいの」
前しか向いていない。前しか向く事が出来ない。それしか、此処での生き方が分からない彼女は、己を受け止めてくれた生命線である三人を前に大きく、一歩を踏み込む。
「━━理知である事も、時には必要だよな。
今のは俺達以外に…その質問は絶対に、しない方が良い。特にこのサイハテではな。
真っ先に、確実に、恨まれ蔑まれた上で、嫌な死に方をする。…今、決意だと分かっていても。悪意が無いと分かっていても縊り殺したくなる程、俺も不安定になった」
だからこその代償も大きい。ジャンクの視線は一度、理都を屠る事を許可していたがそれを抑えつけて彼は口を動かした。
踏み込んだ先が禁忌であれば、地雷であれば。許せる範疇を通り越して爆発しかねない。
「……答えてください。勿論、此処でしか話しません」
だが揺るがず、臆さず。『己の感情が誇りならば』と枷になるものを脱ぎ捨てるべく、殺意の滾ったジャンクの瞳を見つめて彼女は答えた




