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14.再起動



 生気を排斥した暗い灰色は、雨が降ってる訳でもないのにそれに似た湿り気のある空気で辺り一面を濁らせる。

 今日も高層の隙間から残骸を見下ろす日の光は届かず、この廃棄場に昼夜の境目など無かった。


 生きている灯りを頼りに鉄柵を越え、屋根を渡り、屋上(ちじょう)を歩いて、石畳の段差を超えて。


 何処までも、何処までも代わり映えのしないサイハテの街並みは延々と続いていて、延々と同じ時間を繰り返しているかの様だった。



 ……しかしそんな中、やっと景色が変わる。



 「……此処が、もしかして」


 「あぁ。持ち主の『墓』。けどまぁ……」



 荒は理都に玄絲(アラクネ)を『返しに行く』と告げた。襲われたビル群の狭苦しい道から、かなり歩いた先。そこが目的地だと一目で分かった。


 無秩序な壁はその場所を拒絶しているかの様に円を描き、開けた空間に陽だまりが差し込んでいる。廃棄場所として運用される以前の街の形か、それとも同じくして疑似再現機構(ロストマキア)によって刻まれた巨大な爪痕か。周囲の光景とは明らかに異なっている。



 ━━荒の表情は、僅かに強張っていた。



 「随分と荒らしてくれやがる。あんまし人は来ねー場所なんだがな。…何処でバレたのやら」


 「(確かに…他の場所と比べて散らかってないし…。なんというか━━)此処で…何があったの?」



 剥き出しの鉄骨があり得ない方向に拉げ、天辺まで円形の跡を刻んだ平らな地面。何があったのかを想像する理都は自ずと戦慄する。


 しかし、荒は首を横に振る。『それは思い過ごしだ』という否定と一つの審議を混ぜて、ガラクタを放り投げて彼女の方へと振り向いた。



 「『足手まといになりたくない』。…お前、言ったよな。


 それはまだ変わってねーか」



 相も変わらず変わらない表情、けれども言葉の選択や確認を促すニュアンスは冷たい空気を更に張り詰めさせる。


 彼女の目の前で『応報』の二文字を為した彼が何を言いたいか。互いの呼吸が3つ、ゆっくりと流れた後、口が開いた。



 「変わりません。……足手まといは、絶対に嫌です。助けられるよりも助ける側に、私は立たなきゃならないんです」


 「嘘無く言葉を吐くのは正直者なら誰でも出来る。難しいのは行動に移せるかだ。


 例え俺等が刺し違える事になっても、お前は刃を頸に突き立てられるか?」




 


 「そんな事、させません」






 自分達が、例え仲間であっても。道を違えたなら手に掛けられるか。かつて彼女を守った荒もまた自らの合理性を以て理都の覚悟を聞き質す。彼の眼差しを前に、理都は玄絲(アラクネ)を装備する。


 ぎこちなく手袋を付け、管が絡まり、ヘッドギアを落としそうになる。起動もままならないが故か表情には不安が張り付くが、行為の理由は決して荒に言われたからではない。


 ゼロだと切り離せない恐れや可能性に抗う、合理に相対する自らの覚悟(せいぎ)は彼女の示した答え。『させまい』という言の葉の下、ガラクタの墓にて理都を見下ろす荒の眼差しを掴んで離さなかった。



 「━━へっ。泣きそうになりながらでも啖呵を切るかよ」


 「こ、怖いんだから当たり前でしょ!他力本願にだけはなりたくな……」


 「分かった分かった。……言っても聞かねぇ、行動でも決意を示した。なら玄絲(アラクネ)はお前が使うべきだ」



 震え、怯え、尚も逃げる事を彼女は選ばず、他力本願を拒絶する。


 様相も心意気も洪笑を誘う要素となり、荒は気兼ね無く理都の首元に少し手を添える。 



「調整も修繕も、改良も改悪も全て自由。利用出来る物は全て利用してみろ」



 それは玄絲(アラクネ)の再起動を示す、眩さとなって息を吹き返した。

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