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13.玄絲(アラクネ) (4)




 「……ちゃんと頭下げたんすよ。礼節を欠いたつもりなんてねぇ。


 力になりたいって…このままじゃ荒さん達まで死んじまうって。どんだけ手伝うって言っても聞かないから……だからこんな事になるんじゃないっすか…!」



 一つから二つ、二つから三つ。 


 自分を否定する荒を逆恨むにつれ、男の指先の一つずつに灯った黒色の光が五指の全てに暗く、侵食する。


 泣きそうな震え声は、例え道を外れた行為だとしても自らの心中を分かって欲しいからなのか。それとも憧れから向けられる殺気への、可能な限りの抵抗か。


 ……否、そのどれもが違う。




 男の瞳は即座、理都の方の向いた。

 




 「え……」


 「そんなに怒ること……無いじゃないっすか!!!」



 先に到達したのは、飽和したのは怒りだった。


 自分達とは異なる、生き物としての艶めきを纏う黒髪。しかし何処か欠けている、かといって純人(ナチュレ)とも異なる質感を持つ、素知らぬ女。


 見た事のない『異物』が見知っている筈の、信奉している自分達よりも荒の近くにいる。


 男もまた、目に映った女が『憧れ』の立ち位置にいる事が許せなかった。


 『消せばきっと彼処に立てる』…等と、彼の瞳は微塵も考えていない。理都を狙ったのは恐らく、荒と同じ。


 


 『ムカつくから殺す』。経緯はことなれども、それだけの単純な解だった。


 怒りに身を委ね、振り払った右の五指から振り抜かれた掛け網のような黒糸が、容易く建物の壁を切り裂いて粉塵を上げる。少し軌道を反れた糸の向かう先には、座り込んで逃げられない理都が居た。


 (しな)り、


 (ひし)めき、


 風切りの声と共に空を走り、理都の首を捕らえんと迫る。






 「━━━━弱ぇ」 






 届かない。緋熾(ヴルカーノ)を振り上げた荒を前に、糸はそれ以上先を走る事は出来ない。



 相対する彼と同じ解を導き出したとて、あまりにもその手段は矮小過ぎた。未熟過ぎた。


 であるならば、『死を覚悟させる』その一刻は荒にとってはあまりにも悠長が過ぎた。



 寸分の誤差もなく、轟音を連れて引き起こされたのは緋色の火柱。小細工の一切を寄せ付けない文字通りの爆炎。衝撃波に押された緋い業火を前にして、糸は呑まれ焼き尽くされる。


 男の放った玄絲(アラクネ)の手段とは比較にもならない『格』の違いが、現象として全員の網膜に映し出される。



 「………ッ!!」



 次点。左の五指を薙ぐ。同じくして網目の黒線が二人を切り裂かんと襲い来る。


 ……が、不発。一重の弧を描いた刀身は、迫る黒糸はいとも容易く両断される。手段を二手、用意していたとしても、百戦を駆け巡った荒にとってそれは歯牙にも掛からない、あまりにも足らぬ手数。



 「はっ……はっ…クソッ!!糸がっ……!!


 動けッ!!掘り返すのにどれだけのリスクがあったと思って━━」




 無礼、侮辱の末に手に入れた力。玄絲(アラクネ)もまた、使いこなすには至らない。ヘッドギアに繋がれた手袋で糸を錬ることすらままならない。



 ━━もう既に、詰められていた。




 「詫びってのはこうやって入れるもんだッ…!!」



 

 爆発と共に迫る、荒の一撃を許す。


 腹部の中心に深々と突き刺さる拳は、男の身体を土台(じめん)へと沈ませる。


 頭を垂れ、身動きの取れない男。弾速の鉄塊を無防備な状態で受けたような痛みは言葉と呼吸を彼から奪い去った。


 無論、抵抗等は出来ない。その意志があろうとも、荒は継続して拒絶する。野晒しのまま倒れる男から玄絲(アラクネ)を取り外し、泥汚れの酷いままのヘッドギアを少しだけ拭う。



 「…力になりてぇだの、心配だの。テメーが都合良くて聞き心地の良い言葉並べてりゃ許されるとでも思ってんのか。


 テメーはただ、特別扱いされたいんだよ。俺等の力になりてぇんじゃなくて、同じ力をリスクも無く奮いたい。どう弁明しようが、テメーは俺以上のロクデナシだ」

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