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TRY  作者: 田中タロウ
8/12

第7話 家族

コータさん・・・

助けに来てくれたんだ・・・


俺はまた涙が出そうになった。



だけど、

様子がおかしい。


コータさんの声がした瞬間、

俺は床に降ろされた。

「落とされた」じゃなくて「降ろされた」。

しかも丁寧に。



「篤志、お前やるなー。しかも最後の口攻撃は笑えた」

「コータさん・・・?」

「あはは。悪かったな。ビックリした?」


コータさんは楽しそうに笑いながら、

男達からまだ眠っている美優ちゃんを受け取った。


「コータさん。もしかして・・・」

「ま、適正検査ってやつ?」

「・・・」

「悪く思うなよ」


ニヤっとするコータさんを見て、

俺は床に伸びた。






「そんなに脱力するなよー」

「俺、本当に死ぬかと思ったんですよ!」

「あはは。だろ?俺も昔、統矢さんに似たようなことやられた」


俺を襲った4人の男達は、みんな廣野組の若い連中だったらしい。

ハゲとか言っちゃって悪かったかな。



男達が、「車を取りに行ってきます」と立ち去った後、

コータさんと俺はロビーの椅子に座っていた。

もっとも俺は、座っていたというより、グッタリしてたんだけど。


「保育園がそんな簡単に小学生に園児を渡すわけないだろ?

俺があらかじめ言っといたんだよ。ここの扉だって、普通なら犯人は鍵かけるだろうけど、

篤志が入れるようにかけなかったんだ」


確かに思い返せば、全てが都合よすぎた気がする。


「でも、篤志が車の後ろに飛びついたのは予想外だったな。

どこのジェームス・ボンドだよ?俺、慌てて車の中の奴に、

スピード出すな!って電話したんだぞ」

「俺が美優ちゃんを渡して、何もせずに家に帰ったらどうしたんですか?」

「それならそれでいいんだよ。やばいと思ったらさっさと逃げるのも手だ」


コータさんは俺の頭をポンポンと叩いた。


「ただ、篤志は今回の誘拐は金目当てだと思ったみたいだけどさ、恨みってこともある。

そうだったらお前も美優もすぐに殺されてたかもしれない。

自分の手に負えないと思ったら、誰かに頼れ。人を信じて頼ることも勇気だ」

「・・・」

「自分でできる限りのことをするのも大切だけど、その見極めが大事なんだ」


頭を叩かれてると、

俺はなんだか安心して、完全に力が抜けた。

それと同時に沸々と怒りが沸いてきた。


「酷いです!!」

「まあ、今回は予行演習みたいなもんだ。いつ本当にこんなことがあるかわからないし」

「それにしても酷すぎます!!」


ああ、また涙出てきそう・・・

って、あれ?そう言えば・・・


「さっきコータさん、適正検査って言ってましたよね?俺ってどうだったんですか?」

「別に合格も不合格もない。篤志が決めればいいんだよ。

廣野組に入りたいやつ全員にこんな手の込んだことする訳じゃない。

俺や篤志みたいに、まだ若いのに組に入ろうとする奴の度胸試し、って言うか、

『この世界は甘くないぞ』って言うのを教え込む為にやってるんだ」

「・・・」


確かに今回はヤラセだった訳だけど、

きっと本当にこんなこともあるんだろう。

俺、こんな世界でやっていけるのかな・・・?


「別に今すぐ決めなくてもいいさ。甘くないってことだけ忘れるな」

「はい・・・。あの、すみませんでした」

「何が?」

「ヤラセだったとは言え、美優ちゃんを渡しちゃって・・・」

「いいよ、気にするな」

「それに・・・」

「それに?」


俺はちょっと目を伏せた。


「俺、美優ちゃんが羨ましかったんです。コータさんと愛さんの本当の子供の美優ちゃんが。

二人に本当に大切にされてて、やっぱり俺とは違うよな、って」

「・・・」

「だから、もし美優ちゃんがいなかったら、なんて考えたんです」

「・・・」

「本当にすみません」


言っちゃった・・・。

コータさん、怒るかな?

怒るよな。


だけど、コータさんは怒らなかった。

それどころかクスクスと笑い出した。


「・・・なんで笑うんですか」

「いや、悪い。実はさ、美優は俺の子供じゃないんだ」

「え!?」

「愛が前に付き合ってた男の子供なんだ」

「ええ!?」


俺は思わず立ち上がった。


「しー!美優が起きるだろ」

「あ、ご、ごめんなさい・・・」


じゃあ・・・

コータさんはまだ21歳なのに、

他の男の子供がいる愛さんと結婚したんだ。


それほど愛さんのことを好きってことなんだろうけど・・・

すごい。


「愛にも言ってないけど、正直最初は、本当に自分の子供として育てられるか不安だった」


そうだよな。


「でも、実際にこうやって一緒に住んでると、本当は誰の子供かなんてどーでもよくってさ。

いつの間にか、俺、美優は本当に自分の子だって思ってた。愛もそうだよ。

だってさ『全く、美優のこーゆーとこは誰に似たんだか』とか平気で言うんだぞ?

誰に似たって、そんなの愛か本物の父親に決まってるのに、俺にそんなこと言うかって?って感じだろ?」

「あははは」

「だからさ、篤志も一緒なんだよ」

「え?」

「俺とも愛とも血は繋がってないけど、家族だ」

「・・・」



もしかしたらコータさんは、俺に「家族って何か」を教えるために、

わざわざ俺をコータさんの家に置いてくれたのかもしれない。

「家族」を知らない俺が、いきなりあの廣野家で生活しだしたら、

施設を飛び出したのと同じように、結局廣野家も飛び出しただろう。


俺が廣野家で「家族」を作れるように、

作ろうと思えるように、

コータさんは「家族」を教えてくれたんだ。


思えば、施設の先生達も子供達も俺にとっては「家族」じゃなかった。

でもそれは、俺が「家族」だと思わなかったからじゃないか?

「家族」なら喧嘩をしても飯を取り合っても、離れることなんてないはずだ。




「コータさん、車準備しました」


あのデカイ男が歩いてきた。


「ありがと。さあ、家に帰ろう、篤志」

「はい!」



俺は元気よく立ち上がり、コータさんと一緒に病院を出た。



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