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TRY  作者: 田中タロウ
6/12

第5話 後悔

翌日、俺は学童には行かず、

学校が終わると真っ直ぐ家に帰った。


愛さんはもちろん、コータさんもまだ帰ってなかった。


俺は、「美優ちゃんを迎えに行って、そのまま公園で遊んできます」と

置手紙をして家を出た。



毎日コータさんと一緒に美優ちゃんをお迎えに行っている俺を、

保育園の先生は怪しむことなく美優ちゃんを渡してくれた。


「パパは?」

「ちょっと用事があるんだって。だからお兄ちゃんが迎えにきた」

「ふーん?」


俺は時間を気にしながら道を急いだ。

美優ちゃんの足はもちろん俺より遅いし、

だからと言って俺が抱っこできるほど軽くもない。


もうすぐ6時だ。

間に合うかな?




昨日の夜は、めちゃくちゃ悩んだ。

コータさんか、愛さんか、もしくは組長か・・・

誰か大人に相談した方がいいかな?

でも、誰かに話したら、コータさんと愛さんまで危ない。


あの男達は本当に平気で人を殺しそうな眼つきをしていた。


どうしよう・・・



たぶんあいつらは、美優ちゃんを誘拐して、

金を要求してくるんだ。


そうだ。

金さえ渡せば、美優ちゃんは返してくれる。


それに・・・

俺は、コータさんのことを考えた。


俺をこんな風に大事に家に置いてくれているコータさんを

危険な目にあわせたくはない。


美優ちゃんは、俺と公園で遊んでるときに、

誘拐されたことにしよう。

俺はたまたま一緒にいただけ。

そういうことにすれば、俺も怒られない。


よし。

俺の心は決まった。





「美優ちゃん、公園で遊んでいく?」

「うん!」


俺を信用しきって、目を輝かせる美優ちゃんに胸が痛む。

大丈夫、ちゃんとお金を渡せば、無事に帰ってこれるから。


俺は自分に言い聞かせながら、公園へ入った。


だけど・・・

もしも。

もしも、美優ちゃんが帰ってこなかったら?

コータさんも愛さんも悲しむだろう。

でも、そしたら、もしかしたら、俺を本当の子供にしてくれるかもしれない。

美優ちゃんの代わりにしてくれるかもしれない。



「にーちゃっ!これ!これおって!」

「え?この枝を折るの?」

「ん!」


美優ちゃんが短い小枝を俺のところに持ってきた。

俺が二つに折ってやると、「ありがと!」と元気にお礼を言い、

俺のほっぺたにキスをすると(!)嬉しそうに砂場へ走っていった。


・・・俺、何考えてるんだ?

そんなことある訳ないじゃないか。

俺は美優ちゃんの代わりには、

本物の代わりにはなれない。

第一、美優ちゃんが帰ってこないなんて、

そんなことあるわけないじゃないか。


俺は首を思いっきり振った。




公園の時計が6時の鐘を打つ。

俺は辺りを見回したけど、誰もいない。


・・・なんだ。こないじゃないか。

諦めたのかな?

それなら、よかった・・・


そう思った時だった。


「おい」


頭の上から、聞き覚えのある声が降ってきた。


「あ・・・」


昨日のデカイ男だ!


「ちゃんと連れてきたようだな」

「は・・い・・・」


男は、砂場で一生懸命砂と格闘している美優ちゃんをひょいと抱き上げた。

そしてそのまま何も言わず公園の出口へ向かって歩き出した時、

美優ちゃんが叫んだ。


「おろしてぇ!にーちゃ!にーちゃ!」


美優ちゃん・・・


俺は動くこともできず、男の後姿をただ見ていた。


でも、男が公園を出て右に曲がり、その姿が見えなくなった瞬間、

俺は走り出していた。


美優ちゃん!!


男は美優ちゃんを抱えたまま停まっていた黒いワンボックスカーに乗り込んだ。


俺は走り出した車の後を必死に追いかけた。

俺は、どうして車を追いかけてるのか、

追いかけてどうするつもりなのか、

自分でもわからなかった。


だけどとにかく走った。


幸い、車は信号に引っ掛かり、停車した。

俺は迷うことなく、その車の後ろの、ちょっとでっぱてる所に飛び乗り、

しがみついた。


車がスピードを出せば簡単に振り落とされてしまう。

でも、もうこうしないと、車を見失ってしまう!


神様!!!

ごめんなさい!!!

どうか、振り落とされませんように!!




その後、車がどれくらい走ったか・・・

多分そんなに長い時間じゃなかった。

スピードがあまり上がる事もなかった。

それでも、今は使ってないんであろうボロボロの小さな病院の前に車が停まったとき、

俺は汗でびっしょりになっていた。


車のドアが開く前に、

俺は車から飛び降りて電信柱の影に隠れた。


車からは昨日と同じ男達が3人降りてきた。

そして、あのデカイ男の腕の中で美優ちゃんがぐったりとしていた。


・・・美優ちゃん!?

じっと目を凝らしてみると、美優ちゃんの胸がかすかに上下している。


よかった・・・

寝ているのか、気絶しているのかわからないけど、生きてる。



男達は俺に気づくことなく、病院の中へと入っていった。


ここまで勢いだけで来たけど、

どうしよう?

このまま俺も、病院に入ろうか?

でも、俺一人で美優ちゃんを助けられるとは思えない。

コータさんに連絡しようか・・・?


そう思い辺りを見回す。

あれ?

ここどこだ?


夢中で車にしがみついていたから、

自分が今どこにいるのか、さっぱりわからなかった。

そもそも連絡するって、どうやってすればいいんだ。

俺、携帯とか持ってないし。


・・・よし。

もうここまで来たら仕方ない!

俺一人でなんとかしよう!

元はと言えば、俺が美優ちゃんをあいつらに渡したのがいけないんだ。



俺は覚悟を決めて、病院の入り口へと向かった。



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