第3話 出会い
俺が、ここに住みたい、と組長に言うと、
組長は初めて自己紹介してくれた。
「俺は廣野統矢。ここの組長だ。
お前がここに住むってことは、ここの組員になるってことだがいいんだな?」
「はい」
「よし、ちょっと待ってろ」
そう言うと組長はどこかに電話をかけた。
そして誰かに「屋敷に来い」と言うと、電話を切って俺に話しかけた。
「何か聞きたいことは?」
「あの・・・俺、小学生なんですけど、ここの組員になっていいですか?」
「お前な、ここはヤクザの屋敷だぞ。無法地帯だ。そんなこと気にするな」
無法地帯って・・・
「酒も煙草もありだが、女は連れ込むなよ。って、まだ小学生か。
とにかくここは、組員以外は立ち入り禁止。友達とか連れてくんな」
「はい」
「ちょっと待て。お前小学生か?」
「・・・はい」
なんだ、面白い人だな。
「学校はどうするんだ?」
「さあ・・・別に行かなくてもいいです」
「アホか。義務教育だろ。ちゃんと行け」
「・・・」
無法地帯のボスの言葉とは思えない。
俺が、施設や学校の名前を組長に教えている間に、
組長が呼び出した人物がやってきた。
が・・・
「こんにちはー」
「お、来たか」
「統矢さん、何の用ですか?」
これまた組長に負けず劣らず普通の人だ。
しかも組長を更に丸くした感じの男の人で、
すごく優しそうだ。
その上カッコイイ。
「コータ。こいつやるから、好きにしろ」
「はあ!?」
コータと呼ばれたその人はさすがに目を丸くした。
けど、すぐに普通の顔に戻って、組長を睨んだ。
「統矢さん・・・また拾ってきたんですか・・・」
「またって、なんだ。またって」
「何人目ですか、これで」
家出人を拾うのが趣味って、本当だったんだな。
「おい、お前なんて言う名前だ?」
「あ、戸山篤志です」
「何歳?」
「9歳です」
「篤志ね。俺はコータ。21歳。よろしくな」
コータさんは、少し目を大きくしてニッ笑った。
この人が本当にヤクザ?
全然見えない。
「よ、よろしくお願いします」
コータさんはまた組長の方に向き直った。
「統矢さん。本当に好きにしていいんですか?」
「ああ。勝手にしろ」
うーん、こんなに勝手にされちゃっていいのか、俺?
俺の生い立ちや廣野組に来た理由をコータさんに説明すると、
コータさんは何やら考え込み、それからこう言った。
「よし。お前、しばらく俺んちで一緒に暮らそうぜ」
「え?コータさんの家?コータさんはここに住んでないんですか?」
「ああ。中学2年の時、俺も統矢さんに拾われてそれからここにずっと住んでたんだけどな。
高校卒業した時に出たんだよ」
「へー」
出て今はどこに住んでるんだろう?
まあ、行けば分かるか。
何も荷物がない俺は、そのまんまコータさんについて行った。
コータさんは、こういう時に車があれば便利なんだけどなーと愚痴った。
「車持ってないんですか?」
「篤志、車っていくらすると思ってるんだ。しがない大学生には買えねーよ」
大学生なのか。
本当に普通の人だな。
「それに免許持ってないし」
「・・・車以前の問題ですね」
「まーな」
電車を乗り継ぎ、コータさんに案内されたのは、
閑静な住宅街にある立派なマンションだった。
「ここ、ですか?」
「ああ。入れよ」
「はい・・・」
ロビーからしてすごい。
ホテルみたいだ。
こんなとこに住んでるなんて、
車は買えないって言ってたけど金持ちなんじゃあ?
コータさんの家は、メチャクチャ広いって訳じゃないけど、
キッチン、リビング、ダイニングの他に、寝室ともう一つ部屋がある、
立派な家だった。
中の家具も、なんだかよくわからないけど、高そうだぞ。
「この部屋、今は使ってないから、篤志が使っていいよ」
「え?俺がこの部屋使っていいんですか?」
「だって、寝たり勉強したりするのに部屋が必要だろ?」
施設では、みんな一つの大きな部屋で寝たり食ったり勉強したりしてたから、
自分の部屋なんてなかった。
普通の家庭の友達でも、まだ自分の部屋なんて持ってない奴がほとんどだったのに・・・
「すげー!!!ありがとうございます!!」
「おお。その代わり、宿題くらいはちゃんとやれよ。どこに通わせるかは考えるけど」
「はい!!!」
コータさんは寝室のクローゼットにしまってあった、
布団と簡単な机と椅子を俺の部屋に運び込んでくれた。
「後は、服とか日用品がいるな」
「・・・はい」
「あ、ランドセルとかもいるんだよな。早く学校の手続きしないと。
制服があるならそれも早く揃えないとな」
「・・・」
なんか、俺、簡単に考えてたけど、
俺みたいな子供でも一人引き取るって大変なことなんじゃないか?
色々金も時間もかかるんじゃないか?
確かに、施設に「里親になりたい」って来てくれる人なんてほとんどいなかった。
一度里親になっておきながら、「やっぱり無理でした」って子供を返しに来る大人だっている。
世間の大人は冷たいなーって思ってたけど、よく考えたら、
見知らぬ子供を引き取るって、俺が思ってる以上に大変なことなのかもしれない。
金は組長からもらうんだろうけど、
それでもコータさんが俺の為にしなきゃいけないことは色々あるだろう。
・・・すげー、申し訳ない・・・
「ただいまー」
「あ、帰ってきた。篤志、来い」
「え?はい」
帰ってきた?
誰だ?
「愛、お帰り」
「ただいま、幸太。あら、その子は?」
コータさんが親しげに話しているのは、
コータさんよりちょっと年上に見える女の人だ。
お姉さんかな?
それにしても、凄い美人だぞ。
コータさんとあまり変わらないくらいの長身に、
ちっちゃい顔と大きな目。
スタイルも抜群。
廣野組関係の女の人は美人限定か?
顔セレ?
「こいつ、篤志って言うんだ。今日からしばらくうちで面倒みるから」
「そう、・・・って、ええ!?」
「買い物に連れて行ってくるな」
「ちょ、ちょっと待ってよ!聞いてない!!」
「言ってないし」
「一言くらい相談してよ!!」
「統矢さんに預けられたんだ。ここに置いていい?」
「・・・いいけど」
なんだよ、相談の意味ないじゃん。
俺は、服やら勉強道具やらをスーパーで買ってもらった後、
「ちょっと寄るところがある」というコータさんに連れられて、
コータさんの家の近くのある場所へ立ち寄った。
「・・・こんなところに何の用ですか?」
「なんだと思う?」
「誘拐」
「アホ」
「だって・・・」
その入り口にはデカデカと『どんぐり保育園』と書いてあった。
一体全体、何をしにこんなところに・・・
すると、保育園の先生らしき人が入り口に立つコータさんを見つけ、
声をかけてきた。
「あ。間宮さん。ちょっとお待ちくださいね。みーちゃぁーん!!!」
先生は奥の部屋に向かった声をかけた。
程なくして、中から両耳の上で髪をくくった女の子が現れた。
一目で、あの愛さんの子供とわかるくらい、愛さんにそっくりだ。
天使みたいにかわいい・・・
いや、天使そのものって感じだ。
その天使はおぼつかない足どりで、ニコニコとコータさんに駆け寄った。
「パパァ!」
「おかえり、美優。いい子にしてたか?」
「うん!」
「パ、パパ!?」
俺は愕然とした。
だって・・・
コータさん、21歳って言ってなかったか?
子供がいるのか?
じゃあ、愛さんってコータさんの・・・
「ほら、美優。お兄ちゃんに挨拶しろ。篤志って言うんだ」
「あちゅし」
「そうそう」
「こーにちは」
頭が床につきそうなくらい深々と美優ちゃんはお辞儀した。
俺も思わず、お辞儀する。
「あ、篤志です。こんにちは、美優ちゃん・・・」
「ははは、驚いた?」
「ビックリしました。美優ちゃんて何歳ですか?」
「今月末で3歳」
「3歳・・・」
コータさんは、美優ちゃんを抱き上げると、
俺に向かって、帰ろうか、と笑顔で言った。




