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TRY  作者: 田中タロウ
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第9話 疾走

「・・・外れた!」


コータさんの声がしたとき、

俺は気絶しそうになった。


終わった・・・!!


俺は瓶の欠片を放り出し、床に転がった。


「はあ・・・」

「篤志、よくやった!助かったよ」

「いえ・・・」


そう言って、コータさんを見て・・・

俺は息を飲んだ。

コータさんの腕が血まみれだ!!!


「コ、コータさん、腕が・・・」

「大丈夫。大したことないから」

「大したことあります!」



でもコータさんは本当になんでもないかのように、

血まみれの手で、俺が放り出した欠片を持つと、

自分の足の縄と、俺の手と足の縄を切った。


コータさんの傷は絶対に凄く痛いはずだ。

こんな切羽詰った状況で、感覚が麻痺してるのかもしれない。



二人でしばらく、手を握ったり閉じたり、立ったり座ったりしながら、

身体に感覚が戻るのを待った。


「よし。行こーぜ」

「え?どこにですか?」

「こっから出るんだよ。美優も助けないと」


そう言いながら、コータさんが扉に近づいた。


「この扉、鍵がない。あいつら、俺達を縛ったから安心してんだな」


コータさんは扉に耳をあて、外の様子を伺う。

コータさん、なんか今すぐにでも飛び出して行ってしまいそうな勢いだ。


「静かだ。あいつら、離れたところにいるのかな?」

「・・・」

「出て行ってみるしかないな」

「え?」


俺は、ノブに伸ばされたコータさんの手を掴んだ。

ヌルっと血の感触がする。


「って!何するんだよ!」

「コータさん!落ち着いてください!出て行ってどうするんですか!?すぐ捕まっちゃいますよ!」

「でも、ここでのんびりしてる訳にいかないだろ!?」

「あいつら、4人もいるんですよ!?拳銃だってナイフだって持ってる。絶対に勝てません!」

「じゃあ、他にどうしたらいいんだよ!」


コータさんが鋭い目で俺を睨む。

怪我をしていて美優ちゃんも捕まっていて、

コータさんはすっかり冷静さを失ってる。

こんなコータさんは正直怖い。

でも、俺もここは引き下がれない!


「コータさんが、自分の手に負えない時は誰かに頼れって言ったんじゃないですか!」

「こんな状況で誰に頼れって言うんだよ!」

「俺に頼ってください!」

「はあ?」


俺はコータさんの頭の上にある小窓を指さした。


「俺ならあそこから出れます」

「・・・」


コータさんが、じっとその窓を見る。

格子も何もない。

内側から普通に鍵がかけられてるだけだ。


「・・・ここは一階だけど、あんなところから外に飛び降りるのか?」

「はい」

「危ないぞ?」

「扉から普通に出て行くより危なくないと思います」


コータさんは俺をジッと見た。

俺も、負けまいと目を逸らさなかった。


「・・・わかった。俺が肩車する」

「はい!」


コータさんは一度深呼吸した。


「悪かったな。頼むよ」

「はい!」

「ここから出たら、どっかの店に入ってここがどこか場所を聞け。

それから電話を借りて、廣野家に・・・いや、統矢さんの携帯にかけろ」


コータさんは、組長の携帯番号を言ったけど、

俺はさっぱり覚えられなかった。

こんな状況で11桁もある数字はとてもじゃないけど頭に入らない。


「すみません・・・」

「いや、仕方がない。どうするかな・・・よし」


コータさんは自分のシャツを破くと、それに血で携帯番号を書いた。

パタパタと扇いで血を乾かすと、そのシャツの切れ端を俺に渡した。


よかった。いつもの冷静なコータさんだ。


「頼むぞ」

「はい!コータさんは待っててください」

「ああ」


俺はコータさんの肩に乗って、窓を開け、そこから身を乗り出した。

暗いからはっきりとは分からないけど、多分地面まで2メートルくらいある。

しかも下はコンクリートだ。

変な落ち方をしたら怪我をするかもしれない。


でも、今はそんなこと言ってられない!


俺は思い切って、飛び降りた。


えい!!!!



「いて!」

「大丈夫か?」


中からコータさんの声がした。


「だ、大丈夫です!行ってきます!」


足からちゃんと着地したけど、勢い余って顔面から思いっきりつっこんでしまった。

俺は鼻をさすりながら、駆け出した。



幸い、雑居ビルがたくさん並んでいる通りだったため、

すぐに1軒の店に入ることができた。


こういう場所はお互いの関心が薄いから、

誰かが近くに閉じ込められてても気づかないだろう。

でも、距離は近いから、外に飛び出してしまえばすぐにコンタクトは取れる!



俺はその店のママみたいな人に、急用なんです!!と凄い勢いで電話を貸してくれるように

頼み込んだ。


小学生の俺がこんな時間にこんな場所で何をしているのかと、怪しまれたけど、

「ま、私には関係ない」とでも言う感じで、取り合えず電話は借りれた。


シャツの血文字を見ながら、震える手でボタンを押す。


こういう時、呼び出し音が鳴るまでの数秒が長く感じる。



トゥルルルル

トゥルルルル


頼む、組長。出てください!


トゥルルルル

トゥルルルル


ああ・・・廣野家の番号も聞いとけばよかった!

電話帳に載ってないかな?


トゥルルルル

トゥルル・・・カチャ


「く、組長!?」

『・・・なんだ?誰だ?』


組長の不審そうな声がした。

でも今の俺には神様の声に聞こえる!


「俺です!篤志です!コータさんのところにいる篤志です!」

『ああ、お前か。どうした?』

「あ、あの!!」


俺は簡単に今の状況を説明した、

つもりだった。

でも相当パニクッていたのか、うまく説明できない。


組長がようやく状況を理解してくれたときには、

疲れ果ててしまった。


『わかった。お前はそこを動くな』

「はい!」


電話が切れると、俺は組長に「動くな」と言われたことも忘れて、

(というか、最初から耳に入っていなかった)

さっき来た方向へ走って戻った。





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