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17.異世界だって夏は暑い

お読みいただきありがとうございます

 昼食はガーグの肉を野菜と煮込んだスープだった。

 ガーグは鳥型の魔獣で、大森林だけでなくあちこちの森に沢山生息しているらしい。パージの説明によると七面鳥みたいな大きさで空は飛べないのだけど、とにかく嘴でつついてくる。それでも飛べない上に動きが機敏ではないので大森林から迷い出たガーグくらいなら子供でも狩れる程、狩りやすくて肉の値段も安い為、平民にとっては有難い食材なんだそうだ。

 肝心の味は鶏肉というより鴨肉に近い。筋肉質だけど、程よく硬く旨味があって美味しい。

「そろそろ小麦粉が無くなりそうなので挽きにいかないと」

 昼食を食べながら、パージがアーノンさんの顔を見る。

「なら、一度シゲルも連れて行けばいい。そろそろ村の事も見せておく方がいい」

 厳めしい顔を崩さず、アーノンさんが答えた。

 いつもなら食事中はこんなに怖い顔をしないのに、どうしたんだろう。

「だが、行のはもう少し後になる」

 僕の視線に気が付いたのか、アーノンさんは僕を見た。

「国境地帯にあるシニストロの町から要請がきた。シゲル、お前もついてこい」

 な、なんだって?


 この国は大森林と王国に挟まれていて、ヒョウタンの形に東西に広がった大陸の真ん中だ。東西に長く、南北に狭い。――といっても、それなりに国土は広い。

 アソンの村は言わずもがな公国の最西端で、国境はもちろん公国の最東端。

 東西に走る街道を、ひたすら草竜を飛ばして実に四日間の旅程だ。

 身体強化を覚えたばかりの僕だけど、一人で草竜に乗るなんてできるわけもなく、また僕用の草竜だってすぐには買えないから、僕は前と同じでパージの前に乗せられて、パージに抱きかかえられる形になる。

 夜はもちろん宿屋に泊まると思いきや、街道沿いに野宿する事もあった。

「俺達に依頼が来るという事は急ぎだって事情が多い。被害が広がらないよう、一刻でも早く到着してやる必要がある」

 最初の野宿の日に、アーノンさんはそう言って慣れた手つきでテントを組み立ててくれた。

 石造りの家は涼しくて快適だけど、真夏の夜にテント――それも男三人が一つのテントに眠るのは暑苦しい。

 しかし、このテントには結界の魔法陣が組み込まれていて、魔獣から身を護るためには仕方がないと言われた。――それにしても暑いんだよ。

 僕はこっそりテントに温度を調整する魔法陣を組み込んだ。温度が一定以上になると冷却し、一定以下になると加熱する。水瓶の魔法陣を参考にしたんだ。これで夏は涼しく冬はあったかだ。

 それに風の魔法を少し足して、エアコンさながらに快適空間の出来上がりだ。

「これはいいな。帰ったら俺の部屋にもつけてくれ」

 アーノンさんの笑顔ってこの世界に来て初めて見たような気がする――。


 公国と王国の間には、天然の要塞のように二つの高い山脈が南北にそびえている。山脈の切れ間にシニストロ樹海が広がり、公国と王国を繋ぐ唯一の陸路となっていて、その周辺を辺境伯領が広がっているのだそうだ。

 その樹海に南北を囲まれるようにシニストロの町がある。

 大森林ほどではないものの、魔力を多く含む樹海に臨むにふさわしく、シニストロの町にも有能なハンターが多くいるのだけど、ここ30日程の間で樹海に入ったハンターが次々と魔獣にやられると言った現象が起きている。

 アーノンさんやパージはソロで狩りに出る事が多いのだけど、基本的にはエイク達のように複数人でパーティを組んで狩りを行う。

 なのに、魔獣に襲われたとみられるパーティは誰一人戻ってくることはなかった。

 そして、遂に樹海に隣接していたマーヴの農場が、その魔獣に襲われたのだという報告が入り、生き残った農場の使用人が今まで見た事のない魔獣だったと証言をした。

 新種の魔獣の可能性も出てきた為、急遽アーノンさん親子に調査討伐依頼が発せられたというわけ。

 そして、なぜか僕も一緒に連れてこられたってわけ。


 三日目の夜はありがたいことに宿屋のある町に泊まる事ができた。

 この世界の1日は元の世界の時間間隔で30時間もある。その上1時間は100分もある。つまりそれだけ活動時間が長くて、すなわちそれだけ草竜に乗る時間も長い。そうなると身体強化を覚えたとはいえ、僕の体はボロボロですよ。

 朝早く起きて、2時間に1度の休憩を挟みながら、時々食事を摂ったり町に寄って食べるものを買ったりして、夕方まで草竜を走らせてた。僕が乗ってても、草竜は平気でガンガン走る。パージが言うには僕の魔力を食べてご機嫌なんだそうだ。

 この世界の時間にして実に14時間。元の世界の時間に換算したら23時間だよ?ケツが痛いってのに、パージやアーノンさんは平気な顔してるんだぜ。

「お前とは鍛え方が違うからな」

「お前の方が魔力が大きいんだから、もっと強化に魔力を使えばいいんだ」

 宿に備え付けられた公衆浴場でアーノンさんとパージに次々に言われる。

 そんな事言われても、アーノンさんが依頼を受けたって聞いて翌日だよ?出発したの。準備期間なんかなかったじゃないか……。

 それでも、その夜は久しぶりのちゃんとした寝床で寝る事ができた。

 3人同じ部屋で2段のベッドが2つある狭い部屋だったけど、テントよりマシだよ。

「暑い――シゲル……あの魔法陣を頼む」

 すっかりエアコン魔法に味を占めたアーノンさんに頼まれて、僕はこっそり部屋に魔法陣を組み込んだ。

 鍛え方違うんじゃなかったの?

 明日出る前に消すのを忘れないようにしないと。


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