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13.やっちゃった

お読みいただきありがとうございます

 身体強化を会得した後は防御の魔法を覚えた。これは簡単だった。

 一度パージにどんなものかを見せてもらったらできるようになったからね。魔法陣がある魔法なら僕はすぐに習得できるらしい。

 防御の魔法は自分の前に魔力で盾を作るイメージだ。物理攻撃も魔法攻撃も弾くことができる。

 結界の魔法は展開すると移動できないのに対して、防御の魔法は盾だから移動もできる。だけど、自分の周囲に魔法の壁を張り巡らす結界とは違い、防御の魔法は全面からの攻撃にだけ対抗する事ができる。

 後ろや横から襲われたらひとたまりもない。それに、結界はあくまで魔獣にしか効かない。その点、防御の魔法は魔獣にも人間にも有効だから覚えておいた方がいいと言われた。

「と、言っても俺の魔力だとパージに何度か打ち込まれたら無効化されてちまう。万能じゃない」

 エイクはそう言うと、金色の瞳を恨めしそうにパージに向けた。

 いつもの裏庭での訓練に今日もエイクは付き合ってくれている。体力も魔力も回復したらしいのに、狩りがない時はこうして訓練に付き合ってくれている。いい奴なんだ――脳筋であることを除けば。

「魔力量がモノを言うからな。――それでも、うまく使えば有効打の回避や体勢を立て直す時間を作る事はできる」

 エイクの視線に気付かない振りをして、パージは肩をすくめた。

「――そう言えば、山狼と戦った時にパージが使ったあの魔法は?魔法は魔導士か錬金術師じゃないと使えないって言ってたけど」

「ああ――」

 そう言うとパージは自分の剣を抜いて見せてくれた。

 中世ヨーロッパが舞台の映画なんかでよく見るような、普通の鋼の剣に見える。違うのは、グリップの先端のポンメル部分にうずらの卵ほどの大きさの宝石のような石がはめ込まれているくらいだ。

 グリップを握る手に少し魔力を通すと、ブレイド部分に淡く青白い光で古代語が浮かび上がってきた。

 魔法陣とは形や記述方法は違うけれど、雷を発生させるためのロジックがそこには描かれている。

「パージの家に代々続く剣だ。魔法の付与がされた武器は他にもあるけど、雷の魔法を放つ剣は俺が知る限り他に見た事がない。――アーノンさんも持ってるぞ。アーノンさんのは炎だ」

 なぜかエイクが得意げに言う。

「他の剣はどんな魔法が?」

「魔法って言っても、剣そのものに魔力を持たせて自分の魔力以上の魔力を乗せる事ができるってくらいだな。アーノンさんやパージの様に魔法そのものが放てる剣は他にはない」

「そ――そんなすごい剣を個人が持てるものなの?国に取り上げられたりしないの?」

「威力はお前も見ただろ」

 心配して尋ねた僕に、パージが剣を鞘に納めながら言った。

「この剣の魔法はそんなに強くない。父さんのやつもだ。俺の魔力でも魔獣の動きを止める程度しかできない。それならスクロールの方がよっぽど使える」

 そう言ってパージは肩をすくめた。

「それでも囲まれた時なんかは動きを止めれるだけでも助かるよな。スクロールが要らないってのも羨ましいよ」

「スクロールも高いからな」

 パージとエイクの話を聞いていて、村長から見せてもらったスクロールを思い出していた。

 村長に見せてもらったのは着火や灯りのスクロールだったけど、攻撃用のスクロールも存在するって言っていたな。

 二人が剣を置いて雑談を始めたので、僕は何の気なしに地面に着火の魔法陣を描いてみた。

 着火の魔法陣と灯りの魔法陣は、マッチと電球みたいなもので、この世界ではどこの家庭でもある。

 どっちのスクロールも、使ったら燃えてしまうから使い捨てなんだそうだけど、どの町でも村でも手に入るし錬金術師の収入源になっているんだと村長は言っていた。攻撃用のも使ったら燃えちゃうのかな?結界のスクロールは残ってたけど。

 魔法陣は古代語で書かれていて、古代語はなぜか数千年経った今も解析ができていない。

 なんでだろう?

 僕が理解できるからなのかもしれないけど、古代語はしっかり言語として成立している。現にこうやって書くこともできる。

言葉の解析っていうのはある程度の系統を推測して解読していくんだって聞いた事がある。

 ただ、エジプトのヒエログリフのように長年解析ができず、ロゼッタストーンによって解析が進んだ文字もある。

 古代語はヒエログリフみたいな絵文字じゃなくて、ルーン文字のような独特で神秘的な文字だ。だけど、文章じゃないんだよな。プログラムに近い書き方だから文章としては成立しないってのもある。それに、一つの文字が熟語になっていたりするので難しい。

 酸素だっておそらく元素なんだろうなって思える用語になっている。「O」と書かれて僕達が「酸素」ってわかるように、僕にわかるってだけで、酸素ってのを知らない人が見たら意味不明な記号だ。

 それでも、数千年って時間の中で魔法陣は人々の身近にあったんだから、少しくらい解析できていてもいいんじゃないかな。

 ただ、面白いのは古代語の解析はできていなくても、魔法を解析する事はできたようで、魔法陣を切ったり貼ったりして新しい魔法を作り出したりもした人も過去にはいたらしい。

 もしちゃんと古代語が読めたなら、もっと簡単に加工できるのにな――こんな風に。

 僕は無意識に着火の魔法陣に、風を送り込むロジックを追加していたようで、描き上がった魔法陣に魔力を送ると、突如炎を巻き取った竜巻が発生してしまった。

 轟音をたてて吹き上がる炎の竜巻に驚くのも束の間、気が付いたパージが慌てて剣で竜巻ごと魔法陣を叩き斬った。

「お前――一体何をしたんだ」

 久しぶりにグレーの瞳に侮蔑の色が浮かんでいるような気がする……。

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