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11.できる人にできない人の気持ちはわからないんだ

お読みいただきありがとうございます

 この世界に来て十日が経っていた。

 ようやく体が動かせるようになった僕は、パージから身体強化を学んでいた。

 戦う勇気はまだないけど、ここでは身体強化もできないと生きていくのがとてもつらい事が分かった。草竜に乗る度に腰抜かしてたら生きていけないしね。

「口で説明するのは難しいんだけどな。俺達は物心ついた頃から身体強化はできて当たり前だったし」

 教えてもらうと言ったものの、パージの教え方は要領を得ない。

 この世界では誰でも生まれた時から多少の魔力を持っている。そして、大人がする身体強化を見て言葉を覚えるように勝手に覚えるのが当たり前なんだそうだ。だから、できない人に教えるという経験自体があまりないんだと。

 中には魔力の制御がうまくなくて、ある程度大きくなるまでできない人もいるらしいけど、そういう人は本当に稀で、普通は勝手にできるのだと、パージは教えてくれた。

 だからと言って、僕だって寝ている間、何もしなかったわけじゃなくて、自分の魔力について考えたり検証したりしてたんだぞ。


 僕の魔力とパージ達の魔力の一番の違いは揺らぎ方だった。

 パージ達の魔力は体にぴったりとくっついている。体に膜が張ったような状態だ。その魔力の膜が何重にもなっていて、一番外側が放射熱のように揺らいでいる。その重なりが厚い程魔力が多いようで、アーノンさんとパージはエイク達の倍以上の厚さだった。

 対して、僕の魔力は魔力の塊が僕の体を取り巻いているだけだ。ただその厚さは半端ない。

 これに気付いたのは、エイクが見舞いに来てくれた時だった。

 僕よりも早く動けるようになったエイク達は、僕の意識が回復して二日目に来てくれた。


「あんたがいなかったら俺は死んでた。本当に感謝する」

 栗色の髪を短く刈り上げて、健康的に焼けた肌に金色の瞳が印象的なエイクは、部屋に入ってくるなり頭を下げた。

「いえ――僕はただ必死で」

「恩は恩だ。俺達は命には命で報いる。――あんたが困った事があったら俺は命を懸けて助けるよ」

 エイクの言葉に、隣に立っていたジェインとキールも頷いた。

「俺の事はエイクと。この二人もジェインとキールでいい」

「俺達はパーティだからな。エイクの恩は俺の恩でもある」

 灰色がかった茶色い髪の射手だった人はジェインだと名乗った。

「俺も報いると約束する。俺達は子供の頃から一緒に育ったんだ」

 栗色の長い髪を三つ編みにして肩に垂らして、つり上がった金茶色の瞳を真っ直ぐに僕に向けてキールも続いた。

「――3人とも仲良しなんですね」

「パージも俺達と同じ年なんだ。だけど、パージは強すぎて俺達が一緒だと足を引っ張るからな。だから実力が同じくらいの俺達でパーティを組んでるってわけ」

 ジェインが頭の後ろで手を組んで明るく笑う。

「だからって俺達が弱いわけじゃないぞ。――あの時は急に暴れだしたサイノスに不意を突かれただけで、普段なら――」

「そうだな。サイノスがあんなに興奮状態になる事は滅多にない。――だけど、全くないわけじゃない。念頭に置いておかずに油断したエイクが悪いんだ」

 エイクとキールの言葉に、僕はパージの言葉を思い出した。

 確か、魔獣は魔力を好む。僕みたいな魔力量が目の前に来たら――?

 僕は自分の手を見つめた。

 魔力がこれでもかと溢れ出ている。

 エイク達を見ると、魔力はぴったりと膜を張ったようにくっついている。もちろん、揺らぎはあるんだけど。当然、パージやアーノンさんもそうだ。

 比べてみるととにかくわかる。彼らは魔力が漏れてしまわないように制御できている。でも、僕のはちがう。体の周りをモヤみたいなのが覆っていて、空気中に流れ出している。魔力が駄々洩れだ。

「もしかして、サイノスが暴れたのって――僕のせいですか?」

 パージは僕の魔力を化け物みたいな量だって言っていたし、あの時は普段は森の奥の方にいる山狼が現れた。

 サイは僕達の世界でも最強の動物だけど、サイノスと呼ばれてたあの魔獣も、もしかして僕の魔力で興奮してたんじゃ。

「だとしても、油断したのは俺だ。あそこまでなじゃいとしても、魔獣が魔力に反応して暴れる事なんて珍しい事じゃない。そして、お前は俺を助けてくれた」

 エイクがそう言って、ジェインとキールも同意している。

「あと、なんかくすぐったいから敬語はナシな」

 ジェインがアーモンド形の目を細めて、照れ臭そうに言ってくれた。


 その夜から、僕は自分の魔力をパージ達のように抑えようと練習を始めた。

 大森林に近いこの村は、いつ魔物に攻め入られてもおかしくはない。――けど、来ないのはこの村には優秀なハンターが大勢いるからだ。

 広い範囲で魔獣を間引いて数を減らし、大森林の浸食を食い止めている。

 実際に大森林にに入って分かった事は、大森林の中と外とでは魔力量が圧倒的に違うと言う事。

 村の周辺にも確かに魔力は感じられる。人だけでなく、大気や草木、家畜の全てが魔力を有しているんだと村長も言っていた。

 でも、大森林は足を踏み入れた瞬間、息苦しいほどの魔力を感じたんだ。

 うまい例えが思い浮かばないんだけど、湿気が多い真夏に息苦しさを感じる時があるでしょ?そんな感覚って言ったら分かるかな。不快な息苦しさだ。

 大森林の中と外ではそれほどまでに魔力の濃度が違う。魔力を好む魔物にとって、大森林は最適な環境ともいえる。だから、魔獣は大森林から出てくることはない。だけど、魔獣が増えてしまうと、棲み家を追われた魔獣たちは自分達の棲み家を求めて人の領域を襲い、大森林を拡張しようとする。

 ハンターは適切に魔獣を間引いて、大森林の浸食を阻止している。魔獣の数が適切だと、魔獣は大森林から出ない。だって、大森林の外は魔力の量が違うから。

 でも――もしそこが大森林と同じだけの魔力の濃度になったら?その源が僕なら?魔物は大森林を出て、難なく棲み家を広げる事ができる。――僕の魔力で。

 朽ち果てて、草木に覆われた村の跡地を思い浮かべてしまう。

 僕が魔力を垂れ流し続けると、このアソンの村までそうなってしまうんじゃないのか?バカバカしい杞憂にも取れる考え方かもしれない。でも、どこか確信に似た思いが僕を焦らせていた。

 だから、体を起せるようになるまでの三日間、僕は自分の魔力を制御する事に専念していたんだ。

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