第64話 夢のような一夜
今夜は二話投稿します。
夢のような一夜。
あの日はそうなるはずだった。
あのデュ・リエールの日。ステラは美しいドレスを着て、攻略対象たちと優雅な時を過ごすはずだったのだ。
何も起こる予定ではなかった。あれはボーナスステージのようなものなのだ。美しいドレスを身にまとい、攻略対象とダンスを踊る。ステラはその日を心待ちにしていた。
ボーナスステージはほかにもあったが、ボーナスステージごとに近づける攻略対象が変わってくる。デュ・リエールは、サミュエルとジルベルト、そしてロイドとジークフリートと近づけるステージだった。
ステラは事前に、本国であるカラビナには帰らず、ティアベルトでデュ・リエールに出ることをマーチ伯爵に話していた。
少し寂しそうな顔をしていた伯爵だったが、結局はステラの提案を快く受け入れてくれた。
領地を放ってこられない伯爵の代わりに、義弟のフリッツが来てくれた。
二歳年下のフリッツは、すでに背はステラを越しているが、どうにも頼りない。ゲームではそれを理由として、ジルベルトが付添人に立候補してくれるのだ。
ジルベルトは眼鏡キャラではあるが、実は騎士の名門の家に生まれている。ジルベルト自身も剣の才能があり、そのことで父親や長兄との確執があった。
ゲームでは、図書館へ通うことでステラと仲良くなったジルベルトが、ステラには剣が強いことを隠したまま、付添人に立候補をするのだ。
しかし、現実ではどうしても、ジルベルトとの距離が縮まらなかった。そうこうしているうちに、いつからか、ジルベルトの傍にはいつもフィーラがいるようになってしまった。
それでも諦められず、デュ・リエールのための休暇の一週間前、またジルベルトに会いに図書館へ行こうとしていたところで、攻略対象の一人であるウォルクに声をかけられた。
ウォルクとはまだ接点がないはずだったが、せっかく向こうから声をかけてくれたのだから、ステラはウォルクに付添人の話を頼んでみた。おそらく、今からではジルベルトからの良い返事は聞けないだろうと思ってのことだ。
ウォルクは快く、付添人の話を引き受けてくれた。
デュ・リエール当日。淡い桜色のドレスを身にまとい、ステラはフリッツとウォルクに付き添われ、会場へと向かった。
ステラが会場入りすると、多くの人の目がステラに注がれるのが分かった。自分で言うのも何だが、艶のあるまっすぐで美しい亜麻色の髪に、鮮やかな空色の瞳、白い肌に、愛らしい顔のステラは、紛うことなき美少女だった。
この場にジルベルトがいないのは残念だったが、変わりにウォルクがいてくれる。
それに、ゲームではこの日はずっとサミュエルがそばにいてくれたはずだ。
デュ・リエールが始まるのを今か今かと待ち望んでいたステラだったが、急に沸いた会場に、何事かと周囲を見回す。すると美しい少女が入場してくるところだった。
金茶色の髪に、群青の瞳。見覚えがあるその少女は、確か、同じ精霊姫候補だったはず。
そう、名前は確かリーディアだ。
このリーディアに関しては、不思議なことがあった。確かにリーディアという名前の少女はゲームに出てくる。ただし、普通科に在籍するモブとして。その代わり、本来候補としてでてくるはずのサルディナが、特別クラスにはいなかったのだ。
それに気づいた時には、不思議に思った。なぜこんなことが起こったのだろうと。しかし、裏ルートに進むために、ステラは少し強引なことをしている。すでに候補を外されていたフィーラを無理やり候補に戻したのだ。そのためのバグなのかと考えた。
現に今、ステラのそばにジルベルトはいない。それにジルベルトの代わりここにいるウォルクとは、この時点での接点ないはずだった。やはりすべてがゲームのままというわけにはいかないだろう。だから、ステラは、サルディナとリーディアのことも、そう大したことはないだろうという結論に達したのだ。
ゲームの中でも、サルディナは何か大きな役割を担っていたわけではない。サルディナがリーディアに代わったとしても、何の問題もない。ステラはそう判断した。
ステラが考え事をしている間に、当のサルディナが入場していた。相変わらず大人びて、色気のある少女だ。ゲームでは、フィーラの下でいい仕事をしてくれた。
サルディナが入場を終えて、次の番になった。ドアマンはメルディア公爵家と言ったので、次に入ってくるのはロイドとフィーラだ。
ステラは扉を注視した。ゲームでは、フィーラは宝石を縫い付けたケバケバしい真っ赤なドレスをまとい、濃い化粧でデュ・リエールに参加していたが、今回はどうなのだろうか。今のフィーラはゲームのフィーラとはまるで違うため、ドレスも違ったものを着てくる可能性は大いにあった。
ステラはフィーラの入場を待つ間、どんどんと胸の鼓動が速まるのを感じていた。
引き続き、ステラが語ります。




