第6話 精霊姫と聖五か国と精霊
この世界には、知られているだけで二十以上の国々が存在する。
さらにその二十以上の国々の内には、聖五か国と呼ばれる五つの国が存在する。
そして、その聖五か国を含めた二十以上の国々の頂点に立つのが、このティアベルト王国と言っても過言ではない。
何故なら、精霊姫が坐す大聖堂が精霊王によりこの地に建てられたからだ。
精霊姫とは、精霊王の愛子。
精霊姫となった者は、すべての精霊と意志を通じ、この世のすべての事柄を把握し、操ることが出来るという。
そして、人間にとっての精霊姫の最も重要な役割、それは精霊に力を与え、魔を抑える。その一点に他ならない。
この世界には精霊と、精霊と対をなす魔と呼ばれる存在がいる。
魔は精霊と同様只人には見えず、だが、確実に人間に影響を与える存在だ。
本来精霊と魔の勢力は拮抗している。光と闇がそうであるように。だが、それでは人間の世界に平穏は訪れない。
いつのころからか、精霊を味方とし、力を与える精霊姫の存在が、魔を抑える礎となってきた。
魔は精霊姫によって抑えられ、それにより人間はこの世界での繁栄を許されてきたのだ。
そのため、精霊姫はどの国々の王よりも、それこそ二十以上の国々の頂点に立つとされるこのティアベルト王国国王よりも、尊い存在とされている。
魔を抑え、人間世界の均衡を保つことを可能とする存在、それが精霊姫だ。
そのため、精霊姫の任期が終わりに近づくと、精霊によってその事実が聖五か国の王たちへと知らされる。事前の通達は、任期が終わってからの精霊姫のいない空白時間をなくすためだ。
精霊姫の任期は、代によって様々で、命の終わりまで全うする者もいれば、精霊姫を辞めたあと、二十年以上に渡って余生を送る者もいる。
その基準は現在でも分かっていないようだが、どの精霊姫の代も、少なくとも一年前にはその旨を人間側へと教えてくれたらしい。
しかし今回は例外中の例外にあたった。
大聖堂より「これより三年ののち、現精霊姫が引退する。よって精霊姫の候補を選定すべし」とのお達しが聖五か国の王家へと出されたのだ。
三年という期間は恐らく歴史上初めての事らしい。その長い猶予期間に首をかしげながらも、すぐさま聖五か国は精霊姫の候補を選定し、精霊姫の選定が始まったことを、聖五か国以外の国へも通達した。
聖五か国は、精霊を育むのに適した自然豊かな地に建国された国々で、この五か国以外から精霊姫が出たことはない。ならば精霊姫の候補も、この五つの国から出すのが理にかなっている。
今や聖五か国の名は、世界中で知らぬ者はいない。娘や妹が精霊姫になるのを夢みて、彼女たちを連れて、生まれた国から聖五か国へと移住する者たちもいる。
だが、彼女たちは候補とはなりえても、それ以上にはなりえない。
そういった者たちの中からは決して精霊姫に選ばれる者が出ないことから、なにかしらの制約のようなものが働いていると考えられている。
だが、先祖代々この地に住まってきたことが条件というわけでもない。結婚して、この地に移住してきたのち、生まれた娘が精霊姫となった例もあるのだ。
そのことから推測されるのは、精霊姫となる条件を満たす者は、この聖五か国の地で生を受けた者に限られるということ。
だというのに、今でも一縷の望みをかけて、この五か国に移住してくる者は後を絶たない。
中には、自ら精霊姫となるべくやってくる強者も少なからずいるようだった。
聖五か国は自然の恵みが豊かであるだけでなく、精霊姫を夢みて移住してくる者たちも少なくないため、結果、人口も増え経済効果も上がっている。
豊かな自然があり、文化的かつ洗練された美しい町並みを、精霊姫を目指す、若く美しい娘たちが闊歩する。それらを目当てとした旅行者も年々増えているらしい。ようするに活気が在るのだ。
ちなみに、精霊姫の候補には年齢制限がない。過去の例を見れば比較的若い娘の方が多かったようだが、中には三十過ぎて精霊姫の候補に選ばれた事例もあるので、表向きは年齢制限はないものとされている。
だからこそ、自らの意志で、移住を決意する者も出てくるというわけだ。
それでも、選ばれる者の多くは十代の少女が多いのも事実ではあるのだが、たとえ候補に選ばれなくとも、聖五か国に来れば職には困らない。そのため移住してくるのは、土地に縛られる貴族よりも、平民の方が多い。
そして、聖五か国から選ばれた精霊姫の候補たちは、このティアベルト王国の学園に集まる。最終的には試練を突破し、すべての条件を満たしたものが精霊姫となり、大聖堂へと入ることが決まるのだ。
精霊と人間との関係は、相互作用で成り立っている。
人間は精霊姫を通して精霊からのあらゆる恵みを享受し、魔を抑える力を得る。精霊は人間と関わることで成長という進化を手にする。そしてそんな精霊たちとの距離が一番近いのは、精霊姫、およびその候補者たちなのだ。
精霊姫や候補者たちは、いわば精霊の教育係ともいえる。だからこそ、我儘癇癪娘であるフィーラは、候補には相応しくないとして教会から外されてしまったのだ。
――今更ながら、精霊教会の方に教わったことが身に染みるわ……。それはそうよね。以前のわたくしだったら、精霊だろうと何だろうと、周囲の人間に振舞うように傍若無人に接していたに違いないわ。精霊がわたくしのように癇癪持ちになってしまえば大変だもの……。
そもそも、人と精霊との交感は精霊姫という存在が生まれるまでは成されていなかった
らしい。
本来精霊は自然そのもののように純粋な存在で、それは魔と変わらない。大まかな感情はあるが人間のような機微は持ち合わせていない。それが人間と関わることで、人間と似たような感情を育むことが出来るのだ。
拮抗する力を持つ精霊と魔によって保たれていた世界の均衡は、精霊が人間と関わるようになり、崩れていった。
魔を抑える。それは人間にとっては喜ばしいことかもしれないが、世界の均衡を正常に保つためには、決して良いこととは言えない。そう警鐘を鳴らす研究者もいるらしい。
――それにしても、こうして改めて考えてみると、相互作用といいつつも、精霊側にはあまりメリットはないように思えるわね。とある研究者のいうように、世界の均衡が崩れるのは精霊とて望まないだろうし……。精霊はとにかく退屈を嫌うっていうから、暇つぶしとして人間側の要求を飲んでくれているに過ぎないのかも知れないわね。
「フィーラ。君は来月から学園に通うだろう? 中には口さがない者もいるかも知れない。大丈夫かい?」
つらつらと考え事をしていたフィーラは、ゲオルグの言葉に一瞬反応するのが遅れてしまった。
「……えっ、ええ。大丈夫ですわ、お父様。これまでのことはすべてわたくしが悪いのだもの。皆にはこれからのわたくしを見て判断していただくしかないわ」
ここまで投稿しましたが、完全に見切り発車です…>_<
設定がガバガバになりそうです。随時編集を行うかもしれません…。




