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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第5話 辞退



「……それと、同時に要考慮とされていた王太子殿下の婚約者候補の話なんだが」


 ゲオルグが言いにくそうに放った言葉に、フィーラは小さく息を飲む。


「お父様、そのことなのですが……、わたくし、殿下の婚約者候補もこのまま辞退しようかと思っているのです」


「フィーラ⁉」


「お父様、わたくしも色々考えたのですわ。わたくしには、精霊姫も、王太子妃も荷が重すぎます」


――もっとも、以前のわたくしはそんなことは露ほども思ってはいなかったけれどね。精霊姫にも王妃にも、自分より相応しい人間はいないと思っていたわ。どうしてああ、自信過剰だったのかしら?


「そんなことはない! 先ほども話しただろう? メルディア家から出た精霊姫も、当初は我儘だったと。しかしそれを克服し、選ばれたのだ」


「もちろん。そのこと自体はとても素晴らしいことと思いますし、そんな素晴らしいお二人がわたくしと同じ我儘姫と呼ばれていたなど、わたくしも救われますわ。ですが、過去のお二人と違い、わたくしはすでに候補を外された身。潔く身を引くのが筋というものでしょう。例外はなるべく作らない方が良いですわ。でなければ、これまで頑張って来た方たちに申し訳が立ちません。メルディア家としても痛くもない腹を探られてしまうかも知れませんし……」


――絶対、メルディア家の権力を使ってずるしたって言われるわよね。たしかに以前のわたくしだったらしそうだわ。持てる力を使って何が悪いの? って。


「フィー、何と立派な……」


 ゲオルグはいよいよ泣き出すのではないかと思うほどに、顔を歪ませ、目を潤ませている。親馬鹿にも程がある。これが本当に氷だの、冷徹だの言われている男なのだろうか。


「分かった、フィー。我がメルディア家は王家の信任厚い歴史ある名家。たとえ君が精霊姫とならなくとも、ましてや王妃などならずともメルディア家は盤石だ。君は君の思うようにしなさい」


「お父様……」



 ゲオルグが言ったことはすべて本当のことだ。今回フィーラが精霊姫に次いで王太子妃候補を外されたとする。

 確かにとんでもない醜聞であり、不名誉でもあるが、誰にとっての醜聞や不名誉かといえば、実のところ、それはフィーラ個人にとってのそれでしかないのだ。

  

 以前のフィーラにとっては、間違いなく醜聞であり、不名誉な出来事だった。そして、それをフィーラ個人ではなく、メルディア家全体のものとして捉えていた。

 さらに言えば、社交界にひしめく多くの噂好きの貴族たちからの評価を恐れていたともいえる。


 だが、王家の信任厚く実力のあるメルディア家自体には、フィーラが候補を外されようが、特にこれといった影響はないのだ。

 それだけの実績をメルディア家は王家に示してきたのだから。


 代々優秀な者が多く、薄からぬ王家の血を持ち、さらに類まれなる美貌すら誇るメルディア家。

 さらには、ひとつの家から一人でれば奇跡とも言われる精霊姫を、メルディア公爵家は二人も輩出したのだ。その事実のみで、世界中の貴族から敬意を示されるに値する。


 精霊姫は世界の礎。敬愛されるべき最高の貴婦人。そんな人物を育てるのにふさわしい血筋なのだと。


――正直、メルディアの名も、精霊姫も、わたくしには荷が重いわ。


「それに……正直私はほっとしているよ。精霊姫となっても王妃となっても、今までのようには気軽にフィーに会えなくなってしまうからね」


「まあ、お父様ったら」


――わたくしが両候補を外されとしても、お父様は本当に気にはなさらないわね。むしろ喜んで一生養ってくれるのではないかしら? あるいはメルディア家に都合の良い家へ嫁がせるって可能性もあるわね。


 近場かつ格下の貴族に嫁げれば、いつでも自由に里帰りは出来るだろう。

 だが、王妃となればそうはいかない。そして、精霊姫もまた、世間から隔離されるという点では、同じようなものなのだ。

 

 要するに、家族といえども気軽には会えなくなる。



 精霊姫になると、王宮と対を成すように建てられた大聖堂が生活の拠点となる。王宮には王が、大聖堂には精霊姫が坐し、それぞれ民の心の拠り所となる。


 過去には、王妃と精霊姫を兼任した者もいたらしいが、その場合、優先されるべきは、精霊姫としての役割だ。


 それほどに、精霊姫は重要な存在であり、その候補たる者にも、それ相応の資質が求められる。


――清く。正しく。美しく。なんて、どこぞのアイドル候補生でもあるまいに、とは思うのだけれど……建前としては貴族令嬢全員そうあるべきと育てられるのよね。……それをダメ出しされたわたくしって、やっぱり結構、まずい立場なんじゃないかしら。


 フィーラはゲオルグに気付かれぬように、こっそりとため息をついた。


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