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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第12話 またもや謝罪



「皆、急に集まって貰ってすまないね。これから娘のフィーラから話がある」


 夕食時、テーブルに所狭しと置かれた料理の数々を見て、フィーラは一瞬眩暈でふらついた。よもやフィーラの改心記念パーティーなどを開くつもりではなかろうかと。

 が、すぐにそれにしては料理の数が多すぎることに気が付き、こちらに向かって片目をつぶって見せる父を見て、その真意に気が付いた。


――ああ、お父様、気が利くわ。これならわたくしの謝罪に対して不満の残る使用人がいたとしても、無礼講で美味しい料理が食べられるとなれば、ひとまず留飲を下げてくれるでしょうから。


 父が席についたのを見計らい、今度はフィーラが席をたつ。ゆっくりと集まった使用人を端から端まで見てから話しだした。


「皆。今日は仕事中にも関わらず急な呼び出しに応じてくださって、ありがとう」

 

 まず、出だしでフィーラが穏やかな口調で礼を言ったことに対して、何人かの使用人の顔に驚きの表情が浮かんだ。だが、すぐさま表情を戻す。長年勤める使用人に関しては、全く表情を変えていない。


――うーん。さすが公爵家の使用人ね。素晴らしいわ。


「あなたたちも知ってのとおり、先日、わたくしは精霊姫の候補を外されたわ。そして、王太子妃の候補もこれから辞退するつもりよ。精霊姫候補も、王太子妃候補も、わたくしでは力不足だわ。そのことにようやく気が付いたの」

 

 フィーラは一旦そこで言葉を区切り、息を吸った。


「気が付くまでに随分と時間がかかってしまったわ。あなたたちには本当に迷惑ばかりをかけてしまったわね。……いつもつまらないことで当たり散らしてごめんなさい。いつも我儘ばかりを言ってごめんなさい。まだわたくしの事を信じられないかも知れないけれど、これからは心を入れ替えるわ。あなたたちのことは頼りにしている。……どうかこれからもわたくしを助けてちょうだい」


 フィーラが一気に言い切ると、はじめ、しんとしていた食堂に、パチパチと拍手が鳴り始めた。音がする方を見ると、コンラッドが笑顔で手を叩いている。

 公爵家当主の侍従でもあり執事でもあるコンラッドの率先しての行動により、ちらほらと使用人の間からも拍手が鳴り始めた。


――ちょっと、強制的ではないかしら。でも、まあ……。


 フィーラは前列にいる、見える範囲の使用人の顔を恐る恐る伺う。内心は分からないが、それでも、誰の顔にも笑顔が見えたことでほっと胸をなでおろす。


「ありがとう。皆、今日は身分など気にしないで……と言っても、優秀なあなたたちには無理でしょうから、羽目を外さない程度に、用意した食事を楽しんで」


 フィーラの言葉に、今度こそ、使用人たちは驚きの声を上げる。そこに、補足をするように、ゲオルグが言葉を続けた。


「皆、フィーラの言う通り、ここにある食事はすべて君たちのために用意したものだ。立食という形にはなってしまうが、まだまだこれからたくさん運ばれてくる手筈だ。各自の仕事は急を要すもの以外、今日は終了していい。大いに楽しんでくれ」


 ゲオルグの言葉を受け、使用人たちから歓声が上がった。視界の端でコンラッドが動くのが見えた。あとは彼が取り仕切ってくれるのだろう。フィーラはそのまま席に座らずゲオルグの側へ行く。


「お父様。今夜はありがとうございます。わたくしではここまで考えられませんでしたわ」


 素直に礼と、自分の至らなさを告げたフィーラに、ゲオルグは優しい笑みを受かべる。


「大したことではないよ、フィー。これでも私は当主だからね。後日、護衛団にも同様に屋敷の料理人を出向かせよう」


「ありがとうございます。お父様。護衛団にはわたくしも後日挨拶をしに行こうと思っておりましたの」


「なんだって! だめだよフィー。君みたいな美しい娘が、狼どもの巣窟に足を踏み入れるなんて! お父様は許さないよ!」


――ええ! 何をおっしゃっているのかしらお父様は。わたくしが足を踏み入れたからといって、護衛対象に護衛が何かをするわけないじゃないの。しかもまだ成人前の子どもよ?


「お父様、考えすぎですわ。護衛団の方たちがいらっしゃるから、わたくしは供も連れずに庭をふらふら出来るのですよ。お父様も護衛団の方を信頼していらっしゃるから、それを許されているのでしょう? 公爵家の娘に粗相をしでかす者なんて、うちの護衛団にはいませんわよ?」


「そうだけど、そうじゃないんだよ……。心の問題なんだ」


「まあ、お父様ったら心配性ですわね」


 親馬鹿なことは知っていたが、そのうえ心配性とは。父の性格を今まで見誤っていたのかも知れない。けれど、そんな父の新しい面を見られたことが、フィーラは嬉しかった。




 にこにこと笑うフィーラを、ゲオルグと、二人の会話を聞いていた周囲の使用人は「分かっていないな」という思いで見つめていた。

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