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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第10話 メルディア公爵家の護衛団



「いや~。それ本当? お嬢様が改心したって」


 

 ジャンは「信じられないな~」といいつつ、皿の上のソーセージをフォークでつついている。


 護衛の宿舎に帰ってから、夕飯の席で、テッドは同僚に今日あったことの全貌を告げた。当然ながら、当事者のテッド以外は、皆半信半疑だ。今も護衛仲間のジャンに説明をしていたのだが、返って来た言葉がこれだった。


「本当だよ」


「いやいや~。だってあのフィーラお嬢様だよ? 信じられないって」

 

 護衛仲間の内でも、とりわけ気の合うジャンだったが、それでもテッドの言うことが信じられないようだ。


「本当だっての! あのお嬢様が! 俺に! 謝ったんだぞ。あと、ありがとうって!」


「いやいやいや~。だってさ、あのフィーラお嬢様の性格が良くなったらさ、どうすんの? もうただの絶世の美少女だよ?」


「それのどこが悪いんだよ?」


「いや、悪くはないけどさ~。あの美貌で性格良いとか、いや良くはなくともせめて普通とか、どうなると思う?」


「どうなるんだよ」


 自分が仕える家の令嬢が美しいうえに性格が良いなど、そんなの良いことしかないではないか。


「男は皆お前のようになっちゃうってことだよ」


「俺のようにって何だよ」


 ジャンは良い奴なのだが、どうにも回りくどいときがある。


「惚れちゃうってことだよ。叶わぬ恋ってやつに身を落とすんだよ」


「なっ何言ってんだよ。そんなわけないだろ!」


 そんなことは決してない。確かにあまりの変わりように衝撃は受けたし、お礼を言われたときは感動もした。だからといって、惚れたということにはならない筈だ。


「おおありだって。お前帰って来てからお嬢様のことしか言っていないぞ」


「だって……それは、衝撃が強かったから……」


「それがすでに惚れてるってことだろ?」


「違うっての!」


「はいはい」


「はいはいじゃねーよ! 違うっつってんだろ!」

 

 ジャンはテッドの言葉に対しひらひらと手を振るのみで、空になった皿を持ってさっさと食堂を後にしてしまった。


 残されたテッドは、違うと己に言い聞かせつつも、ジャンの言葉を完全には否定しきれない自分がいることに気付いていた。


「違う……俺のはただの尊敬だ。だって、悪いと思ったことはちゃんと謝って、使用人の名前も覚えてて、警護するのが仕事の護衛にお礼も言ってくれたんだ。そりゃ今までがどうあれ、素直にすごいと思うだろ?」



「ふうん。それは確かに尊敬に値するな」



 テッドが己に言い聞かせるための独り言に、誰かが返事をした。ここは食堂なので、もちろんテッドやジャン以外の護衛仲間もいる。だが、この声をテッドは聞いたことがなかった。


 落ち着いた低音だが、受ける印象はとても柔らかい。振り返った先に佇む、声の主であろう男を見ても、やはりテッドには見覚えがなかった。仕立ての良い礼服を着た男は、公爵家の護衛でないことは明らかだ。テッドはすかさず席を立ち、敬礼をする。


 男はおそらく公爵家の客人だ。男の服装や佇まいから見ても、男爵家の三男であるテッドより身分が高いことは確実だろう。


 メルディア公爵家の護衛団は王家の騎士団ほどではないにしろ、歴史ある公爵家を護るという責務から、精鋭を揃えている。そして腕が確かならば、出自は問われないため、私兵あがりの平民出身の者も少なくない。

 

 公爵家の護衛など、家によっては子爵家以上の出自でなければ受けないというところもあるのに、男爵家の三男という立場のテッドが公爵家に出仕出来ているのは、純粋に剣が強いからだ。

出自を問われないのは、単に選り好みをしていては人数を揃えられないからという側面もある。


 メルディア公爵家の護衛の数は百人以上はおり、屋敷の使用人たちを含めると百五十人を超える。通常貴族の護衛の数は平均して二十人程度。下位の貴族では十人以下がほとんどだ。

 メルディア家以外の公爵家は他に四家あるが、四家とも平均よりは多いがメルディア家ほどの護衛は抱えていない。ましてや護衛団などと称しているのはここだけだろう。


 なぜメルディア家の警護がそこまで厳重なのかと言えば、ひとえに、過去二人の精霊姫を輩出した名家であると言うことと、ゲオルグのフィーラ、ひいてはフィーラの母ネフィリアに対する深い愛ゆえの事だった。いかなる脅威も妻と娘には近づけない。ゲオルグのその信念は、ネフィリアを亡くした今も健在だった。


「ああ、敬礼はいい。楽にしていいよ」


 男の言葉を受け、テッドは敬礼を解いた。


 あらためて男を見る。同性のテッドから見ても良い男だとは思うが、やはり、その顔に見覚えはない。

 しかし、男の容貌には心当たりがあった。


 黄金と称えられる見事な金髪と、光を受けて輝く若葉のような、淡い緑の瞳。絶世の美男子とは言わないまでも、野性的な荒々しさと甘さの同居した魅力的な顔立ち。

 ……これは、決してテッド自身の感想ではない。護衛団の団長が言っていた言葉だ。そうなると、この男は恐らく……。


「君、名前は?」


 テッドの思考を遮り、男が言葉を続ける。


「テッド・バークと申します」


 敬礼は解いても直立不動の姿勢はそのままにテッドが答える。


「ああ、君がテッド・バークか」


 男はどうやらテッドの事を知っているようだった。話の出どころは恐らく団長だろう。


「ダグラスから君の事は聞いているよ。俺はディラン・コルディオ。聖騎士団所属だ」


 やはり、とテッドは思った。ここの護衛団団長が以前言っていたことがある。自分の知り合いに聖騎士団所属の男がいて、次代の筆頭騎士に選ばれてもおかしくないほどの実力者だと。

 その男の名前が、確かディラン・コルディオだった筈だ。


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