第1話 目覚め
初投稿です。誤字脱字、ご都合主義などご容赦ください。
――ああ、綺麗……。
目が覚めて最初に見たもの。それは、美しい天井画だった。
金と銀で二重に縁取られた円盤の中、星座が細密に描かれた星空を背景に飛び回る天使たち。それらを彩るように描かれた色とりどりの草花。
それが天井画だと分かったのは、前後左右から天井を目掛けて伸びる梁の存在と、背中に感じる硬く冷たい感触からだった。
どうやら自分は仰向けで寝ているらしい。しかも床に直接。
――ああ……ここってどこかしら? こんなに美しい天井画、生で初めて見たわ。
そこまで考えて、すぐにその考えを否定する。
――いえ、違うわ。この天井画には見覚えがある。いつも見ていた……。でもいったいどこで?……日本には、こんなに立派は天井画のある建築物はないと思うのだけど……。まあ、実際にはあったのかも知れないし、わたしが知らないだけだったのかも…って、あれ?
自分の思考の一部に引っ掛かりを覚えた。一体どこに引っ掛かったのだろう。
――日本……日本? 日本って何のことかしら? ……ああ、そうよ。国の名前。でも一体どこの国? ここはティアベルト王国よ?
――何それ? ティアベルト王国なんて聞いたことがないわ。……いいえ、そんな筈はない。ティアベルト王国はわたしの生まれた国の名前。
――わたし……いえ、違うわ。……そう。わたくし。
――わたくしはフィーラ。
――フィーラ・デル・メルディア。栄えあるメルディア公爵家の嫡女にして、今代の精霊姫……になる筈だったわ。
――……昨日までは。
「思い出した……。わたくし……聖堂の床で転んで頭をぶつけたのだったわ」
高く澄んだ、美しい声が耳に届いた。聞きなれた筈の自分の声が、新鮮に感じる。
昨日、フィーラは精霊姫の候補から外された。
過去二人の精霊姫を輩出した名誉あるメルディア公爵家の嫡女が候補から外される。それはとんでもない醜聞だった。
選考の結果、精霊姫になれなかったのなら、何の問題もない。問題は、候補にすら相応しくないと教会から思われたこと。
幸い、候補とは言ってもまだ候補に推薦するか否かの段階だったため、教会関係者や他の精霊姫候補たちには情報が入っているかも知れないが、世間にはまだ広まってはいないはず。まあ、それも時間の問題ではあるのだろうが。
普段からフィーラに甘い父も兄も、今回ばかりは手のだしようがないらしく、二人とも喚き続けるフィーラをただただなだめるばかり。
精霊姫及び精霊姫候補の選出は精霊教会に一任されている。自分の娘を精霊姫やその候補にしたい貴族たちが、圧力をかけたりお金の力で教会を買収しようとしたりすることもあるが、精霊の加護を受ける教会に賄賂や権力は基本、効かない。
基本と言ったのは、受け取るものだけ受け取る不届きものも全くいないとは言えないからだ。
金銭を受けた家の娘が選ばれれば、自分の推薦あってのことだと言い、落ちれば力が及ばなかったと、受け取った金銭から手数料だけ引いて返却する。
いわば賭博のようなものなのだ。良くて全額、悪くても手数料は手に入る。
だが、それはあくまで小賢しい人間同士の思惑であって、それが選考に対して効力を発揮することはない。
精霊姫、及びその候補の選定は、とても神聖なものなのだ。
そのため、当然フィーラが候補に選ばれたのはれっきとしたフィーラ自身の実力であり、メルディア公爵家に対しての忖度など決して存在しえない。
――ない筈よね……。でも、昨日までのわたくしを思い出すと、それも怪しい気がして来たわ。まあ、わたくしが世間でどう思われていたのかは、昨日思い知ったのだけれど。
メルディア家の我儘姫。それがフィーラに対する世間の評価。
そのことを知り、癇癪をおこしたフィーラは敷地内にある聖堂―過去二人の精霊姫を輩出した褒美として、王家から賜ったものだ―に立てこもったのだ。
ストックがなくなるまでは、そこまで期間を空けずに更新出来ると思います。完結できるようにがんばります。