ブルーノとランチ
本日2回目の投稿です
メイベルの代表作といわれる映画を見たけど。
ずば抜けてメイベルが綺麗で、演技もうまい。
人気女優だったのがわかる。
そんなメイベルの謎に今から迫らなくては。
そう思って眠りについた。
◇◇◇
また仕事をしている自分だ。
バックミラーをのぞくと、涼木鈴が映った。
営業車を運転している。
クーラーの効きが悪い。この30度を軽く超える暑さなのに、軽自動車に2人乗っているせいだ。
暑いのでスーツのジャケットを脱いで後部座席に置く。隣には先輩が乗っている。
「涼木さあ。最近なんか悩んでるの?」
上沼先輩は、キリッとした美人でいつも綺麗にネイルを塗り、細身のスーツを好んで着ている。
「いやあ。課長からの引き継ぎ案件なんですけどね。納入業者が見積もり出した時と変わってる事がよくあるんですよ」
「それって受注業者が納入先を変更してるんだよね。お客さんからクレームとか来てるの?」
「いや。別に」
「じゃあ大丈夫じゃない?」
納得できないけど、お客様からクレームは来てないものね。
「そうですね」
そう返事をして運転を続ける。
違和感から目を背けたけど、なんとなく後ろめたさを感じた。
夜、同期の村瀬くんに飲みに誘われた。
「俺、そんな納入業者までチェックとかしてなかったよ。あくまで、見積もり時に出した商品と納入品が同じかと、金額が同じか、しか気にしてなかった」
「そっかぁ。私が神経質なのかなぁ?」
「悪い事じゃないと思うけど。ただし、鈴木は一つの案件に手をかけすぎる所があるからな。もう少し手を抜けよ」
この日はレモンサワーと唐揚げが美味しかった。
◇◇◇
目が覚めると、またメイベルの部屋だった。
涼木鈴の夢は何を意味してるのかな?
寝ぼけ眼で、ベッドから起き上がる。
「コーヒー飲みたい」
キッチンに行き、ベリーに教えてもらった通りお湯を沸かす。
そしてコーヒーを飲んだ。
今日はもう一度図書館に行ってヴェロニカの事件を調べる。
それから、この世界の事も見てみよう。
今日はリトルを見ていない。
ゴーストも眠るらしいからリトルは寝ているのかも。
せっかくこの外見なのに、外に出る時は魔道具のメガネをかけて、セカンドクローゼットの時代遅れの服を着るってなんか変なの。
涼木鈴だった時は、どうやったら自分が魅力的に見えるのかメイクの研究をした。
服もお給料の中で買える好きな物を着ていた。
メイベルの生き方って少し窮屈ね。
そういえば、手紙って過去の見れないのかしら?
そうしたらメイベルを呼び出した人がわかるんじゃないかしら?
指輪を色々と触ってみる。
すると、沢山の手紙が指輪から飛び出した。
鳥の形はしていない。
中を開くと、パーティーの招待状だったり、映画の出演オファーだったり。
これってダイレクトメールなのかな?
次々と出てきて止まらない!どうしよう。
手紙の山に埋もれているとリトルの声がした。
「いらないメールを引っ張り出したのね。もう、スズキスズは!手がかかるわね。指輪を左に2回転、右に一回転してみて」
すると手紙が全部消えた。
「手紙に埋もれてびっくりしたわ」
「でしょうね。メイベルは取り出しもせずに、今みたいに削除してたわ」
私は苦笑いするしかなかった。
「メイベルは過去にもらったメールは保管してなかったの?」
私の疑問にリトルはうーんと考え込んだ。
「もしも保管しているとしたら、左に2回、右に2回。それから中心を2回叩くと出てくると思うわ」
言われた通りやってみたけど、メールはない。
メイベルは過去のメールは保管しない主義らしい。
じゃあやっぱり図書館に行くしかないか。
古い雑誌や新聞を読んで、メイベルの事、ヴェロニカの事。
それからモデルのクリストフ・ヘルソン、実業家のダニエル・カーネギー、スポーツ選手のイデオン・サーストンそして、ブルーノ・ヘイスティングスの事。
小さな鞄に、少しのお金と紙とペンを入れて、少しずつメモを取った。
そんな風に図書館に通って数日経った。
今日も調べ物をしているとブルーノから手紙が届いた。
『あれからどうしてる?ランチでもどう?』
と書いてあった。
『今図書館の新聞の所です。ランチ、是非お願いします』
と返信した。仕事をしている人のところに毎日押しかけるわけにはいかなかったので、頃合いを見て、借りたお金を返すつもりだったからだ。
『じゃあそこで待ってて』
と返ってきた。
ブルーノとランチ。
ここ数日で、食事のマナーなどをリトルに聞いて多少わかるようになった。
すっごく楽しみだけど、メイベルの気持ちを少し考えてみる。
どんな気持ちでブルーノに会っていたんだろう……。
その時だった。
「君、毎日古い雑誌チェックしてるよね。服装も少し前の物だし。ちょっと古い時代が好きなの?」
そう話しかけられた。
「え?ええ。まぁ」
話しかけてきたのは、茶色のボサボサの髪に少しダボっとした服を着たメガネの若い男性だった。
「僕も、好きなんだ」
この子は何がしたいんだろう?何が目的なのかな?
まさかメイベルだと気がついているとは思えない。
曖昧に笑って読んでいた雑誌を片付けた。
それでも男性は動かない。
どうしようかな。
考えるために一瞬目を閉じた。
◇◇◇
……その時、前世の事を思い出した。……
資料室で、過去の資料を調べていたら上沼先輩が来た。
「何調べてるの?」
「いや。過去の実績で……」
すると先輩はちょっと困った顔をした。
「今手がけている案件は、あまり過去は参考にならないんじゃない?」
「それもそうなんですけど、なんかヒントがあるんじゃないかと思って」
……ふわっと思い出した上沼先輩の顔がなんか寒気がした……
◇◇◇
「君、きいてる?」
目の前には茶色のボサボサ髪の男性が立っている。
「え?あっ。ああ……あの」
なんか記憶が混乱して、とりあえず椅子に座り直した。
「ごめん待たせて」
声の方を向くと、ブルーノがこちらへ向かって歩いてきた。
「気分が悪くなったのか?ランチには行けそう?」
そう言った後、ブルーノは私の横に来て隣の椅子に座った。
背の高いブルーノは脚を組んで茶色の髪の男性ににっこり笑いかけた。
「もう大丈夫だから。私が様子を見ている」
その声で男性はおどおどした。
ブルーノは整った顔に長い脚、そして自信に満ちたオーラが漂い、普通の男性では敵いっこない。
「あっ、あの……。もしまた機会があったらね」
そう言って男性は急いでいなくなった。
「立てる?」
ブルーノは手を貸してくれたのでそっと立ち上がる。
「しかし驚いた。君を探すのに新聞のコーナーを2周したよ」
「この世界に溶け込めたかしら?でも、結局、メガネがないとどこも行けないのね」
私の言葉にブルーノは苦笑いした。
「この格好で人目を気にせずに賑やかなレストランに行くか。それとも着替えて貸切のレストランに行くか」
その選択肢に、うーんと悩む。
「貸切!」
「よし、わかった」
ブルーノと馬車に乗る。
そしてメイベルに戻った。
「あの男の子は君をご飯に誘いたかったんだよ」
「ええ?まさか?」
私はフフフと笑った。
「実は、クロに声をかけようと思ったら先を越されたんだ」
「そうなの?」
「クロは一生懸命に雑誌や新聞を見ては何かを書いていた。こう言うのもなんだけど、なんか魅力的だったよ」
「この秘書顔メガネのせい?」
メガネをひらひらと見せた。
「違うと思うよ。クロから出ている雰囲気がなんかいい感じだったんだよ」
その言葉に私はまたフフフと笑った。
レストランはセレブ御用達らしく、馬車からの乗り降りや個室に入るまで誰にも会わなかった。
初めから思っていた事だけど、ブルーノは自然にエスコートしてくれる。
自然に手を添えてくれるし、扉も開けてくれる。
その距離が近い。
そのせいでブルーノの整った顔が至近距離で見える。
日本にいるとエスコートされるとか経験がない。
だから、なんだか恥ずかしくて猫背気味になってしまう。
そんな様子をブルーノは不思議そうに見ていた。
コース料理が出てきたが、一度に全部出てくる。
それは会話を盗みがされたくないセレブのためらしい。
魔法できちっと鮮度管理されているのでどれも美味しい。
給仕が出て行くとブルーノは話し出した。
見惚れていたら何も進まないから、私は涼木鈴の時に培った営業スマイルを浮かべる。
「ここ数日はああやって調べ物を?」
「そう。メイベルの過去を。メイベルとして生きていくにはひつようでしょ?」
「確かに。今日呼び出したのは、メイベルの投与されていた薬について伝えるためだ。入手経路を調べてみたら、スポーツ選手やモデルが使っている筋肉に効く薬を作る過程で出てくる毒だった」
「じゃあ、元女優であるメイベルの周りの人なら、俳優やスポーツ選手が多いから。手に入れる事が出来る人は大勢いるわけね」
「まぁそうなるな。クロはギフトなのに論理的に考えられるんだね」
その言葉に私は笑う。
「私のいた世界には魔法使いはいないの。だから科学が発達していて、みんな論理的に考えられて当たり前」
「へえ科学!科学ってなんだろう?」
「例えば、『何故水は蒸発するか』とか『病気の原因菌を突き止める』とか」
「ふーん。全部、魔法学で突き止められる」
「ずっと気になってたんだけど。ノーマルの人はどうやって生活しているの?魔力がないと大変じゃないの?」
「魔道具だけど、誰でも動かせる物がある」
そう言って手紙を送れる指輪を指差した。
「ただ、専門的な物は魔力を流さないと動かせない。俺はラボの責任者だけど、魔力が多いわけじゃないから動かせない機械もある」
「へえ!魔道具は魔力がないと作れないの?」
「そうだね。でも設計なら誰でも出来るよ」
なんか奥深い話だ。
「俺は魔力が少ないギフトだから論理的に考えられないとこの先大変だと、子供の頃気がついたんだよ。だから猛勉強して、論理的に考えられるようになった」
私はもう一つ気になることを聞いた。
「メイベルはどうだったの?論理的思考は得意だった?」
「俺はメイベルと論理的な話題で話をした事がないからわからない」
「……そっか。ありがとう。ねえ、メイベルとして表舞台に出たいの。手伝ってくれない?」
私のお願いにブルーノは驚いた。
「犯人はメイベルが死んだと思っているから、『メイベルは生きてる』って知ってほしいの。それに人前では狙われないからね」
「確かに、メイベルか半目になってタクシーに乗っているタブロイド紙ではいつ撮られたかなんてわからないな。嘘は書き放題だからな。ただし、あれは事実だったけど」
ブルーノは私がこの世界に来た日の事を言った。
「でしょ?あの日以来、私はタブロイド紙に撮られてないわ。それに、犯人から連絡が来て2人きりで会うことになったら困るもの。誰が犯人かわからないから」
「そうだね。それは言えるな」
「どうすればいいと思う?」
私の質問にブルーノは考えた。
「じゃあ、メイベル主催のパーティーを開けばいいんじゃない?」
「そんなにすぐ出来る物なの?」
「ラボの資金集めのパーティーを開いたら?メイベルはかなりの額を出資してくれたからね。ちょうど、魔法省に承認されたばかりの機械があるから、それのお披露目なんてどうだろう?メイベルのネームバリューはすごいよ?」
ブルーノの提案に対して一晩考えさせてほしいと伝えて、借りていたお金を返してその日は帰った。