図書館に行く
メイベルは死を覚悟していたのかしら?
その辺りは想像でしかない。
「ありがとう。参考になったわ。ところで、国立図書館に行きたいんだけど、行き方や図書館の使い方を教えてくれない?」
「わかったよ。ちなみに君は相変わらずお金のありかがわからないのか?」
「少し見つけたの」
そう言ってお金を出したが、すごい少額だったようだ。
「少し渡しておく」
そう言って硬貨を10枚ほどくれた。
その後、図書館に連れて行ってくれた。
ブルーノにお礼を言って、雑誌や新聞の欄を探す。
見つけた!
新聞の芸能欄を見る。きっとメイベルが有名人なら、ここに誰とどこに行ったのかパパラッチされている筈だ。
昨日の日付から順番に見ていく。
ここ10日間くらいの情報は、先日私がタクシーに乗った時の目が半開きのものしかなかった。
どんどん過去に遡っていく。
パパラッチの記事から推測するに、メイベルには親しい女友達はいないが、よく会っていた男性が三人いた。
そこにブルーノは含まれていない。
1人目は、モデルのクリストフ・ヘルソン
2人目は、実業家のダニエル・カーネギー
3人目は、スポーツ選手のイデオン・サーストン
タブロイド紙には写真も出ていた。
クリストフはさすがモデル。引き締まった体に、長い足。そしてサファイアのように輝く瞳に小麦色の肌。プラチナ色の髪の男性だ。
ダニエルはいくつもの会社を所有する実業家で、クロ髪にダークブラウンの彫りの深い顔立ちだ。
写真を見たけど、大人の色気を感じるタイプだ。
実業家というより俳優のような顔で、やはり背が高く筋肉質で、結婚したい男性ナンバーワンと書かれている。
イデオンもまた違ったタイプで、金色の瞳に蜂蜜色の髪。そして、日に焼けて引き締まった体をしている。
この世界ではポロが人気のあるスポーツのようで、そのスター選手だ。
まあメイベルみたいな美女だと選び放題でしょうよ。
私、涼木鈴は仕事ばかりしていた。
……今日も接待の事を思い出したりしたんだから、徐々に前世?の記憶も蘇るかも。
同じようにメイベルの記憶も少しは取り返せたらいいなぁ。
その後も新聞を調べていった。ブルーノから聞いていた通り18歳で引退したようだ。
それまで出ていた映画はどれもヒットしたようで、トップ女優の引退は当時の新聞の一面記事にもなっていた。
出演作を見たら少しは思い出せるのかしら?
今日は沢山、調べ物をして疲れた。
早く帰ってあのパグ達の作ったご飯を食べてみよう。
そう思って帰りの馬車に乗り、メインクローゼットの服に戻してメガネも片付ける。
帰るとリトルが出迎えてくれた。
リトルにこの世界の事を聞きながらディナーを食べ終えた後、メイベルのアパルトマンを探索することにした。
今のところ、大きなバスルームに、それから、姿見のある部屋。
次の部屋は本がいっぱい詰まった部屋だった。本はジャンル問わずで、小説から魔道具の本まで実に様々だ。
次の部屋は多分、プライベートジムだ。器具の使い方がわからないからブルーノに聞こう。
それからキッチンもあった。パグ達に聞いたら、私も使っていいらしい。今度一緒に料理を作る約束をした。
「ねぇ、メイベルの作品って置いてないの?」
とリトルに聞いてみた。今のところ全く見つけられない。
「屋敷妖精が持っているはずよ。メイベルは捨ててって言ってたけど、あの2人なら捨てずに持っているはずだわ」
いい情報を聞いた。
バスタイムに聞いてみよう。
私が今探しているのはパグ達が入れない部屋。
ここはメイベルの魔力を使ってみよう。
リトルに見られない方がいいのかもしれない。
そう思って姿見のある部屋に行く。
誰に教わったわけではないけれど、私は掌に集中する。
部屋……鍵のかかった部屋。
その時、鏡の中に扉が見えた!
鍵は?鍵穴が見えないという事はパスワードを入れるのかもしれない。
でも、鍵がわからない。
自分ならどうする?
涼木鈴だった時、自分のパスワードなど全てスマホにデータ保存していた。
そうだ!指輪の中のアドレス帳にヒントがあるかも。
小指の指輪を起動させてアドレス帳を開く。
メールアドレスって意外と変なアドレスを付ける人がいるよね。
異世界もそこは同じかぁ。
順に見ていくと気になるアドレスがあった。
「ヴェロニカに捧ぐ」
これだ!きっとこれ。
もう一度掌に魔力を集中させて扉を探す。
すると、姿見の奥に扉が見えた。
私は鏡に手を突っ込むと、ドアノブに手が当たった。
すると扉のところにキーボードのようなものが浮かび上がる。
『ヴェロニカに捧ぐ』
と入力すると、鏡の中に吸い込まれた!
そこには、雑に置かれた書類の山があった。
そして見つけた。
メイベルの過去。
子供の頃の写真が飾ってあった。
やっぱり美少女だ。
部屋を見回して、一際目を引いたのは何かを考察した関係図だ。
中心には『ヴェロニカ』と書かれていて、そこから矢印が伸びて、沢山の名前が書かれている。
女性の名前や男性の名前。
その沢山の名前が蜘蛛の巣ように複雑に線で繋がれていた。
しかも、大半の名前にバツがついている。
バツ印が付いていない名前が4つあった。
クリストフ・ヘルソン
ダニエル・カーネギー
イデオン・サーストン
ブルーノ・ヘイスティングス
メイベルがよく会っていた3人の男性だ!
ブルーノの名前もある。
この4人とヴェロニカとの関係は?
私は手当たり次第、部屋の中にある資料やアルバムを見た。
メイベルの書き残した資料によると、ヴェロニカとは、メイベルの2歳年下の妹で、16歳で死去しているようだ。
その時、メイベルは18歳。
資料の中には沢山の新聞や雑誌の切り抜きがあった。
『聖クリチャード学園の授業中、魔物が校内に入り込み、複数の生徒が噛まれる』というタイトルの新聞記事や、『聖クリチャード学園の敷地内に魔物が現れ、不幸にも噛まれた少女死去』などの記事があった。
タブロイド紙の中には、『悪ふざけのギフトが学園内に魔物放ち、ノーマルの少女が餌食に』とか、『本当に魔物はいたのか?目撃情報少なく、種族特定できず』などの記事もあった。
ただ、どの記事にも被害者の名前はないが、多分ヴェロニカのことではないかと推測される。
これって、メイベルは妹の死の真相を調べていたの?
メイベルが18歳。
それは妹が死去した年。
女優を辞めた年。
そして遺産を相続した年。遺産相続に関しては新聞やタブロイド紙では確認できなかった。
この時に何があったの?
テーブルに積まれている沢山の記事やメモを読み漁った。
メイベルはどのように考察していったのか想像しながら。
そして、バツ印が付いていない4人とこの記事の関係は何なのか。
この年の新聞やタブロイド誌をもう一度読みに明日図書館に行こうと決めて、一旦資料を片付ける。
他に何があるか棚を調べたら、紙製の箱を開けると、ネックレスやピアスなどの宝石類が入れられていた。
これ本物?
よくテレビで見るような宝石専用の箱に入っているわけではなく、まるでオモチャのように20本近くのネックレスやピアスが放り込まれていた。
どう見ても偽物を片付ける時の入れ方だよね。
知りたくなったら、ブルーノの鑑定機にかけてもらおう。
別の箱を開けると紙幣や硬貨が無造作に入っていた。
箱の中に貯金してたみたいにガサガサと入っている。
ここで気がつく。
免許証や保険証的な身分証ってないのかな?
この世界は車を運転するわけでもないし、免許証はいらないよね。
基本的に身分証って必要ないのかも。
ブルーノのラボでは魔道具で人を鑑定していたし。
カフェでも現金支払いだから、カードやウォレット的な物も無さそうだった。
その辺りは深く考えないでおこう。
まだ開けてない箱があるけど、それはまた今度。
私はお金を少し手に持つと、ドアノブを触った。
すると、姿見の前に戻ってきた。
なるほど。この鏡ってそんな役割なんだ。
もう一度姿見を見る。
そこには、この世のものとは思えないくらい絶世の美女であるメイベルがいた。
こんなに美しいのに、メイベルの人生は楽しい物ではなかったのかな?
男性も女性も振り向く美貌。
顔を薬で変えても、服でメイベルだとバレてしまうってブルーノは言っていた。
それくらい人気があったメイベル。
私は鏡に背を向けて、部屋を出た。
するとリトルが楽しそうに近づいてきた。
「ウィラーとベリーが持っていたわ!メイベルの映画!」
「本当に?バスタイムが終わったら見たいから」
私は嬉しくてリトルにそう言った。
「じゃあ、『ウィラーお湯を』」
そしてバスルームに向かうと可愛いパグが震えていた。
「メイベル様、ごめんない。映画……」
あまりにも可愛すぎて抱きしめた。
「怒ってないわ」
2人の姿が可愛すぎて癒される。
メイベルも家の中でこうやって過ごしていたのかな?
リトルを信用していなかったかもしれないが、友達だと思えばそれなりに楽しいし、このパグ達だって可愛い。
なんだか色々な事が前に進んだ気がするので、嬉しいから赤い香油を使ってもらった。
バスタイムが終わると、リトルに映画の再生方法を習って、映画を見た。
アイスクリームの棒のような物に映画が入っているようで、
それを擦ると再生されるようだ。
そして、なによりも驚きなのが、自分がその世界に入って映画を見ていることだ。
VRみたい!
残念ながらモノクロだけど。
メイベルの代表作といわれる映画を見たけど。
ずば抜けてメイベルが綺麗で、演技もうまい。
人気女優だったのがわかる。
そんなメイベルの謎に今から迫らなくては。