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花に誘われる

本日3回目の投稿です。

私は人混みからダンスフロアを眺めた。


コリンヌも、ライザも私の立っているところからは見えないけど、きっと何か進展がある事を期待したい。


ワインを飲もう。


そう思って給仕に近づいたら、ブルーノがワインを2人分持ってこちらに来た。


「スズ……カーネギー氏と会うためにここに来たんじゃなかったのか?」


「そうだけど、目的は達成されたから」


「見ていたよ。君は友達思いだな。カーネギー氏のように、威厳があるタイプに惹かれたのかと思ったけど」


「違うわ。ブルーノこそ。フローラのような可愛らしいタイプが好きなんじゃないの?だから私は遠慮していたのに」


私にしては精一杯の嫌味を言った。


「会いたかったよ。スズ」


「私も会いたかった」


ブルーノへの疑惑の気持ちより、会いたい気持ちが勝っていた。

もしもブルーノが犯人だったら?

アーサー伯爵に対してあんなに酷いことをした人だったら?

私も気を許したらもう一度殺されるのかしら?


色々な疑問が頭を駆け巡ったけど、それと同じ間くらい逢いたい気持ちが強かった。

ブルーノは犯人じゃないって信じる気持ちが強かった。



「どこか2人になれる場所に行かないか?」


「いいわ」

ブルーノは私の手を握った。

私も指を絡める。


「そのルビーの指輪をしているって事は、そのドレスはさっき買ってきたんだね」

「そうなの。急いで買ったのよ」

「向日葵みたいだね」

「その言葉、すごくチープじゃない?」


クスクス笑う私にブルーノは困った顔をする。

「ごめんなさい。困らせてみたかったの」

そう言って、綺麗なイエローのドレスのスカートを眺める。


私の言葉を聞いてブルーノは絡めた指を解いて、腰をぎゅっと抱いた。


「とりあえず、外に出よう」

バルコニーに出ると、外は暗くて、ガーデンライトが点在していた。

そのライトの光が道標のようでなんとも幻想的だ。


人が少なくなると、ブルーノは私を抱き寄せてキスをした。

「ここまでしかできないよ、お姫様」

そう言って、もう一度キスをくれる。


私もキスを返した。


「カーネギー氏のような人に鞍替えしたのかと思って、なんとしても取り返そうとパーティーに来たんだよ」


「バカね。コリンヌのいい人に手を出すはずないじゃない。私はただ……気分転換がしたかっただけ」


上手い返しが思い浮かばずに作り笑いを浮かべる。

コリンヌとカーネギー氏に、お互いの気持ちを知ってほしくて来たんだけど、それをわかりやすく説明できない。


そんな私を見てブルーノは笑った。


「新しいワインを取ってくるよ」

「私のぶんもお願い」

と言って空のグラスを回収用のトレーに置いた。



このなんとも言えないもどかしくて重い空気がいたたまれなくなったのかな?

私はブルーノの背中を見ながら思った。



ブルーノの歩く後ろ姿を見ていると、誰かに呼び止められて挨拶をしているようだった。


さすが侯爵様。やっぱり忙しいよね。

私の相手ばかりしているわけにはいかない筈だ。


私は前を向いた。

目の前に広がる真っ暗な庭園はどこか私の気持ちのようだ。

そう思って庭を眺めている時だった。


「クロさん?」


その声は庭園の方から聞こえた。

私は空耳かと思ったが、もう一度私を呼ぶ声がする。


すると、庭園へ続く階段をダレルが登って来た。

パーティー会場に入った時に見た、このブラクストンホテルのマネージャーの制服とは違う、夜会用の服を着ている。


「ダレル。どうしたの?」


「こんばんは、クロさん。今日は一段と素敵ですね」

そう言って私の横に立った。


「そのデコルテから背中にかけて大きく開いたドレスはセクシーすぎますよ?」


そう言ってショールをかけてくれた。


「あっ、ありがとう」

私はなんだか戸惑ってしまった。

そんなに攻めたデザインかな?


「あっちに大輪の薔薇が咲いてますよ。見に行きましょう」


そう言ってダレルは私の手を引いた。


「わかったわ、ゆっくり行きましょう」

そう言ってダレルについて行った。


庭園の中は、バルコニーから眺めているより人が歩いていて思ったより賑やかだ。


ダレルに案内してもらった薔薇は、本当に綺麗で、眺めている人が結構いた。


「綺麗な薔薇ね。ここって薔薇園なの?」


「そうです。季節ごとに咲くバラを植え替えしながら管理しています。殆どの薔薇は咲きそうになるまで温室で管理しています」


ダレルは胸を張って教えてくれた。


「素敵ね」

私はライザと共に見た、あの温室の夕日を思い出した。

あの時、ネイサンに別館の3階の屋上にある温室に案内してもらった。


植物や花も綺麗だったけど、あの時は見なかった。


「夜に咲く花もあるんですよ。このホテルのエレベーターフロアのお花は、朝と夜で変えてるんです」


「へえー!すごいわね!」


「今から見に行きませんか?」


「本当に?是非行きたいわ」


ダレルの案内で従業員用の通路を抜け、業務用のエレベーターに乗った。


そして、3階で降りると温室に向かった。


そのはずだが……。

何故だろう、視界が狭くなってきた。

声が遠くに聞こえる……。


◇◇◇


「涼木さん、私を呼び出してどういうつもり?」


上沼先輩は怒って私を見ている。


「なんであんな事したんですか?見積もりの業者と、実際のの納入業者が違う取引先が、何件もあるじゃないですか!」


私は手元の資料を見た。


「商品の単価が100万で、実際の納入業者の商品は70万円。でも請求書の単価は100万円。その差額の30万はどこへ行ったんですか?それって横領ですよね?」


「知らないわ!納入業者のやる事だもの」


上沼先輩は私と目を合わせない。


「でも、請求書は上沼先輩が作ってますよね?」


「1ヶ月に10件。つまり毎月300万。年間にすると33600万円です。しかも誰も気がつかないなんて。もしかして、取引先担当者とか皆んな知っててやってるんですか?」


その時、資料室の扉が開いた。

課長が入ってきて、私達を見た。


「それって、涼木くんがやったんじゃないのか?担当顧客は涼木くんに集中しているよ?」


課長は私に罪を押し付けるつもりだ!


「でも、課長からの引き継ぎ顧客ばかりですよ?そんなのおかしいです」


「君が担当してから業者が変わったんじゃないのか?今までの資料は、見積もり業者や納入業者は記載していないからね?それを知っているという事は、涼木くんがやったからじゃないのか?」


私は反論する材料がなくなった。入り口には課長が立っている。


「君は、見た目も性格も可愛くないんだよ。せめて、外見でも磨けば?ああ!そのための横領資金か!整形は金がかかるもんな」

そう言って課長は私を睨んだ。


「君に責任を取ってもらおう」


そう言われて記憶を無くした。

気がつくと、どこかの別荘に軟禁された。


「自殺させるのも、他殺も大変だから、餓死してもらおうか。それともやはり自殺か?」


そして無理矢理睡眠薬を飲まされた。

「もう、後には引けない」

と話す課長の声が耳に響いた。


◇◇◇


目を覚ますと、私は魔法で拘束されていた。

どこか暗い倉庫のような場所だ。


「目を覚ましたか?結局おまえも、男に媚を売るんだな」


その声の主を見ると、ダレルだった。


「お前は、カーネギーから宝石をもらい、その足でブルーノの馬車に乗って!しかもまた最近は違う高級な馬車を乗り降りしている!どんだけ媚を売ってるんだ!」


そう言って、私を縛る縄の拘束力を上げていく。

私は痛みで声が出ない。


「優しくしたらこっちを向くかと思ったが、お前は金や宝石を持った男じゃないと媚を売らない。今だってそうだ!そのルビーの指輪!一体いくらするんだよ!誰に買ってもらったんだ?」


そう言って、私の指輪を抜き取ろうと強く掴む。

しかし、これはライトリング。私の魔法を流さないと外れないから、強く引っ張られても外れない。


「クソ!外れないな!」


思い通りにいかないダレルの怒りでガラスが割れた。

それでは飽き足らず、色々な物が私をめがけて飛んでくる。

顔や腕など、いろいろな所をガラスで切って、傷だらけになった。


「お前みたいなヤツがいるからダメなんだ!」


そう言ったダレルの胸元からネックレスが見えた。

そこにはメイベルのライトリングがぶら下がっている!


こいつがメイベルを殺した犯人だ!


「俺に気があるフリをしながら、色々な男に媚を売る。この前、殺した女もそうだった。魔法薬で顔を偽っている女だった。薬を飲んであの程度の顔なら、元は大したことない筈だ。少し優しくしてやっても、俺を無視する。だから殺して、指輪を抜き取った」


そう言ってメイベルの指輪を私に見せた。

こいつ、殺した相手がメイベルだとは気がついてないんだわ。


「その前の女もそうだった。『私はメイベルの妹だ』って言い張る嘘つきだ。誰に吹き込まれたのか、そうやって言いふらしていた。俺は金を払って密かに鑑定魔法で鑑定したが、全く偽物だった」


そう言いながらも、私をギラついた目で見る。


「あいつの嘘は酷いもんだった。メイベルの名前を出せば皆優しくなるから、あいつは自分がモテると勘違いしていた。あんなブスは俺の目の前から消してやった」


そう言って魔法の力を使い、私を包帯のようなものでくるんでいく。


「ブスはブスらしく俺が優しくしたら媚びてくれればいいものを。勘違いしたブスほど見苦しいものはない」


そういう声が聞こえながらも、包帯のような物にどんどん包まれていった。

これって、クリストフ・ヘルソンが包まれていた繭みたいな物になるの?


助けを呼びたいけど声が出ない!

魔法で声が出ないようにされているんだ!


2度もメイベルが殺されるなんて有り得ない。

なんとしても生きなきゃ。


文字のない手紙でいいから送ればなんとかなるかも。


私は指輪で手紙を送ろうとする。

でも後ろ手に縛られていてうまくいかない。



後は最後の力を振り絞るしかない!



私はありったけの魔力を放出した。

遠くから、誰かの呼ぶ声がするが、繭が分厚すぎて空耳のようになっている。


繭が割れた! 

私を結ぶ紐が切れると、宙吊りだった私は地面に落ちた。


そして、メガネが割れた。


「スズ!」


そう呼ぶ声がして抱き上げられた。


けど、声は遠かった。



◇◇◇


「涼木!涼木!目を覚ませよ」


私は病院のベッドの上で一瞬目を覚ました。


「横領して、それを苦に自殺未遂なんて!俺は信じないぞ!お前がおかしいと相談してきてくれた時、なんで俺はもっと親身にならなかったんだ!絶対にお前の無実を晴らしてやる」


同期の村瀬くんの声が聞こえたが、それが最後の記憶だ……



スズキスズさん。


どこかで私を呼ぶ声がする。

「……もしかして、あなたメイベル?」


「そう。何故か私が死ぬ時、何かの拍子に生き返りの黒魔術が発動したらしいの。『魔物の血を体内に取り込み、午前0時に、毒を飲む。すると異世界より来たりし異人に出逢える』その黒魔術が、偶然のタイミングで全て揃ってしまっていたの」


「……偶然なのね。あなたが殺されたのは午前0時だったって事?」


「そう。偶然、午前0時だったの。スズキスズさん。貴方を巻き込んでごめんなさい」


「いいの。それで、知りたい事はもうわかった?」

私の質問に対して頷いた。


「貴方は、幸せになって。私は本物の妹だと信じて疑わなかったヴェロニカの死をずっと追い続けたの。でも、妹じゃなかったのね。貴方は何かに囚われないでね」


最後の方は小さな声だった……。


◇◇◇



目を覚ますとブルーノに抱き上げられて、担架に乗せられるところだった。


「ブルーノ……」

私の小さな声でブルーノはこちらを向いた。


「スズ!大丈夫か?」


担架に乗せられた私を見て。ブルーノは私の頭を撫でて額にキスをした。


「おはよう、スズ」

ブルーノの優しい声で、少し安堵した。


「私、助かったの?」


「ああ。コリンヌとライザが君を探していたみたいで、私達は君のかすかな魔法の痕跡を追ってここまで来たんだよ」


そう言っておでこにあるゴーグルを指差した。


「私は犯人だとずっと疑われているから、魔法省の監査がついていたからね。それを利用させてもらったよ」


ブルーノはそういうと、視界の隅に見える魔法省の制服を着た人たちを見た。



私はにっこり笑って、担架から手を伸ばした。


すると、その手を2つの手が掴んだ。

ライザとコリンヌだった。


「秘密ばかりでごめんなさい」

早変わりメガネが壊れてしまったため、今はメイベルの姿になっている。

私は今まで自分の事を何一つ明かさなかったことを謝った。


「私は気にしないわ。クロ…大丈夫?私達が貴方を1人にしたから」

コリンヌは泣いている。


「クロ…元気になったら貴方の秘密を聞かせてもらうわ」

ライザは泣き笑いだ。


担架を馬車に乗せる為に、2人は私の手を離した。


こんなに秘密だらけの私とまた親友になってくれるかしら?

そう思いながら目を閉じた。


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