おすすめの買い物
本日2回目の投稿です
そして向かった先は、ブルーノおすすめの古魔道具店だ。
まず、ここでメガネを探す。
「古い魔道具で、『早変わりメガネ』って言うのを探す」
「それってどんな効果があるの?」
「メガネをかけている間だけ、メガネに記憶されている顔に見える」
「薬とどう違うの?」
「他人から見たら、メガネに記憶されている顔に見えるんだ。メガネをかけたり外したりして、いつでも違う顔になれる。メガネが出来た当時、薬は高価で買える人が少なかった。それに。当時、このメガネをかけた同じ顔の人大勢の人が街を闊歩したせいで、すぐに廃盤になったんだよ。顔は50パターンくらいある」
「ふーん。薬だと好きな顔にできるって事だけど、メイベルの顔になりたい人もいるんじゃないの?」
「人の顔には肖像権があるから、他人の顔になる事は法律違反だ」
そういいながら、メガネを漁る。
「美容整形はないの?」
「整形ってどう言う事だ?」
「例えば、鼻にシリコンっていう物体を入れて、物理的に高くしたりするのよ」
「整形という考え方はないな。それだと。なりたい顔が変わった時大変じゃないのか?」
「そうね、それもあるし。メスを入れて上手くいかない事もあるらしいわ」
「それは大変だな」
そんな話をしていたら、しばらく、メガネの入った雑多な棚からいくつかピックアップできた。
「何種類か見つけたからかけてみるかい?ちなみに、当時人気だった顔から順番にかけていくよ」
「わかった」
一つ目のメガネは、確かに美人だった。
子供の頃見たシャンプーのコマーシャルをする外国人モデルのように金髪碧眼の品行方正な顔立ちだ。
二つ目。
愛嬌のある美人の顔だった。異性に好かれそうなセクシーな顔立ちだ。勝手なイメージだけどダンスをしたら得意そう。
そんな感じで複数のメガネをかけていった。
「最後の一つ。これは格段に人気がないみたいで、この沢山のメガネの山の中で一つしかないよ」
そう言われてメガネをかけた。
確かに人気がないのがわかる。
今までどのメガネも多かれ少なかれ社交的な雰囲気だったのに対し、このメガネの顔はこれといって特徴がない。
美人ではないけど、不細工でもない。
「これってどんな需要があったんですか?」
「今までの顔はモテたい、異性に好かれたいがためのメガネだったんだけど。唯一これは、ビジネス用なんだ。でも、魅力的な顔でビジネスした方がいいに決まっているから、これは全然売れなかった」
「フフフ。なんかわかります。当時人気のない商品なら、この顔を見て『早変わりメガネの顔だ』ってピンとくる人はいないでしょうから、これにします」
このメガネを購入してから二つ目の買い物をするために店を移動する。
それは『クローゼット』を買うためだ。
もっと専門性の高い古道具屋に移動するそうだ。
「メイベルのクローゼットは、オートクチュールのすごい服ばかりが収納されている。だから、顔を変えてもメイベルだとバレる可能性がある。かと言って、野暮ったい服を着たらメイベルはまたパパラッチの餌食だ」
「それはわかります、、人気女優がスエットの上下で出歩いていたら、すぐ週刊誌にとられますもんね」
私はうんうんと頷いた。
「スエットってなんだ?まあいい。とりあえず、店主に聞いてみよう。ほら、このコートを着て、服を隠す。それからスカーフでも被って顔も隠す」
言われた通りにスカーフを被ってコートを着た。
「よう。爺さん。安い女性用のクローゼットを見せてほしいんだけど」
ブルーノは店番のお爺さんに声をかけた。
「ああ?坊ちゃんか。そこの女の子が欲しいんかい?」
「ああ。彼女、クローゼットのコレクターなんだ」
「ハッハッハ!面白い。今、用意してやるから試し部屋で待ってな」
お爺さんは立ち上がると、奥の棚の方に向かう。
「了解」
と返事をしたブルーノに隣の部屋に連れて行かれた。
そこは、コンクリート打ちっぱなしのような感じの簡素な広い部屋だった。
ただ、特徴的なのは天井が高い。
「ここの爺さんは、メディアを見ない。だからメイベルだってバレないよ」
しばらくしてお爺さんは、宝石のショーケースのような物を運んで来た。
中には鎖に繋がれた沢山の懐中時計のような物が入ってる。
「わかってるとは思うが、念のため説明だ。ここに書いてあるのが値段。このメモリが容量。容量がいっぱいのクローゼットは服の更新がない。服の更新がないからと言って安いわけではないことは、念のため伝えておくよ」
「ありがとうございます」
「なぁに。お前さん、面白いコレクターだね。じゃあ購入する商品が決まったら壁にいるゴーストに伝えてくれ」
そう言うとお爺さんは部屋から出ていった。
それが合図だったかのように透明な燕尾服を来た若い男性が壁から出てきた。
気がつくと、部屋は応接室のようになっている。
「この骨董屋のゴーストは生前、上級魔道士だったから魔法が使えるんだ」
ブルーノが教えてくれた。
「やあ、ハロルド」
「これはこれはブルーノ様、いらっしゃいませ。本日は女性用のクローゼットですね」
「ああ。掘り出し物を探しに来たけど、長年も売れてない物も見てみたい。興味本位だ」
「わかりました。ではまず。数十年前から売れていないこちらのクローゼットですが、前の持ち主は何代も続いた侯爵家の最後の当主だそうです。試着してみますか?」
ハロルドはやわらかい笑みで私をみる。
「じゃあお願いするわ」
私の返事を聞いてハロルドは指を鳴らした。
すると、私の頭はバブル時代のウエディングケーキさながらのタワー状の重いカツラが乗り、服はごちゃごちゃと沢山の飾りのついたドレスになった。
何故か胸にはアイスクリームのコーンのようなものがついていて、胸からビームが出せそうだ。
そんな私を見て、ブルーノはお腹を抱えて笑い転げているけど、私は立っているのがやっとだ。
なんとハロルドまで笑うのを我慢している!
「重すぎ!早く元に戻して!」
その声と共にブワッと全て消えて元に戻った。
「重かったー」
肩で息をする私を見ながら尚もブルーノは笑い転げている。
「このクローゼットの別パターンも試してみますか?」
ハロルドはすました顔をして聞いてきた。
「絶対に無理!」
「えー!俺は見てみたい」
ブルーノはニヤニヤ笑う。
「それならブルーノ様が試してみましょう。このクローゼットは男女兼用です」
そう言うが早いかハロルドは指を鳴らした。
すると、ブルーノが白いタイツにマイクロミニのカボチャパンツ、そしてパフスリーブの服に変わった。
頭には何故か小さな船が乗っている。
それを見て私も笑い転げた。
「ある意味、ハイセンス!」
ゲラゲラ笑う私を見ながら、
「ハロルド!早く戻してくれ」
とブルーノが言うと、元に戻った。
「ゴホン。この時代のお洋服の特徴としては、女性の胸はトンガって見える事、そして男性のシンボルは大きく見せることが特徴だったため女性の胸のところにはコイルが入っており、男性のズボンの前の部分には沢山のワタが入っております」
そのハロルドの説明を聞いて、尚も2人で笑い転げた。
「じゃあ次の」
「かしこまりました。次のクローゼットは新進気鋭の画家が所有していた物です。こちらも男女兼用です」
そう言ってハロルドは指を鳴らすと、私もブルーノも全身タイツになった。
しかも、何故か蛍光色で背中はガラ空き。顔は、目と鼻だけが露出している。
これも面白くてお互いに指を指して笑った。
こうして沢山のクローゼットを試着した。
面白がってブルーノも試着を繰り返していった。
普通の服が詰まったクローゼットが高い事と、クローゼット自身のセンスも値段に反映される事がわかった。
「クローゼットのセンスってどう決まるんですか?」
「早い話、持ち主のセンスです。センスのいいクローゼットは少なくとも3代に渡ってセンスのいい方が所有していた物です。そういうクローゼットは高値で取引されます」
「そう言う事なんですね」
「あと、予算が少なくて自分のセンスに自信のある方は服が沢山詰まった安いクローゼットを買われます。自分好みの服をクローゼットに教えていくんですね」
「成程。大量に服の詰まった福袋みたいな感じなのかな。センスのいい人は、そんなのでも着こなしできるものね」
私の福袋の意味がわからないのか2人とも何も言わなかった。
私は服のセンスに自信がないのでそのことを伝えた。
「では、中の服は古い型ですがこちらのクローゼットなんかセンスは悪くないと思います。元々容量が少ないクローゼットでしたので沢山服が入っているわけではない上に、服の型が古いのと容量もほとんどありませんので、お安くなっています」
ハロルドのすすめで試してみる。
「確かに服は一昔前のデザインだけど悪くないんじゃないか?髪型さえ気をつければ」
そうお墨付きをもらえたので、このクローゼットに決めた。
ハロルドは往年の映画スターのクローゼットを見つけたらしく、奮発して買うことにしたらしい。
「では、クローゼット二つお買い上げですね。今使っているクローゼットと併用するときは、メインクローゼットとセカンドクローゼットの制定をお願いします。お買い上げありがとうございました」