パーティーに紛れ込む
本日2回目の投稿です。
順番にお気をつけください。
「今日は、水曜日。本当なら夜間学校よね?でも、お願い。私に付き合って欲しいの!どうしても今日じゃないとダメなの」
私は2人に頼み込んだ。
「仕方ないわね!」
そう言ってライザとコリンヌが笑ったので、私は2人に招待状を見せた。
「実は、ブラクストンホテルで開催されるパーティーの招待状が手に入ったので、行ってみたいの!」
招待状を見て2人とも驚いた。
「それってセレブじゃないと入れないんじゃ……。着る服がないわ」
コリンヌが言った。
「だから!今から買いに行くのよ!」
そう言って、2人を無理矢理カフェから連れ出した。
「ねえ、どこに行くのよ」
ライザに言われたので、ドレスショップのセールの手紙を見せる。それをコリンヌも見た。
「ねえ!こんな高いドレス買えないわ!」
ライザが言ったので私はニヤリと笑った。
「コリンヌは知っている事なんだけど、私、実はちょっとカーネギー産業のお仕事をして臨時収入があったの。それを使うのよ。使うなら有意義に!こんなセレブしかいないパーティーって次にいつ行けるかわからないでしょ?ねえ!お願いよ!一緒に行って?」
ダダをこねる子供のようにお願いすると2人は吹き出した。
「確かにこれに一人で行く勇気はないわね。仕方ない。クロに付き合ってあげるわ。でも、ドレスを買ってもらっていいの?」
コリンヌは心配そうに言った。
「セレブのパーティーに紛れ込むと、嫌な思いもするかもしれないわ。例えば金持ち自慢とか、あと、もしかしたら私達のドレスでは安っぽいかもしれないからバカにされるかも。そんな迷惑料よ」
そう言うと二人は笑った。
ドレスショップについて、ドレスを選ぶけど、どんなドレスがいいのか検討がつかない。
「すいません。この招待状のパーティーに行きたいからドレスを選んで欲しいの」
そう言って、店員さんに招待状を見せると驚いた顔をした。
「3人とも今から行きたいの?」
店員さんはびっくりしている。
私達は口々に、そうよ、と返事をした。
店員さんの声は悲鳴に近い物だった。
沢山のドレスから選んでもらった物を試着していく。
3人で何着も試着していく。
「ダメよ。露出が多いわ」
「ちょっと堅すぎる」
「それ素敵!」
沢山試着をしてドレスと、それからハイヒールを決めた。
「貴方達、パーティーは初めて?」
私達は頷くと、ライザとコリンヌの髪型とメイクを整えてくれる。
その間に指輪での会計を済ませた。
もちろん、髪型やメイクも良くしてくれたのでチップは弾んだつもり。
「貴方の髪型もセットしてあげましょうか?」
と言われたので、私は指を鳴らしてセカンドクローゼットの服を見せた。
クローゼットが髪型も整えてくれる。
「成程ね。貴方はギフトで、髪型も服も普段はクローゼットが決めてくれるのね」
残り少ないワードローブの枠にこのドレスを入れてクローゼットに髪型を整えてもらう。
コリンヌは金髪を結い、可愛らしい雰囲気にピッタリなライトブルーのプリンセスラインのドレスに、同色のハイヒール。
ライザは、シルバーのマーメイドラインのドレスに、胸まであるストロベリーブロンドを内巻きに巻いて、ピンヒールの透明なヒールを履いた。
そして私は、セカンドクローゼットがクリーム色の髪の毛をキッチリと結ってくれたので、鮮やかなイエローの背中の大きく開いたAラインのドレスに、ハイヒールを履いた。
これで、3人とも魅力的に見える。
あまりの違いにお互いにびっくりして、馬車の中で賞賛しあった。
「この馬車も高級ね」
ライザは感心しながら中をまじまじと見る。
「これはレンタルよ」
そう言って誤魔化した。
いつも歩いて入っていたブラクストンホテルに馬車で到着した。
御者がドアを開けてくれる。
そしてエントランスに入ると、ホテルの従業員達がにこやかに挨拶をしてくれた。
コリンヌに会うために、あんなにホテルに通っていたのにまた違った雰囲気を感じる。
「私、ここのスイートルームに住んでいたのよね?まるで別世界に感じるわ」
コリンヌはなんだか居心地が悪そうに慣れないハイヒールで歩いている。
「背筋を伸ばしてね。今日は私達はこのホテルのパーティーの招待客よ」
私は小さい声で二人にそう言った。
メイベルになりきる練習のおかげで、ハイヒールで歩くことも苦にならない。
遠くにダレルが働いているのが見える。
今日はネイサンはいないみたいだ。
でも、二人はそんなの見る余裕がないみたいで、ハイヒールで歩く事に苦戦している。
私達は、招待状を見せて会場に入った。
ホールは沢山の着飾った人で溢れて、皆、ワインやシャンパンを片手に談笑している。
こんなに沢山の人の中きらカーネギー氏を探せるのか心配になるけど、やらなきゃいけない。
コリンヌのために。
私は歩きながらシャンパングラスを受け取って、2人に渡した。
そして歩いて来たボーイからグラスを受け取ると、2人の方に向いた。
「クロ!なんか慣れてる雰囲気ね?」
コリンヌは気後れしているのかそう言う。
「そんな事ないわ。パーティーは生まれて初めてよ!それっぽく堂々としてないと周りから浮いちゃうわよ」
私の指摘でコリンヌは背筋を伸ばした。
確かカーネギー氏は誰よりも背が高いはず。
私は背の高い人を探す。
その時だった。
「君達、パーティーは初めて?」
声の主を見ると、タキシードを着た2人組の男性だ。
「ええ、初めてよ」
ライザが答える。
「君みたいな、綺麗なストロベリー色の髪の子は見たことがないよ」
そう言って男性達が自己紹介をしようとした時だった。
「ライザ!」
ライザの事を知っているという事は?
まずい!
もしかして、イデオンが来ているのかも!
私達が振り返るとそこにはタキシードを着てかしこまったネイサン・ナガーがいた。
ホテルの制服じゃない。
「彼女は僕とファーストダンスを踊る約束をしてるんだよ」
と、男性達の間に割って入ってきた。
男性達は自信に満ち溢れたネイサンの雰囲気に押されてどこかに行ってしまった。
「今日はどうしてここに?」
ネイサンはそう言ってライザの手を取った。
「クロがどこからか招待状を手に入れてきたのよ」
恥ずかしそうに言うライザをネイサンは真っ直ぐな目で見た。
「今日は一段と綺麗で見とれてしまう……」
その言葉でライザは赤くなっている。
「私はライザがあのカフェに勤める前から通っていたんだ。ライザはいつも他の常連さんにさりげない気配りをして、みんなとの話に付き合ってくれていて。なんて優しい人だろうって思って見ていた。そして気がついたら貴方を目で追っていて……」
そう言って、ライザの指先にキスをした。
ネイサンは真っ直ぐライザの目を目見た。
その顔は緊張して笑顔がない。
「ライザさん、貴方が好きです。いつか気持ちを伝えないと、貴方を誰かに取られてしまうと思って。もしも私の気持ちに応えてくれるなら、ダンスを一緒に踊っていただけませんか?」
ライザは赤くなって、少し躊躇しているようだった。
「はい…。あの…ダンスは子供の頃しか練習したことがないの……だから」
「ダンスの上手さなんて関係ないです。僕と…踊って頂けますか?」
ライザは頷いた。
すると、ずっと緊張した顔をしていたネイサンの顔が緩んだ。
「あの……私は本気ですからね?貴方を解放するつもりはありませんよ」
探るように小さな声でネイサンがいうと、ライザは真っ赤になって頷いた。
「クロさん、コリンヌさん!2人が証人ですからね」
ネイサンは興奮して私達の方を向いた。
私とコリンヌは手を取り合って、喜びで目を合わせた。
「もちろん!私達が証人!」
コリンヌはそう言うと、2人を押した。
「早くダンスに行きなさい。この曲が終わっちゃうわ」
そう言って私のてを引いて、笑いながら人混みに紛れた。
「私とクロがいたら、きっと恥ずかしくてギクシャクしちゃうわ」
コリンヌはそう言うと、バンケットコーナーに向かった。
私は背の高い人を探しながら歩く。
人混みの中をなんとか歩いていくと、コリンヌのお目当てのバンケットコーナーがあった。
「なんて美味しそうなケーキなの!ボスはパーティーに行くと『食べるものがない』って言うけど、こんなにあるじゃない!」
コリンヌは楽しそうにケーキを見た。
「もう迷っちゃうわ」
そう言いながら、ケーキを眺めていると、私達より少し年上の男性達が近づいてきた。
「ここのケーキはどれも美味しいですよ。特にこのマカロンは絶品ですよ」
男性はそう言うと、マカロンを一つ食べた。
「ええ知っているわ。特にこのラズベリーのマカロンが美味しいわよね。一口で食べられるからメイクの崩れも気にならないし」
クスクス笑いながらコリンヌはマカロンを手に取って一口で食べた。
きっとコリンヌはスイートルームに滞在している時に食べた事があるのだろう。
そして男性達にニコニコと微笑みながら、もぐもぐと食べている。
その様子が可愛らしくて、男性はコリンヌの手を取ろうとした。
この男性と知り合わせるために私はコリンヌをパーティーに誘ったわけではないわ!
私は2人の間に入った。
「あー、あの。私達、人を探しているの。それでは失礼するわ」
私はそう言うと、コリンヌの手を引いた。
「男性達を挑発しちゃダメじゃない!コリンヌは可愛いんだから、そんな態度はダメよ」
私の言っている意味がわからないのか、コリンヌは首を傾げる。
「どこが挑発なの?私は男性に喧嘩を売っているの?」
コリンヌは訳がわからないと言った目で私を見ている。
「もう!そこよ!その態度。男性はメロメロになるのよ。今まで、どうして平穏に暮らしてきたの?あーそうか。仕事では誰とも接触がなかったからなのね」
私はそう言いながらコリンヌを見た。
「もう!クロに従うわ。男性には微笑みかけない!」
そう言っているそばから声をかけられる。
私はその度に言い訳をしてはコリンヌを連れ回す。
カーネギー氏は協賛しているのだから主催者の近くにいるかもしれない。
私は会場の中心にコリンヌを連れ出した。
しかし、それは狼の群れにコリンヌを放り込む事になってしまった。
可愛らしいコリンヌは次々と声をかけられる。
その度にコリンヌは優しい笑顔を向ける。
あーもう!なんでカーネギー氏はいないのよ!
コリンヌは優しいから、誰にでも親切なのよ。
コリンヌがダンスに応じようとした時だった。
「私の秘書は誰とも踊らない」
そうカーネギー氏が言った。
そしてコリンヌの手を取った。
「ス……ズさんも、こちらへ」
カーネギー氏に案内されてバンケットコーナー近くのソファーに座った。
「どうやってこのパーティーに?」
カーネギー氏は私に聞いてきた。
「アシュバードン侯爵に頼んで」
私はそう言って笑顔を取り繕う。
「成程、わかった。しかし、我が秘書は人気者らしい」
カーネギー氏は苦々しい顔をして私を見た。
「ええそうよ。知らなかったの?今日はコリンヌにステキな恋人を見つけようと思ってここに来たの。コリンヌは家庭的で、しかも可愛いわ。それなのに恋人がいないって、単に出会いがないだけだと思うの」
私はそう言ってコリンヌを見て微笑んだ。
「こんなにステキな子の側にいて、魅力に気がつかないバカはいないわよね?」
なんとかカーネギー氏に気がついてほしくてそう言ったけど、伝わらないのか、コリンヌを見ようとしない。
「じゃあ、コリンヌの恋人探しを再開するわ。いい人が見つかったら、きっとコリンヌはその人のために料理をしたり、世話を焼いたりするから、ボスの世話まではできないかもね」
そう言って私は立ち上がり、コリンヌの手を引いて立ち上がらせた。
「待ってくれ」
私はカーネギー氏を見て微笑んだ。
「じゃあ、コリンヌをファーストダンスに誘って下さい」
私の言葉にカーネギー氏は戸惑いながらコリンヌの目を真っ直ぐ見た。
「コリンヌ、私と踊って頂けますか?」
「はい。…足を踏んだらごめんなさい」
そう言ってコリンヌは笑った。
「早く2人でダンスフロアに行ってください!」
そう言って2人の背中を押すと私は人混みへと紛れた。
なんとか上手く行きますように……。
ちょっと2人とも奥手すぎるよね。