久しぶりのアパルトマン
本日2度目の投稿です
アパルトマンに付くと、リトルが出てきた。
「スズキスズ、おかえりなさい」
リトルは楽しそうに飛び回っている。
なんだかどれもこれもが夢の中の出来事のようだ。
そう、これ自体も鈴が見ている夢かもしれない。
初めて会った時から、気持ちが抑えられないと思って盲目的に恋してきたブルーノに対して初めて疑念を抱いてしまった。
私はもう一度メイベルの秘密の部屋に入る。
メイベルが犯人ではないかと疑っていた4人について。
クリストフ・ヘルソン
モデル
今回、事件の被害者として発見。
ヴェロニカの犯人かは不明
ダニエル・カーネギー
実業家
メイベルの事件は不明だが、コリンヌの雇い主。
ヴェロニカの犯人ではないはず。
イデオン・サーストン
ポロ選手
メイベルの事件も、ヴェロニカの事件も不明
話した感じ、短期で後先考えないタイプ。
ブルーノ・ヘイスティングス
ラボの社長
…何を信じていいかわからない
相関図を見ながらもう一度、冷静に考えようとする。
そもそも、ヴェロニカの事件と、メイベルの事件は同じなのかしら?
メイベルは頭のおかしなファンに狙われたとかないのかしら?
頭がぐちゃぐちゃになる。
そもそも私は推理が得意ではない。
バツのついた人の名前を見ていくが、当然だけど見知った名前はない。
その日はパグ達にお願いして、ゆっくりオイルマッサージをしてもらった。
長い間、ラブラの準備した招待状と格闘していて、ライザやコリンヌに会っていない。
何度か手紙が来ていたけど、また今度会おうね、と返信したのが最後だった。
明日はライザのカフェにいく事にして、その日は眠った。
◇◇◇
「涼木さん、今日の打ち合わせの後、課長が話があるって」
上沼先輩が優しい笑顔で話しかけてきた。
きっと私の持っているファイルのせいだろう。
課長から引き継ぎを受けた顧客の半分は、見積もりと、納入業者が違う事を黙認していた。
見積もりの段階で頂いた代金と、実際の納入業者に支払った代金の差額を、課長が横領している可能性がある。
誰がどこまで知っているのかすらわからない。
◇◇◇
久しぶりに前世の夢を見た。
目覚めが悪いのには理由がある。
……リトルがうるさいのだ。
何かぶつぶつ言いながら私の周りを飛び回っている。
「あーもう!コーヒーが飲みたい。それにリトル、朝早くからうるさいわ」
私はゆっくり起き上がると、洗面台に向かった。
それから、もう一度、色々と考えたいから、あのメイベルの部屋にこもって相関図を見る。
やっぱり、ブルーノが1番怪しく思えてくる。
私に与えてくれた情報は事実なのかしら?
それすら疑うとキリがないから、それは事実だと思う事にする。
どれだけ考えていたかわからないけど、お腹がすいてきたので、ライザの勤め先にいく事にした。
メインクローゼットの着替えを済ませる。
「リトル、行ってくるね」
そう言って馬車に乗って出かけた。
馬車の中で、メガネをかけてセカンドクローゼットの服を着る。
それから、ライザがいるカフェの近くで馬車を降りた。
カフェに入るといつも通りでなんだか落ち着く。
「クロ!久しぶり」
ライザが駆け寄ってきた。
「なんだか忙しくて」
私がそう言うと、ライザはクスクス笑った。
「ブルーノとは何か進展があった?」
ライザの質問に私は首を横に振る。
ブルーノは取り調べがあるから、私は自分のアパルトマンに戻ったのだ。
それにブルーノを信用していいのかわからなくなった。
「そっか。まあ色々あるよね。そうだ!仕事が終わったら、ネイサンと新しく出来たカフェに行く事になっているの。クロも行こうよ?」
「ええ?そんなお邪魔だし……」
私はなんとか辞退して、2人で行ってくれる事を願うがダメだった。
「今、ネイサンに手紙を送ったの。返信には、『クロが来るならダレルもくる』って書いてある」
そう言ってライザは含み笑いを浮かべた。
「ダレルって優しくて感じがいいよね」
「そうかな?私は実はちょっと苦手なのよ。初対面から距離が近いもの……」
ダレルは自分のことをよくわかっている。
どうしたら女性の気を引けるかとか。
早変わりメガネで秘書顔の私は、顔が標準的で、メガネのおかげで瞳は茶色に見える。
それに服も古い型だから、真面目な田舎の女性にしか見えないはずなのに……。
何故私に絡んでくるのかわからない。
「ねえ。私は遠慮するわ」
と言うけれど聞いてくれなかった。
結局、4人で行く事になってしまった。
ネイサンとダレルがカフェに来たので逃げられなくなった。
「カフェはここから15分ほど歩いた場所にある」
そう言われて4人で歩いた。
「クロは何の仕事をしているの?」
ダレルに聞かれて何と答えようかと迷っていたら、ライザがフフフと笑い出した。
「クロは、エトホーフト魔道具研究所の所長の、ブルーノの個人秘書みたいな仕事よ。ブルーノと一緒に住んでるのよね」
ライザの含みを持たせた言い方がなんだか面白い。
「そうなんだ。でも、あの研究所の所長って、確か侯爵様だ」
ダレルが突然そう言った。
「えっ。まさか」
ライザは驚いて私を見た。
「クロは知ってたの?」
「ええ。仕事上、知らないと……」
そう言った後、小さい声で「でも公にはしていないはずだけど」と言ったけど誰も聞いてなかった。
そう話しているとカフェに着いた。
「将来を約束できない人と一緒に住んでちゃダメだよ。それとも……それでもいいと思っているなら別だよ。僕ならなんでも願いを叶えてあげられるよ」
ダレルがそう耳元で囁いてにっこり笑った。
……こういうタイプは本当に苦手だ。
私を『モテない女子』だと思って、甘い言葉を囁けば自分の方に向くと思っている。
恋愛経験が乏しいと思っているのね。
たしかに乏しいけど、前世は一応28歳だ。
それなりに色々と経験はしてきている。
「私、別にこのままで幸せなの」
そう真顔でダレルに言った。
「でもね。侯爵家だから、すぐにでも婚約者が決まると思うよ。そうなると、場合によっては酷い扱いを受けるかもよ?」
それでもダレルは笑顔で食い下がる。
私はそれ以上、挑発には乗らなかった。
「ごめんなさい。用事を思い出したの」
そう言って3人と別れた。
そして馬車に乗るとメイベルに戻り、ブルーノに手紙を送る準備をする。
『何か力になれるなら言ってください』
と書いて……消した。
なんて書けばいいかわからない。
何度か送ろうとしたけど、書いては消してしまう。
いっその事、屋敷に行こう。
そう決めてアシュバートン侯爵家に向かった。
侯爵家の門をくぐり、敷地内を走る。
ブルーノの宮殿は、門から入り口までが遠い。
まだブルーノが戻っていなくても、執事に伝言をお願いするつもりで向かった。
アシュバートン侯爵家の前に着くと、そこにはブルーノと、フローラ・ノイル伯爵令嬢が、馬車から降りた所だった。
なんか胸がチクチク痛む。
2人は馬車を降りると抱き合った。
……もう見ていられない。
馬車の中から誰かが見ているのは気がついているだろう。
ただ、私の馬車は何の特徴もない。
しいていうなら、高級な作りだって事くらいだ。
だから、この馬車から見ているのは、女性なのか男性なのかわからないはずだ。
それでもあえて、見せつけている。
もういい。
「私は降りないわ。馬車を出してちょうだい」
そうお願いをして、すぐに立ち去った。
結局、手紙も送らなかった。
私はこの国の貴族ではないので、爵位などはない。
私には何もできないけど、この国の貴族にはできるのかもしれない……。