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距離が近い

本日3回目の投稿となります

あまりの勢いにカフェから出て3人で笑った。


「せっかくだからどこかに行こうか」

ネイサンが言ってくれた。

「でも、行きたいところとかすぐに決められない」

ライザは困った顔をした。


「あっ!そうだ!今、大聖堂の近くにウチのホテルがまたできるんだ。今日はそこの内見をやっている。俺はチーフマネージャーだから内見に行けるんだけど、行ってみない?」


「こんな服で、オープン前のホテルに行ってもいいの?」

ライザが聞くとネイサンは自分の頭を指差した。


「そんな事言ったら俺だってボサボサな頭に、普段着だよ」

そう言って3人で笑った。


ネイサンが提案してくれたので、乗合馬車に乗って行ってみる事にした。

馬車は空いており、すぐに乗れた。


3人で他愛のない話をしながら建築中のホテルへと向かった。


馬車を降りてまず大聖堂を見て大きさに圧倒された。

「すごい!なんて大きいの!」

私の反応に2人は笑った。


「来たことなかったの?」

ライザに聞かれて頷いた。

「やる事が多くて、まだ観光までは……」

そう答えると、ライザは笑った。

「じゃあ、ウチの店に来た後、いつもどこに行ってるの?」

「図書館に行っているの」


するとネイサンがにっこり笑った。

「すごい勉強熱心なんですね」

「そんなわけじゃないんだけど、ウチの田舎と違いすぎて」


「確かに、クロの地方の料理って食べたことない料理だったもの!」

ライザが答えると、ネイサンが興味を持った。


「なんて地方ですか?」

どう答えればいいのかわからなくて、小さな声になった。

「村の名前は知らないの。ブルーノを頼って出てきたから」

そう答えると2人は笑った。

「確かに小さい村ならよくある話だよね」

そうネイサンに言われて私の話は終わった。


よかったーつっこまれなくて。


新しいブラクストンホテルは、昔からここにあった大きな会社の建物を再利用しており、外観は趣ある物だった。


「この建物は、この地区でも1番古いらしくてね。魔石を取り扱う会社の物だったから、天井も高くて、そのまま利用しているんだ」

ネイサンの説明で入口の前まで来る。

すると、まだオープン前なので建築中の囲いがしてある。


ネイサンは囲いの入口に手をかざすと、入口の所に設置してある装置が光り、扉が開いた。


「では、どうぞお嬢様方」

ボザボサ頭なのに、動きだけはホテルマンだったので2人でクスクス笑いながら入った。


囲いで見えなかったホテルの入り口などの外観を見た。

「昔は鉄の扉だったようだけど、それではホテルには向かないから、でも珍しい扉だからそのまま残す事にしたんだよ。だから、入り口は向こう側」


そう言われて歩くと、少し裏側に来た。

「魔石の搬入口だった所を入口に改装したんだ」

そう言って案内されて中に入った。


いつもコリンヌに会いに行くブラクストンホテルとは全く違う内装で、びっくりするくらいクラッシックだ!


「ネイサン」

そう呼んだのは、新緑のようなの髪をした人懐っこい男性だった。


「ダレルも内見に来ていたのか」

とネイサンが言った後、ダレルと呼ばれた男性は私達の所に来た。


「僕はダレル・ガウスです。よろしくお願いします」

「私はライザ」

「私はスズ。発音しづらいので、クロって呼んでください」


「ライザとクロ、よろしくお願いします。もしよかったら僕がガイドをしますよ」

結構見学している人が多い中で、人混みを上手に避けるようにしてダレルは案内してくれた。


内装はモダンクラッシックで、元々の建物のいい所を残しつつ、ホテルに改装してある。

エントランスホールはほぼ調度品などが運び込まれており、本当に素敵だった。


エントランスの調度品を見ている時だった。

「クロさん、ちょっといいですか?」

ダレルが小さな声で言った。

「ネイサンはライザさんの事が好きみたいですね」

そう言われて2人の様子を盗み見た。

ネイサンは確かにライザに気があるようだが、それを悟られないようにしているように見える。



「そうかもしれないわね。もうちょっと2人の時間にしてあげようよ」

私もダレルの意見に同意した。

2人は楽しそうに絵画や彫刻を見ながら話している。


「このまま2人きりにするために、私達は消えましょう」

そうダレルに小さい声で言われて、出口の方に手を引かれた。

「わかった。でも見つからないようにね」

と答えて、2人で外に出た。


ダレルは楽しそうに振り返って、

「あの2人上手く行くといいなぁ」

と言ったので私も同意した。


「それじゃあクロさん、今からどうしますか?」

ダレルは悪戯っぽく聞いてきた。

「あの大聖堂に行ってみたいわ」

私はホテル側の大聖堂を見上げた。

「わかりました。ご案内しますよ」


私とダレルはそっとホテルから出た。

「今頃、2人は私たちを探してるかしら?」

「もし、そうならきっと手紙が来ますよ」

そう言ってダレルは笑った。


「ほら、行きましょう」

ダレルに急かされて大聖堂へと向かう。


周りのお店の雰囲気が違う。

大聖堂のお土産屋さんや、修道院が作った品を扱うお店。

何もかもが珍しい!


「この辺りは初めてですか?」

「ええ!素敵なところね」

「クロさんは本当に何も知らないんですね」

「そうなの」

「じゃあ、この辺りのガラの悪い奴らに絡まれないようにしないといけませんね」

そう言って、腰の辺りを抱き寄せられた。


びっくりしてダレルを見ると笑顔で私をみた。

「このくらいの事でびっくりしないでくださいよ。冗談です」

そう言って笑って手を離してくれた。

……この人はかなり遊んでいるな。


「クロさんて、服装通り真面目なんですね」

そう屈託なく笑う笑顔は人懐っこくて、なんだか怒る気持ちは起きない。

「この世界の男がおかしいのよ」

私が小さい声で言ったことは聞こえなかったようだ。


やはり距離が近いでしょ。ブルーノといい、ダレルといい。


「あっ、あのアイスクリーム美味しいんですよ。ご馳走様します」

そう言って私の分も買ってくれて、大聖堂までの道を歩いた。


「ここは魔石や宝石など、石を扱う店が多いんです。かつては採石場が近くにあったらしいのですが、かなり前に閉鎖したようです。今度オープンするホテルもそんな魔石専門の商社の建物を改装しています」


ダレルは街の構造について説明してくれた。

確かに、そのせいか魔道具の修理屋も多い気がする。


「さあ着きましたよ。大聖堂です」

中に入ると高い天井にステンドグラスが見事だった。

「上を見上げてばかりいるとスリにあいますからお気をつけて」

「そんなにお金持ってきてないから大丈夫よ」


ライトリングなどはメインクローゼットの中にある。

今、私のポケットに入っているお金は、安いお店のディナー代くらいしかない。


「クロさんはどこに住んでるんですか?アパートなどは泥棒が入って危険だからお金は置かない方がいいですよ」


地方から出てきてこんな服装だから心配してくれたのかな。

私はちょっと笑った。


「大丈夫。友達の家に住まわせてもらっているし、セキュリティはバッチリだから」

私の言葉にダレルは笑った。


「ルームシェアですか。それなら安心かもしれませんが、プライバシーは大変ですね」

「大丈夫よ。その点も問題ないわ」

「そうですか。でしたら、またお会いできますか?」


そう言われたので、私はにっこり笑った。

「ネイサンと同じホテルで働くならね」


こういうタイプのいう事を真に受けるとバカを見るのよ。

どうせ沢山の女の子にそうやって声をかけているんだから。



それから帰ると、珍しく先にブルーノが帰っていた。

「ディナーをバルコニーで食べないか?」

そう提案されて、案内されたのは屋敷の最上階のバルコニーだった。


街の建物が見える。

薄暗くなってくると、だんだんとネオンや街灯が付き、遠くが明るく見える。

うっすらと街の夜景が見えた。


ゆっくりとディナーが運ばれてくる。


あまりにも綺麗なので、立ち上がって風にあたりながらワインを飲んだ。


「今日、大聖堂の付近でクロを見かけたよ」

「それなら声をかけてくれればよかったのに」

「嫌…デート中のようだったから」

「気を使ってくれたの?ありがとう」


私は否定しなかった。自分もいつもデートしてるのに、何故私だけこんな怒ったような態度を取られるのかな。


「どこで出会ったんだ?」

「今日初めて会ったのよ」


そして、金曜日からのブラクストンホテルでの出来事や、ホテルのチーフマネージャーのネイサン・ナガーが助けてくれた事。そして今日のイデオン・サーストンがライザに言ったことや、その時もネイサンが助けてくれた事。


そして、カフェを追い出されて、大聖堂側の新オープン予定のブラクストンホテルを見に行って、ダレル・ガウスに出会い、大聖堂を案内してもらった事を説明した。


「そんな事が……イデオン・サーストンがカフェでそんな失態をやらかしたのか」

ブルーノはそう呟いた。


「カフェでの出来事が問題なの?」


「そうだよ。あのカフェのオーナーは、伯爵未亡人なんだ」

「え?」

「あの方は、昔、社交界の華と言われた有名な方なんだよ。社交界に出ていたのは短い間らしいから、それを知る人は少ないけど。でも、常連客にはそれを知っている家督を譲った貴族が何人もいるんだよ。もちろん普通のお客さんも沢山いるよ」


なんとなくわかってきた。


「あそこに通う貴族の方々は普段、社交界や公の場に出てこない。ブラクストンホテルのマネージャーがどこまで知っているかはわからないけど、これはかなりの大事になるな」


そう言ってブルーノは笑いながらワインを飲んだ。


「多分、この事でカーネギー社長は間違いなく名を上げたよ。自分よりもレディの名誉を重んじた紳士だ。きっと取引が増えるよ。同じく、そのカーネギー氏を支持したあのマネージャーの手腕も買われるだろうな。でも、ポロチームのアバーエフはまずいな」


「イデオンはサーストン伯爵家なわけでしょ?大変かもしれないわね」

私もワインを飲む。

すごい話になってきた!


あんなにライザにひどい態度を取った結果が、こんなに大変な事になるなんて思ってもみないだろう。


「まず、ブラクストンホテルのエントランスホールで騒ぎを起こしたという事は、例え深夜でも他の客もいたという事だ。かなり噂になっている筈だ」


「金曜日の深夜の出来事が、土曜日広まった。だから、今日来たんじゃないかしら」


「多分そうだろう。そして騒ぎをもっと大きくしたわけだよ」


「これからどうなると思う?」


「アバーエフの他のスポンサーも降りるかもしれないな。それから、下手をすれば聖クリチャード学園の運営にも影響が出るかもしれない」


「それは……地獄ね」


「でも、これでヴェロニカの件が蒸し返されるかもしれないから調べやすくなるかもしれないぞ」

ブルーノの指摘にそこまで考えてなかった。


「本当だ!もう少し調べやすくなるなら……嬉しいわ。学園は大変かもしれないけど。そうなると、あの不動産の売買に絡んでいたカーネギーさんが大変よね」


「人の心配ばかりなのか?」


そう言って抱き寄せられて、風になびく髪をかき上げられた。

ブルーノの緑の瞳をじっと見る。


指輪はブルーノの髪の色じゃなくて瞳の色にすればよかったかな。

……結局私はブルーノが好きなんじゃない。

指輪の色でそんな風に悩むなんて、高校生みたい。


私はそっとブルーノにキスをした。

ブルーノもキスを返してくれる。


でもそれ以上はない。

そこがもどかしい。

でも、やっぱり自分からは言い出せない。

ブルーノは誰にだってこんな感じなのかもしれないから。 


「疲れたから、もう寝るわ」

明るくそう言ってブルーノの腕から逃げた。


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