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こんなにしつこいとは

本日2回目の投稿です

日曜日、朝起きてどうしても賑やかなカフェでコーヒーが飲みたくてライザのカフェに行く事にした。


メガネをかけてセカンドクローゼットの服を着てから、馬車で向かうと、カフェは今日もお客様でいっぱいだった。


何度か通って気がついたけど、ここの常連さん達、おじいちゃんもおばあちゃんも、若い人も。

みんなライザが好きで、この笑顔をみにくるみたい。


注文しようとしたがボサボサの髪の毛の男性の先客がいた。

「おはようございます。いつものでいい?」

ライザが笑顔で聞くと、男性は何か返事をした。するとライザは嬉しそうに笑う。

「今日も来てくれてありがとう。でも、今日も眠そうね」

ライザは恥ずかしそうに優しい目で男性を見た。そしてはにかんだ笑顔で下を向いた後、いつもの笑顔でこちらに来た。



「クロ、おはよう。クロはコーヒーと?」

「うーん。パンがいい」

私の返事を聞いて楽しそうに笑う。

「金曜日はありがとう!」


「気にしないで。でもさ、コリンヌ愛されてるね」

「本当に!コリンヌが他の男と結婚したいって言ったら、どうするつもりなのかな?」

ライザが想像するような仕草で聞いて来た。


「秘書の結婚は許さん!ってなるのかな?あの様子じゃお互いにまだ何も気がついてないわよ」

私は怖い顔でそう言った。


「コリンヌのボスっていい年よね?……初恋まだなのかな?」

ライザの言葉に2人でクスクス笑った。

よかった。いつものライザだ。


そう思ってコーヒーを待っていたら、帽子を目深に被った男性が入ってきて、空いている席に座った。

そしてライザをじっと見てる。


その視線に気がついたライザの雰囲気が変わった。

「いらっしゃいませ。どうしたの?こんなところに来て」


ライザの様子が変なのでじっと様子を伺う。


「……だから……いだ……」

男性の声が小さすぎて聞こえない。


ライザはちょっと下を向いている。

「あの、、ここはカフェなんですが。ご注文は?」


何かひどい事を言われてるのかしら?

私の位置はその男性との間に4人掛けのテーブルがあるから全く聞こえない。

声が小さすぎる。


ちょうど私の先客だったボサボサ頭の男性が、その男の横の席だったので話に割って入った。

「で。ここはカフェだけど、注文しないなら営業の邪魔だよ」

ぶっきらぼうに男性が注意してくれた。


その声でライザ贔屓のおばあちゃんが帽子の男性を見る。

「あんた、何しに来たんだい?私らの可愛いライザちゃんを困らせるんじゃないよ!」

おばあちゃんがキツく言ったので帽子の男性は一瞬怯んだ。


それでも尚、帽子の男性は小さな声で何か言っている。

「あの。帰ってもらえますか?」

ライザの声が聞こえたが、男性は動かない。


その時、やはり先ほどのボサボサ頭の男性が帽子の男性を見た。

「ポロのスター選手が、カフェの店員を脅しに来たのか?彼女は何もしていないのに!」

男性の言葉で皆の注目が集まる。

この声……どこかで聞いたことがある。

言い方はきついけど。


その視線に耐えかねたのかボソボソと話す男性は帽子を取った。

みんなの顔があっと驚く!

ライザに何か言っていたのは、イデオン・サーストンだった。


「話がある」

そうイデオンは言ったがライザは首を横にふる。

「今は仕事中だし、私はあなたと話したくない。帰ってください!」

そうライザが言ったが帰ろうとしない。


「相手が相手なので、騒ぎになっても困るから、奥の外からは死角になっている席で話しなよ」

ここのオーナーの女性がそう言った。


オーナーの指定した席は、事務所に入るドアの側で、レジの店員の位置からは辛うじて見えるが、他の位置からは見えない。

もちろん通りからも見えない位置だから常連さん達はあまり座らないらしい。


だから、どんなに混んでても大抵空いている席だ。

もちろん、死角になっているので、ここで話していても声も聞こえにくい。


「わかりました」

「ライザ、昨日私もあの場にいたから一緒に話を聞くわ」

私が立ち上がると、ボサボサ頭の男性も立ち上がった。

「この男が信用できないから俺もそばにいる」

そう、低い声で言った。 

「私にはクロがいるから大丈夫!他のお客様に迷惑はかけられないわ」

ライザはそう言ったが男性は納得しない。

「あそこは見えにくい位置だから、何かあったら困る!」

そう男性が言ったら、先ほどのおばあちゃんも頷いた。


「ライザちゃん、みんな貴方が心配だから、私達も貴方を守る人がそばにいてくれたら安心だよ」

おばあちゃんの言葉に、沢山の常連さん達が頷く。

「じゃあお願いします」

ライザは渋々納得して、4人で奥の席に移動した。


イデオン・サーストンは事務所に入って椅子に座るとライザを見た。

「ライザ、昨日、父上とジャロフ叔母上が謝ったんだぞ。それなのにブラクストンホテルは俺達個人の宿泊さえ制限すると言ってきた。そもそも、カーネギー氏が怒ったからだ!全部お前らが悪いんだから、スポンサーの件も含めてカーネギー氏を説得しろ!」


「できません」

ライザはキッパリと言った。


「カーネギー氏がいいといったら、ブラクストンホテルもいいと言ってくれるはずだ!そもそも全てお前が悪いんだ!俺達の祝賀会の日だったのに!なんだよ!朝の新聞にまで、『今後、ブラクストンホテルはアバーエフとその関係者の取引を控える模様』って書かれている!お前のせいだ」

そうイデオンが捲し立てた。


「はあ?お前は何言ってんだ?」

私とライザが反論する前にいち早く声を上げたのはボサボサ頭の男性だった。


「お前らみたいのはブラクストンホテルに金輪際、出入り禁止だ。それは変わらない」

そう男性が言ったので私達はびっくりして男性を見た。


「それに新聞には『関係者の話によると』って書いてあったよな?関係者って誰だかわかるか?」

そう言って男性はボサボサな髪を指で整えて、髪の毛を上げた。

マネージャーのネイサン・ナガー氏だ!!


「だからって、リークしたのは俺だと思うか?身内を疑えよ。リークしたら金が貰えるんだぞ?案外あの騒ぎ立てたババアが犯人じゃないのか?」


「は?ホテルの従業員がそんな態度とっていいのかよ?」


「今の俺は仕事中じゃないから何故お前に丁寧な態度を取らないといけないんだ!あのババアは入って来た時から態度が悪かった。従業員を大した事ない事で呼んでは騒ぐし、エントランスでライザさんに暴力を振るおうとしたしな。本当はそこで出禁だ。でもパーティーの招待客だから一回だけ、見過ごしてやった。そしたらあの騒ぎだ」

そしてマネージャーは鋭い目でイデオンを見た。


「あのババアの一家はもう出入りできない。それに、お前の今日の態度はなんだ?ライザさんにお願いしにきたのか?上から目線で?お前、何様なんだ?お前は爵位を継げないのはみんな知っているから伯爵様ではないよな?ポロの選手様か?」


マネージャーは痛いところをついた!

すごいキレてるね。


「そもそもカーネギー氏をお前はどこまで知ってるんだ?知らないんだろ?ここにいる2人の事も。何も知らないんだろ?俺達はいつもホテルに来るお客様を見ているんだ。どんな人が上客なのかわかっているんだよ。お前らみたいなのは客に値しないから、金輪際出入り禁止だよ」

マネージャーがそういうとイデオンはムキになった。


「お前に何ができるんだよ?いちマネージャーだろ?こんな街の安いカフェの客って事は、たいした生活もできないんだろ?ここに来る時点でお前の生活水準がわかるよ。ここの客のレベルもな。ライザを雇うようなカフェだから最低だろうよ」

イデオンは鼻で笑った。


「お前には何も見えてないのか?このカフェの常連は皆、この空間が好きで来ているんだ。それがお前に何か関係あるのか?」

マネージャーはイデオンを見て笑った。


「貧乏人の強がりか?それとも、こんな金も何もないライザが好きなのか?」

そう言われて、マネージャーの目が鋭いものになった。


「まず、お前はライザさんに謝れ。それからこのカフェと、カフェに来るお客様をバカにした事を謝れ」

マネージャーの目は怒りに満ちていた。


「ライザなんて破産して爵位返上した伯爵の娘で、こんなカフェで安い金で働きながら、ウチの学園に教師として入れてくれって縋ってくる最低の女じゃないか」


「誰もお願いしてないし。私は自力で先生になるために夜間学校に通ってるんだよ!」

ライザが怒ったがイデオンはバカにして笑う。


それを見て、マネージャーはため息をついた。


「お前みたいな最低な人間を見た事がない。もう出て行け。お前の顔は2度と見たくない」

マネージャーがそういうと、イデオンは更にバカにした。


「俺も安いカフェに通うような奴の顔は見たくないね。そこの店員もな!」

そう言ってイデオンは出ていった。


ライザの目には涙が溜まっていた。


「ライザさん。申し訳ありません。あなたを守ろうと思ったのに、あなたのセンシティブな事を、このような人に聞こえる場所で言われる結果となってしまいました。本当に申し訳ありません」

マネージャーはすごく謝っている。


それを見て、ライザは首を横に振る。


「大丈夫です。でも、長い事通ってくれていた常連さんが、まさかブラクストンホテルの方だったなんて!しかも、私達によくしてくれてたネイサン・ナガーさんだった……」

ライザは困ったように笑った。


「あなたはいつも、誰に対しても率直で、裏表なく接してくれますよね。だから、ここの常連さんは皆、貴方が大好きですよ。私も仕事柄わかります。だから、これからも今までと同じでいてください。ここを辞めないでくださいね」


色々な人が聞いているこの場所で自分の過去をバラされたら、私ならやめるかも……。

だから辞めて欲しくないと、マネージャーは先回りして言ったんだ。


「はい。辞めません。辞めても行く先もないもの。ここの上に住んでいて、この建物のオーナーはカフェのオーナーだし」

そう言ってライザは、笑った。

ちょっと自虐的にも見えた。


このままなのは心配だ。

落ち込んで仕事も手につかないかもしれない……。

気晴らしにどこかにライザを連れて行ってあげたいけど、この街の事を私は全然知らないし。

そうだ!


「ねぇナガーさん。今日はお仕事はお休みですか?」

私はいい事を思いついたので聞いた。

「ああ。はい。休みですよ」


「じゃあ、ライザをどこかに連れて行ってあげてください。私はこの街のこと全然しらないから。私の代わりに、ライザを笑顔にしてください。そのかわり、私は今日、ライザの代わりに働くわ」


学生時代、飲食店でのバイト経験があるからきっとなんとかなるはず!

ライザが何か言おうと口が動いた時だった。


「そうだよ、遊びにおいき」

「行くなら、今日はこの先の並木道がいいよ」

「若い人はもっとお洒落なとこがいいよ」

「水族館はどうだい?」


なんて声が色々聞こえてきた。


私達3人は奥の席から立ち上がって、店内が見えるところまで移動した。


「ライザちゃん、ごめんな。俺たちは心配で、話が終わるまでみんな黙って待っていたから。あのポロ選手の声が大きくて聞こえてしまったんだ」

常連の杖をついたおじいちゃんが言った。


「聞こえてないフリはフェアじゃないからね」

新聞を持ったおじいちゃんが言った。


「あのポロ選手、腹が立つね」

常連さん達はお互いに顔を合わせて言いたい事を言い合ったので店内がザワザワした。


カフェのオーナーさんを見ると笑っている。

「そこのお嬢さんのお手伝いがなくてもなんとかなるからみんなで行っといで」


ライザがもたもたしているのを見たオーナーはギロッとライザを見た。


「ほら、さっさとエプロンを脱ぐんだよ!私にドレスまで脱がされたいのかい?アンタら2人!早くライザを連れてお行き!」


肝っ玉母さんみたいな雰囲気のオーナーは、ぶっきらぼうにそう言って、犬でも追い払うかのような勢いで私達3人はカフェの外に放り出された。

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