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行方不明の指輪

馬車に乗った後だった。


「あの!本当に申し訳ありませんでした……」

ライザは、どうしていいかわからないようだ。


「私は色々な所のスポンサーをしている。別にポロが好きでスポンサーをしていたわけではないから気にする事はない。コリンヌは私には無くてはならない秘書だ。その友人を大切にしなかったばかりに辞められては困るのだよ」

鎮痛な面持ちで言うカーネギー氏はどこか憎めない。

全てはコリンヌを中心に回り始めているわ……。


「それに、あまり公にはしていないが私にも爵位がある。もちろんコリンヌは知っている。秘書だからその点も知っていないと私の片腕は務まらない。あの場にいた者の中で、私より上の爵位の者はいないのだよ。と言う事はどういうことかわかるかな?」


それを聞いてライザは少し笑顔になった。

ライザが耳打ちしてくれたが、爵位が上の者の名誉を下の者の立場で公の場で傷つけたら、場合によっては決闘物だそうだ。

決闘?!

なんだか、名誉を重んじる世界なのね、貴族って。


「やっと笑顔になった。コリンヌに心配をかけて辞められたくはない」

それを聞いてライザと私は吹き出した。

本当にコリンヌを気に入っているんだ。


そうしてライザと私は無事に送り届けてもらった。

ブルーノの屋敷に戻ってからメガネを外す。

ブルーノはまだ戻っていないようだった。

私とブルーノには元々何もない。

兄妹みたいなものだ。

ブルーノのプライベートには口を出さない。

いつも通り、私はすごすだけた。



土曜日、メガネをかけて図書館に来た。

そしてメイベルの写真を調べている時だった。

沢山のタブロイド紙や新聞をチェックしたら、一枚だけ、宝石店に入っていくメイベルを盗撮した写真を見つけた!


『エタニティ宝石店』

もしかしたらメイベルはここで指輪を買ったのかも!


すぐにブルーノに連絡をしたら、図書館まで迎えに来てくれた。

「さすがクロ!そんな方法で宝石店を見つけるなんてすごいよ」

「ありがとう。でも、メイベルと一緒に宝石店に入るところを誰かに見られたら誤解されない?心配する人とかがいるんじゃない?」

そう言うとブルーノは笑った。


「確かに大騒ぎになるから困った事になるな。誤解されたらまずい相手もいるのは確かだ。だから、馬車の停車場まで貸切にしたよ」

さすがブルーノ抜かりなかった。

あのグリーンの髪の女性にはそんなに誤解されたくないんだ……。


胸の奥がチクチクと痛む。


いつもならこんな気持ち気がつかないフリができるのに。

私は無理矢理笑顔を取り繕った。

でも私の笑顔は不自然だったようだ。


「クロ、なんかあったか?」

「なんでもないよ……」


メガネを外し、メインクローゼットの服を着る。


そして宝石店に到着した。

事前に連絡してあったので特別室に通してもらった。


「いらっしゃいませ、イスト様、アシュバートン侯爵様」

「突然、貸切にしてもらってごめんなさい。以前、私が購入した指輪を無くしたから、同じデザインのものがほしいの」

「かしこまりました。今お持ちしますが、あれは特注でしたので、今こちらに残っているのは試作品です」


そう言って持ってきてもらったのは、かなりデザイン性の高い指輪で、プラチナの土台が糸のように複雑に絡み合い、その上に紫に光る石が嵌められていた。


「メイベルがいつも付けていた指輪と同じデザインだよ」

ブルーノが小さな声で教えてくれた。


「他にこの指輪はあるのか?」

ブルーノがそう言うと、店主は首を横に振った。


「これは特注品なので、イスト様がご購入された物と、こちらしか、このデザインはありません。これは試作品で、アメジストでお作りしています。実際にイスト様が購入されたのは、パープルサファイアにご自身のプライバシーを守る付与魔法を付けた物でしたよね?」


「ええそうね」

そう答えてみたけど、本当かはわからない。


「このアメジストの指輪、購入していくわ。この指輪に、落とした時のために探し出す魔法を付与してほしいの。後はシンプルな指輪をお願い。デザインとしては働きだした若い女性でも手が届くような」

メイベルの口調で話す努力をする。


「わかりました。お待ちください」


そう言って持ってきてもらったのは、細いリングに大きな丸くカットされた石がはまった物や、同じく細いリングに大きな石をスウェア型にカットした物がついた物だった。


大きな石の周りを指輪と同じ金属で囲ってあるため、まるで宝石に額縁がついているようだ。

大きな石と細いリングという組み合わせで、確かにこのデザインだとイミテーションの宝石を使っていると思われるだろう。


そういえばこのデザイン、街を歩いていると若い女性向けのお店のウインドウに飾ってあるのを見たかもしれない。


「こちらはエメラルド、サファイア、ルビーが定番です。こちらの品物は既に付与魔法付きです。それぞれが持ち主を守る効力を持っています」


「どの指にするのが定番で色が人気?」

私の質問に店主はにっこり笑った。


「そうですね。宝石はエメラルドが人気で、皆人差し指につけられます」

店主の言葉を聞いて、指輪を選ぶ。


どうせならブルーノの髪の色にしよう。

私はルビーのスクウェア型の指輪を選んだ。


小切手を切って指輪を買うと、そのまま銀行に連れて行ってもらえる事になった。

馬車に乗って、指輪の箱を開けた。アメジストの指輪には小さな呪文の書いた紙が入っていた。


「このアメジストの指輪を探す呪文の紙、2枚入っているわ。私、よくなんでも無くすのよ。こんな小さい紙、間違えて捨てるかもしれないし。ブルーノ1枚預かっといて」


「メイベルの口調になってきたよ」

そうブルーノに言われて私は少し笑う。

「いつか、私かメイベルかわからなくなるかもよ」

その言葉にブルーノは笑った。


「ところで、銀行って土曜日も開いているの?」

「セレブ専用銀行だからね」

そう言ってブルーノはウインクした。 



銀行に到着すると、すぐに案内係の男性が出てきた。

「いらっしゃいませ。ブルーノ・アシュバートン侯爵様、メイベル・イスト様。お待ちしておりました」

そう言われて案内されたのはまたもや豪華な個室だった。



お金持ちしか相手にしない銀行はやっぱりすごいわ。

前回のお部屋とは違い、個室専用のお庭がついている。


「いらっしゃいませ。支店長のカーブランてございます。メイベル・イスト様、アシュバートン侯爵様」

前回と同じ支店長が出てきた。


「今日は私も用事があるが、メイベルの方を先に」

ブルーノが言った。


「かしこまりました。ではイスト様のご用件を承ります」


「ここ5年間の記録が欲しいわ。あと、ライトリングを作ってもらおうと思うの。ライトリングは1度嵌めたら取り外しはできないの?」


「そのようなことはございません。決めらた手順を踏んでいただければ取り外しは可能でございます」


「その他にはどんなケースなら取り外せるの?」


「それは、持ち主の方がお亡くなりになった場合、残念ながら脈が止まった事が確認できれば取り外せます」


だから、一度メイベルが死んだ時に外れて落ちた、又は犯人が持って行ったんだわ。


「落とした場合、どこにあるのか探せないの?」


「それはお客様のプライバシーの観点から、そういった機能は付与しておりません」


「わかったわ。では、この指輪をライトリングにして欲しいの」

そう言ってルビーの指輪を出した。


「これはまた!かなり価値のルビーでございますね」

店長の言葉に私はにっこりと笑う。


エタニティ宝石店というあの店は、本当のお金持ちしか入店を許可されないようで、宝石も最高級品しか扱っていないようだった。

当然、アメジストの指輪も最高級品のアメジストだったから想像の何十倍のお値段がした。


「では、一時間ほどお時間をいただきますが、まずこちらの装置に指輪を入れます」

それは、単なる箱のような外見だった。


「それから、この箱を持ってご自身の魔力を込めてください」

言われた通りに箱を持って魔力を込めた。


「それから魔力発動の言葉を決めてください」

そう言われて紙に文字を書き、店長に渡した。


「では、ここから専門の物に引き継ぎますので箱をしばらくお預かりします」

と言ってどこかに持っていってしまった。


その間に、ブルーノは今回のパーティーの資金集めの口座の作成と、アシュバートン侯爵家の口座の作成を行った。


私がお願いした記録は、すぐに紙にして封筒に入れて渡してくれた。


そして出来上がったライトリングは、どこに加工をしたのか全くわからなかった。


「付け方は普通に指に嵌めるだけです。外し方は、イスト様がルビーに触りまして魔力を込めます。それから、指の関節あたりまで外れますので、指輪の内側の文字を唱えながら更に宝石に魔力を込めると外れます」


そう言われて指輪の内側を見ると確かに文字があった。

先ほど紙に書いた文字だった。


私は「涼木鈴」と書いたが、その前に発動の呪文が書かれていた。


そして、よーく見ると、呪文の最後には銀行のマークが入っていた。


後でブルーノに聞いたら、この魔術の特許のマークの代わりに銀行のロゴを入れてあるそうだ。


「メイベルの指輪にしなくてよかったのか?」

「変装してるのに、あの指輪をしていたらおかしいでしょ?」

「それもそうだな。本当にどこに行ってもメイベルになってきたな。クロじゃなくてメイベルと買い物に来ているみたいだ」

買い物はそれなりに楽しくて、その日は終わった。


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