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メイベルに何が起きた?

ブルーノは私の歩く速度など計算に入れてないかのようなスピードで歩いていく。

「待ってください」

ブルーノに追いついたところでちょうど入口だった。


入り口にはセンサーのような物が付いていて、私達をスキャンする。


『ブルーノ・ヘイスティングス26歳。ギフト』

機械のような声がした。

『メイベル・イスト。22歳。ギフト』

私が通ると、同じように声がした。


「今のはスキャナー?」

私の独り言にブルーノは天井を指差した。

「君の言うスキャナーが何かは知らない。これは魔道具だよ。危険人物が入り込まないようにね」

指さされた所を見ると、なんとも言えない不思議な形をした物があった。


「先に進もう」

そう言われて連れて行かれたのは、CT検査ような機械のある部屋だった。

「これに寝て」

と言われて大人しく寝っ転がった。

「上下逆だよ。あと、靴は履いたままね。今から色々な事を検査するから。寝っ転がった君は、あのゲートを抜ける。その時に、頭痛がしたりするかもしれないけど、我慢して」


CT検査のように頭から丸い穴に入っていくかと思いきや、足から入るのだった。

慌てて足からゲートに入るように上下逆に寝る。

「では、怖がらないで。……まだ承認が下りていない魔道具だけど実証済みだ。」

そう言ってブルーノは部屋から出て行った。


すると、部屋の明かりが薄暗くなって、ゲートの中がピンク色に光った。

『起動します』


先ほどのように魔道具が喋った。

それと共に1秒間隔でポーンと音が鳴って、ゆっくりと寝ている台が動き出した。


『血液検査……怪我……疾患……記憶検査』

魔道具の声と共にどんどん体がゲートに吸い込まれていく。

『開始』

なんとなく不気味で目を閉じた。



すると、会社で働いていた光景が思い浮かんだ。オフィスからノートパソコンを鞄に入れて客先に向かい、企画書の話をする。一人で近くのコンビニでおにぎりを買って、公園で食べた後、次の客先に向かい、その後会社に戻って、同僚達と居酒屋で飲んでいる。

そうだ!昨日、企画書の打ち上げだったんだ。

でも、そこからの記憶が曖昧になっているようでイマイチ何も見えなかった。



しかし、次に映ったのは、パーティーで騒いでいるメイベルだった。そして突然真っ暗闇になり、そこから這い出して、道路に飛び出し、馬車を止めて、メイベルのアパートに向かう光景だった!



混乱する…。

その時、魔道具の声がした。 

『検査終了です』

その声で目を開けると、ブルーノが心配そうに覗き込んでいた…。


「大丈夫か?」

「ええ、あ。うん。大丈夫」

するとブルーノは私に手を差し出してくれた。

「起き上がれる?」

私はその手を掴んでゆっくり起き上がった。


「結論から言わせてもらうと、君の血液に入っていたのは致死量の毒だ。生きて動いているのが奇跡なくらいの」 

その言って、白い結晶を見せられた。


「これは君の血液から除去させてもらった毒」

「それって?どう言う事?」


「この魔道具は大怪我をした軍人だったり、特殊な病の人を検査治療する。場合によっては、怪我などで記憶喪失になった人の記憶治療も施す。今のところ末期の患者で臨床実験中なんだけど、あのゲートが光っているのは、あれが治療光で、あれに当たるとどこが悪くて何を投与すればいいのか判別し、治療してくれるんだ」


「ファンタジーで見た事あるけど、治癒魔法みたいな感じ?」

私の質問にブルーノは苦笑いした。


「まぁそうかな。しかし、記憶の治療もびっくりしたよ。あれが君のいた世界?一瞬しか映らなかったけど、部屋に居た人間がみんな黒い服を着てたね。それから高い建物の間を歩いて…。2秒くらいしか映らなかったけど、もっと見てみたかった」

黒い服って!スーツの事だ。


「その後、メイベルの記憶が一瞬出たけど、パーティーの参加者の顔は曖昧だった。そして、暗闇からは君の記憶だね?そこからはゆっくりで鮮明だった」

「そうだ。目が覚めたら暗くて狭い、廃材置き場みたいなところにいたんだ」

私はあの狭くて暗い所を思い出した。


「ああ。君の記憶で見たよ。あのタクシーの運転手の顔は君の記憶で見たから、どこで君を乗せたか聞きに行こう」

「私も一緒に行きたい」

とお願いすると、ブルーノは困った顔をした。


「そっか。君はこの世界の人間ではないから知らないかもしれないけど、メイベルは人気の女優だった。しかし祖母が亡くなって莫大な資産を相続した事を機に引退したんだ」

「何故女優を引退したのかしら?」

「その事について、メイベルは誰にも話さなかった」


「そうなんだ。ブルーノはメイベルとはどんな関係なの?」

「メイベルはここのラボの出資者だ。たまに今日のように、ワガママだかなんだかわからない理由で呼び出されていたんだ」

そう言ってブルーノは寂しそうに笑った。


「もう、あのメイベルには会えないんだな」

「そんな事ないんじゃないの?時間が経つとメイベルは目覚めるんじゃないの?」


「検査結果では、メイベルは一旦完全に死んでしまったんだ。その証拠に致死量の薬物が体に残っていて、こんな事言いたくはないけど死体が動いている状態だった」

「何それ!」

死体が動いていると言われて、顔が引き攣ってしまった。


「もう体内の薬物は除去して、体が正常に動いているのも確認できた。メイベルの事だけど、体が死んだからといって魂まで死んだとは限らない。それは神のみぞ知ると言ったところかな。それしか希望の持ちようがない」

そう言ってブルーノはわざとらしく微笑んだ。

「そっか。今はまだ眠っているだけかもしれないものね」


「じゃあ、君が目覚めた場所を見に行こう。君の名は…?」

「私は涼木鈴。前の世界では28歳だったの」


「スズキスズ。発音しづらいな。しかも歳上か」

「発音しづらいってリトルも言ってたわね。あの、ファーストネームか鈴で、ファミリーネームが涼木なの。だからスズって呼んでくれればいいわ」

「わかったよ。でもそのスズ自体が発音しにくいんだ。だから……黒と呼んでいいか?ほら、君の映像を見た時、みんな真っ暗の服だったじゃないか」



よくゲームで主人公の名前を自分の名前に変えるなんて話を聞いたことがあった。

今、まさにそんな気分に一瞬なってしまった。ブルーノが私の名前を呼んだ時、もう胸熱になった。

スズって呼ばれてめちゃくちゃときめいた!


私は彼氏が出来たことがないから、気になる異性から名前で呼ばれた経験がない。

どうせリアルな男子は振り向いてくれないからと、2次元に恋したこともあった。

今までの人生で、海外の俳優に心奪われることも何度もあった。

アニメキャラにも熱くなった。


でも、俳優より、アニメより、CGよりそれより上の美形男子に今、リアルで名前を呼ばれたので舞い上がったのに。


よりによって、発音しづらいから私の呼び名が黒。

クロ!犬の名付けみたい。しかも、近頃の犬はもっと可愛らしい名前を付けられているのに……。


なんだか複雑な気分。

ちょっと恨めしい目でブルーノを見たけど、全然気がつかない。


「メイベルの外見はすごく目立つ。どこに行ってもパパラッチが待ち構えている。だから、魔法薬で顔を変える方法を学んでみるか?メイベルはよく使っていた」


「はぁ???魔法薬で顔を変える?何言ってんのよ!この女神のように美しい顔が、鏡やガラスに映るたびに、どんだけ見惚れると思ってるのよ!」

ブルーノは私が何に対して怒っているかわかっていないようだ。


「この宝石のような瞳。艶々の唇。透き通るような肌。こんな女神のような顔を鏡を見るたびに拝めるのよ?そんなラッキーを手放すわけないでしょ!」

私がすごい剣幕で捲し立てるのを見てブルーノは笑い出した。


「メイベルが自分の顔を自画自賛しているのってなんか面白いな!」

「笑う必要なんかないわ。一日中鏡を見て過ごしたいくらいよ」

私は腕組みをしてブルーノを睨んだ。


「メイベルの顔してるのに、中身は全然違うな。ハハハ!最高に面白い。でも、真面目な話、メイベルがパパラッチに怯えていたのは確かなんだ。だから、どうにか出来ないか?顔を変えるのは嫌かもしれないが、お願いだから一度だけ変えてほしい。それで……」


ブルーノのススメで一度だけ魔法薬を飲んで顔を変えて、買い物に出かけた。

お金もどこにあるかわからないので、ブルーノに借りた。

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