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カーネギー氏を怒らせると怖い

本日3回目の投稿です

エンドロールが流れ出したところで、カーネギー氏が主賓室から出てきた。

「私はそろそろ帰ろうと思うが、2人を送って行こう。かなり遅くなって危ない」

時計を見ると12時を過ぎていた。


「そうね。お願いしてもいいかしら?」

私の言葉でライザも立ち上がった。

「カーネギーさん、今日は本当に申し訳ありませんでした」


「気にする事はない。では行こうか」

カーネギー氏を見て、コリンヌが立ち上がる。


「明日は、気晴らしにどこかに連れて行くからそのつもりで」

カーネギー氏はコリンヌにそう言うと、私達と共にスイートルームから出た。


『デートのお誘いだね』

小声でライザとそう言って私達はウキウキしながらエレベーターに乗った。


「コリンヌはお花が好きですよ」

ライザがボソッとつぶやいた。

「では明日は植物園にでも行こう」

そう言ってカーネギー氏は少し照れた。


エレベーターを降りた直後だった。


「まあ!没落伯爵家の娘のライザがさっき見たみすぼらしいドレスとは違い高級品を着ているわ!しかも一緒にいた同じくらいみすぼらしい娘もよ!」

そこにいたのは。ジャロフ子爵夫人と、娘のリアーナだった。


「スイートルームに行ったと思ったら!貴方達、いかがわしい事をしたのね!その代償にドレスまで貰って!相手はカーネギー氏ね!!」

ジャロフ子爵夫人は大きな声で叫んだ。

そしてずっとカーネギー氏や私やライザに対して、売春婦だ、こんな女を金で買うのか、いかがわしい、など罵倒する言葉を吐き続けている。


そのせいで沢山の人が集まってきた!!


カーネギー氏が反論しようとすると余計に事が大きくなりそうだ。


どうしよう……。


カーネギー氏を見ると、我慢の限界がきているようだった。


そんな時だった。


「お客様、当ホテルで、そのようなお言葉を叫ぶのは謹んで頂けますか?」

そう言って出てきたのは、あのマネージャーだった。


「当ホテルの大事なお客様を傷つける言葉は謹んで頂いてよろしいですか?」

それでも尚、夫人は何かを言おうとした。


するとマネージャーは奥を見た。

「そちらにいらっしゃるアバーエフの代表者様」

奥の方で帰ろうとしていた壮年のおじさまにマネージャーは声をかけた。


その声で、アバーエフの代表と言われたおじ様がこちらに来た。

その方を見てライザは下を向いた。


「今回、初めて当ホテルをご利用頂き、開催したアバーエフの祝賀会でございますが、今後は開催をお断りいたします」


マネージャーの言葉に皆、何が起きたかわからずに固まった。

もちろん私達も何も言えない。


ホールがシンと静まり返った。


「この騒動の発端はこちらの小瓶です」

そう言ってマネージャーは厳重に袋に入ったあの小瓶を出した。


「この瓶の中の液体が漏れたため、宿泊のお客様と、その方を訪ねていらっしゃっていたお嬢様2人と、カーネギー様のお召し物がダメになりました。そのため、お嬢様方にはこちらで代わりのお召し物を用意させていただきました。それを何か誤解したご婦人がカーネギー様と、こちらのお客様お二人を罵倒したのです」


粉々に割れた惚れ薬の瓶だ!

アバーエフの選手は誰でも贈られるだろうから気にしている様子はない。


「今日は祝賀会のために、魔法薬などの持ち込みの検査を緩くしてほしいと言うお願いを受けてそのようにいたしましたが、終わってみればそのせいで、長年のお付き合いがあるカーネギー様と、宿泊のお客様のご友人達の名誉を失墜させる結果となってしまいました」

そう言ってマネージャーは、カーネギー氏の方を向いた。


「本当に心よりお詫び申し上げます。今後もお取引を続けていただけるように、精進してまいります。ですから何卒よろしくお願いいたします」

マネージャーは真剣な目でカーネギー氏を見ている。


すると、カーネギー氏はにっこり笑った。

「マネージャーの誠意は伝わったよ。これからも変わらずよろしく」

そう言ってマネージャーに握手を求めた。


「ありがとうございます」

そう言ってマネージャーはカーネギー氏と握手をした。


たしかに、アバーエフとの取引をもうしないと宣言した事によって、マネージャーの誠意は伝わったはずだ。

すごいわ!このマネージャー。


それから私達の方を向いた。

「お嬢様方、あらぬ嫌疑をかけられる事になりまして、申し訳ありませんでした。これからも当ホテルをご贔屓ください」

そう言って謝ってくれた。


ジャロフ子爵夫人はマネージャーが私達に対して謝った上に、今後もご贔屓くださいと言ったことが面白くないようでこちらをずっと睨んでいる。


今後開催を断られたアバーエフのおじさまは何が起きたかわからなかったようだが、一部始終を見ていたアバーエフの関係者が耳打ちをした。


「これは本当にブラクストンホテルにも、それからスポンサーのカーネギー社長にも大変申し訳ない事をいたしました。

魔法薬の持ち込み緩和の依頼のせいで……。カーネギー社長、お嬢様方、申し訳ありませんでした。このような騒ぎを起こして、しかも事を重大にしてしまい、返す言葉もありません」

おじさまの顔は悲痛に満ちていた。


カーネギー氏にスポンサーを降りられると困るのだろう。


「私の名誉はどうでもいい。でも、こちらのお嬢様方は未婚でしかもまだ若い。そして私の大切な人(秘書)の友人だ。彼女達にちゃんと謝ってくれ。ひどい言葉を投げつけた上に、誤解を広めたそこの夫人もだ。それができなければスポンサーを降りることも考える」


そう言われた上に、さらに何かを耳打ちされた壮年の男性はジャロフ子爵夫人を氷のような目で見た。そのせいで夫人はグッと唇を噛む。


アバーエフとしたら、格式高いホテルでの祝賀会の今後の開催を断られた上に、スポンサーまで失いかけている。


壮年の男性が私達の前に来た。

「お嬢様方、私はアバーエフの代表を務めておりますバイロン・サーストンと申します。この度は私共のパーティーに持ち込まれた品物のせいでお嬢様方が、あらぬ嫌疑をかけられる結果となってしまい誠に申し訳ありません」


この人は、イデオン・サーストンのお父さんなんだ!

という事はサーストン伯爵。


「お嬢様方を傷つけてしまった代償になるのかはわかりませんが、お嬢様方には私共からのお詫びとしてドレスを贈らせて頂きたいのと、もしもポロがお好きなら、ワンシーズンの指定席チケットをお渡ししたく思います」


ライザは、かつての婚約者の父上からの謝罪の言葉をどのように受け止めたかわからない。

サーストン伯爵はライザだとわかっていないのだろう。


「謝罪の言葉を受け入れます。ですが、ドレスやチケットはいりません。お気持ちだけで十分です」


ライザは下を向いたまま答えだが、その言葉は何か感情を押し殺したような物だった。


ちらりと見ると、イデオン・サーストンは絶句しているし、ジャロフ子爵夫人は頭にきているようだし、娘のリアーナは睨んでいる。


「ジャロフ子爵夫人。君もちゃんとカーネギー社長とこのお嬢様方に謝罪しなさい」


サーストン伯爵に名指しされたジャロフ子爵夫人はカーネギー氏の前に立つと、スカートを持ち、頭を下げた。

「カーネギー様。この度は私の早とちりで騒ぎ立てて申し訳ございません。カーネギー様の名誉を傷つけてしまい、本当に申し訳なく思っております」


そしてジャロフ子爵夫人が私達のそばまで来た時だった。

サーストン伯爵がジャロフ子爵夫人を見た。


「ジャロフ子爵夫人。君は、祝賀会の前にも、こちらにいるお嬢さんを罵倒した上に暴力まで振るおうとしたそうじゃないか。それも含め、ちゃんとお嬢様方に謝りなさい」


おじさまの声は先ほどまでとは違い、本当に冷たいものだった。


「この度は本当に申し訳ありませんでした。未婚の女性に酷い言葉を言いました。そしてカーネギー社長様が、このような子を相手にするはずがないのに。誤解してすいませんでした」


この子爵夫人の声から謝罪は感じ取れない。

『ひどい言葉を言った事に対して謝罪している』と言うとこは、私達を娼婦だと皆に誤解させたことについては謝っていないのかしら?

しかも。なんだかまだ侮辱されている。

なんか釈然としない謝られ方だ。


もやもやするわ。

そう思ってカーネギー氏を見るとすごい形相をしている。


「その言葉だと、彼女達の名誉を傷つけた事に対して謝罪していない上に、彼女達に魅力がないと言っているように聞こえるが?心からの謝罪の言葉や態度たどは思えんな!相手にもならん!もう取引は終わりだ」


そう怒ったたカーネギー氏の凄みと氷のような目は、やり手の実業家なだけあってすごく怖かった。


そして、アバーエフの人達の言葉はもうカーネギー氏には届かなかった。

皆がカーネギー氏に話しかけたがもう遅かった。



「ではマネージャー引き続きよろしく頼む。2人とも、遅いから送ろう」

そう言って私達を馬車まで連れて行ってくれた。


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