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危険の回避方法

馬車に乗るとすぐに、メガネを外して、手元に残ったメモと花束を見せて、コリンヌの話をした。

「だからコソコソとナプキンに何か書いてたわけだ」

ブルーノは呆れる。

「このままじゃ、コリンヌとその家族に危害が加えられるんじゃないかと思って、こうしたんだけど。コリンヌを助けるためにダニエル・カーネギーに会いに行きましょう。あと、薔薇も分析してほしいの」


ラボに連れて行ってもらい、早速花を分析してもらったが、何も出なかった。

「よかったー。怪しい薬とかで、触ると……とかあったら心配で」

私は胸を撫で下ろすと、元の紙袋に入れた。


「確か、ダニエル・カーネギーは数ヶ月前までメイベルとよく会っていたのよね?」

タブロイド紙で2人で話し込む写真を見た。


「そうみたいだけど、どんな話をしていたかは俺にはわからない」

「話の内容なんてどうでもいいわ」

私はそう返事をして小指の指輪を動かした。


ダニエル・カーネギーに『まだ会社にいるのかしら?それなら私のお使いが今から行くわ。メイベルのお使いと名乗るので、絶対に貴方本人が対応してね』と送った。


すると『わかった。10分だけなら対応する』と返ってきたのでラボから急いでカーネギー産業に向かう。


もしもメイベルを殺した犯人ならいきなり手紙が来て狼狽えるわよね?

でも、すぐに返信が来たという事はメイベル殺しの犯人とは違うのかしら?

そんな疑問を抱きながら、カーネギー産業に向かった。



そしてメガネをかける。


先ほどのボリス・ブロスが見張っているかもしれないので、裏口からカーネギー産業に入った。

受付で『メイベルのお使い』と言うと社長室まで案内してくれた。


そこには、新聞で見たダニエル・カーネギー本人が座っていた。黒髪にダークブラウンの彫りの深い俳優のような顔で、結婚したい男性ナンバーワンと新聞に書いてあった事を思い出す。

本当にそうだ!


私は自信に満ちたその圧倒的なオーラに押されてしまって動きがギクシャクする。

前世の営業では色々な会社の社長と会ってきた。でも、全然違う。

きっとカリスマ経営者とは呼ばれる一代で財を築く人はこんなオーラなんだろう。


圧倒されている私を見て、ブルーノが話し出した。


「貴重なお時間を頂きましてありがとうございます、カーネギー社長。私はブルーノ・ヘイスティングス。エトホーフト魔道具研究所の社長をしております。そしてこちらはクロ。お話はクロからいたします」


さらっと話すブルーノを横目に、オーラに押されてしまい、おずおずと私も挨拶をした。


「私はコリンヌの友達で、今日、彼女からこのお花を貰いました。そのお花の送り主『ボリス・ブロス氏』の事についてです」

私はここで息を呑んだ。


「私達はブロス氏と出会った場所を見に行って、それから別れました。そして、私は何気なく一人でそこのダナハービルのカフェに入りました。相手はコリンヌを誘い込みたかったようです。そして、この花を持って偶然現れた私をコリンヌと誤解してこのメモを、わからないように渡してきました」


私は一枚目のメモをダニエル・カーネギー氏に渡した。

『情報提供者の依頼を受けてくれてありがとう。今後、情報のやり取りは毎週水曜日、こちらのお店でウインナーコーヒーを頼んでほしい。そこにメモを挟む』


カーネギー氏の表情が変わった。

「これは……!」

そう言って私の顔を見た。


「そうです。産業スパイのお誘いです。コリンヌは気がついてなかったようですが、この花のメッセージカードに隠しメッセージが入っていたようです。それで、この花を持って偶然指定されたカフェに現れ、偶然指定されたウインナーコーヒーを頼んだ私をコリンヌだと思ったようです」


「何故君はあのカフェでウインナーコーヒーを?」

カーネギー氏は疑い深く私を見た。たしかに出来すぎな偶然だ。


「私はつい数週間前にこちらに来ました。私の故郷ではコーヒーが一般的で、沢山の種類がありますが、こちらの市では種類が無く、懐かしくて注文しました。あと、あのカフェに入ったのはこの辺りで迷子になり、ここにいるブルーノに迎えに来てもらう為です」


「ヘイスティングス氏は何故ここに?」

カーネギー氏はブルーノを見た。


するとブルーノは指を鳴らして、あの貴族のバッヂのついたカチッとした服に着替えた。

「私は魔道具研究所の所長として、この近くの会館で研究発表会の審査員を務めていた」


「たしかに近くでそんな事が行われていたね。その服まで見せて頂いてありがとうと、言うべきかな?」

そう言って笑った顔には対抗心が見て取れた。


お金持ちは、お金持ちに対して対抗心を燃やすのね。

確か『金持ち喧嘩せず』って言葉があったけど、喧嘩はしないけど対抗心は燃やすんだ。


「私は、『水曜日は無理。それに、私にはパトロンがいるの。だからお金には困ってない。パトロンは今姿を見せるわ。自分は姿を見せずに私に危険な事を要求するけど。貴方は何を提供してくれるの?』と聞いたら、これが返ってきました」


私は2枚目のメモを見せる。


「誤解しないでくださいね。ブルーノはパトロンではありません。保護者です!」

そう言い切った私を見てカーネギー氏もブルーノも笑った。


『シンブロス産業の役員の椅子と、重要情報1つにつき銀貨5枚、情報改ざん1回につき金貨1枚』

とナプキンに書いてあった。


それを見てふっと笑った。

「成程。我が社の社長秘書を引き抜くつもりか」


「そうみたいね。このメモの主は、ブルーノを私のパトロンだと思っているの。それを利用して、この話を蹴ったわ。そしてブルーノが共同計画しているパーティーについて話して、私はこれ見よがしにブルーノにドレスの話などを持ちかけたの。そしたらこれが来たわ」

そう伝えて、3枚目のメモを置いた。


『シンブロス産業の議決権と、役員の椅子。役員報酬は2倍。工作活動は先ほど提示した金額の3倍を渡すが、そのパトロンへの顔繋ぎを要求する』

これを見て、カーネギー氏はブルーノの顔を見た。


「私が怖いと思ったのは、多分コリンヌの通る道を調べ、コリンヌの人をほっとけないであろう性格につけ込んでいるのではないか?という事です。多分、経済状況も調べて近づいてきています」

私の断言にカーネギー氏の眉が動いた。


「君にそんな経験が?」

そう聞かれて止まってしまった。


確か……前世で似たような事が……。

一瞬目眩がしたが、なんとか堪える。


「まあそうです」

私は少しにっこりとした。


「コリンヌにはそれ相応の給料を渡しているはずだが、経済的に苦しいと言えるのか?」

カーネギー氏はびっくりして聞いてきた。


「色々な人がいるでしょ?家族を養ったり、親の代わりに借金を返していたり。人は見た目ではどんな問題を抱えているかなんてわかりませんよ。私はコリンヌに危害が加えられる可能性を捨てきれないのが恐ろしい」

私の言葉にカーネギー氏は考え込んだ。


「どうしますか?私の提案を聞いてくれますか?」


「わかった。君を信用して提案を聞こう」


わたしの提案を説明すると、カーネギー氏は渋々わかった、と言った。


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