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推定容疑者との遭遇

本日2回目の投稿です

ライザは席から立ち上がるとコリンヌに駆け寄った。

私も後を追う。


「コリンヌ」

ライザの声に女性は顔を上げた。

目にいっぱい涙を溜めていて、その淡いグリーンの瞳は光っていた。

そして、立っているライザのお腹にしがみついて泣いた。

ライザは背中をさすりながらコリンヌが落ち着くのを待っている。


「コリンヌどうしたの?」

私の質問にコリンヌはライザのお腹から離れた。


「実はね、今ここに座っていたのが私の勤め先のボスなの」

「コリンヌは小さな雑貨店で事務をしてるって言ってたよね?」

ライザの言葉にまたコリンヌが泣き出した。


「嘘をついて…うえっ…ごめんなさい。うぇっ…私…うぇっ…本当はカーネギー産業…うぇっ…社長秘書なの。」

そう言って嗚咽を漏らしながら泣いた


「…勤務先を言いにくい事はあるわ。守秘義務があるものね」

私は慰めるように言った。


「うぇっ…そうなの…うぇっ…でも今ので私、きっとクビよ!」

そう言いながら大泣きした。


「落ち着こう。最初から話してくれる?…言いにくいかもしれないけど」

ライザは言った。


運ばれてきた紅茶とカーキーをコリンヌに渡した。

「これでも食べて元気出しましょう?」

コリンヌはやけ食いのような勢いでケーキを食べた。

その様子が逆に可愛い。

紅茶を一気飲みしたところで落ち着いたようだ。


「私はカーネギー産業に勤めてるの。ボスはダニエル・カーネギー。私はその社長秘書をしているの」


その言葉を聞いて思わず息を呑んだ。

ダニエル・カーネギー!

メイベルのリストにあった容疑者候補だ!



「夜間学校に通い出したのは、姉が離婚して一緒に住んでるんだけど、姪にどう接していいかわからなくて…。教員のコースを取ったら姪に接する方法がわかるかと思って……」

そう言って目に涙を溜めた。


「それをボスに言ってなかったの。定時に仕事が終われば学校に通えるでしょ?実習の日は早退する事もあるけど、基本的にはなんとか上手くやってきたつもり。しかも学校は平日1回、休日1回だから仕事に影響は少ないし」

そう言いながら鼻水をすすった。


「今までは上手くやっていたのよ。先日、足の悪いおじいちゃんが誰もいないところで転んで車椅子から落ちた所を助けるまでは……」

少し落ち着いたようだけど、様子を見に来たおばさんに3人分の紅茶を頼んだ。


「そのおじいちゃんがボリス・ブロスさんって言うの。たまたま出会った方なの……。車椅子から落ちたところを助けたんだけど、おじいちゃんはまだ困っている様子だったから、そばのお花屋さんに『辻馬車を呼んで』ってお願いして私は立ち去ろうとしたの」


「コリンヌは優しいから、いつも困っている人をほっとけないよね」

ライザは優しく言った。


「そしたら、私の名前が知りたいって言われて、時間もなかったから名刺を渡したの。そして今日、そのおじいちゃんからお礼の花束と、『直接お礼が言いたいのでお会いできませんか』ってメッセージが付いていたの」

そこで、ちょうど運ばれてきた紅茶を飲んだ。


「うちのボスがたまたまその花束とメッセージカードを見てしまって。『最近、たまに早退したりしているのは、競合相手であるシンブロス商会の社長のブロス氏会っているのではないか?』って思って、私を産業スパイだと疑い出したのよ」


「おじいちゃんが、ボリス・ブロスさんだからシンブロス商会の会長の関係者だと思ったんですね」

と私が言うと、コリンヌは悲しそうに下を向いた。


「今週は残業を入れないでしょ?だから、シンブロス商会の人と会うつもりなんじゃないかと思ってボスが私を尾行していたの。全然気が付かなかった……。問題の花束はボスが見たら気を悪くするから持ってきたの」


そう言ってテーブルに乗せた花束は、虹色に変化する薔薇だった。そこに確かにメッセージカードも付いている


「わあ!これって最近売り出したばかりの魔法がかかった薔薇ね。すごい高級品!」

ライザは驚いて薔薇を見た。


「ねぇ。私、田舎者でわからないんだけど、メッセージカードにはお返事を書くアドレスとかついているの?」

この世界の常識がわからないので質問をした。

指輪から出てくる手紙のように、メッセージカードに何かしらの仕掛けがあるのか聞いてみた。


「高級なメッセージカードだと、余白にお返事を書くと相手のところに届くわ。今回のはそれよ」

覗き込むと、確かにカードにも魔法がかかっているようだ。


「返事を待ってるんだね」

とライザは返事をして、またコリンヌの背中を撫でてあげた。


「そっか。じゃあボリス・ブロスさんがどこに住んでいる人かわからないのね。ねぇ、学校に行くまでに時間ある?」

私の質問に2人は頷いた。


「それなら、コリンヌがボリス・ブロス氏と出会った場所に行ってみない?」


3人でおしゃべりしながらその場所に向かった。


「ここよ」

と言われた場所は、乗合馬車が通る大通りより一本入った道だった。

「私、夜間学校の日はここから乗合馬車に乗るの」

コリンヌは乗合馬車停を指差した。


「確かにここから大通りが見えるけど、でも路地でしょ?なんでおじいちゃんが転んでるのに気がついたの?」

私の質問にコリンヌは少し微笑んだ。


「助けを呼ぶ声がして、ふと路地を見たらおじいちゃんが転んでたの。だから急いで助けたのよ」


コリンヌがたまたま通ったからおじいちゃんが声をかけたのかな?

『助けて』って言ったら、コリンヌが辻馬車をお願いした花屋も気がつくんじゃ無いのかな?

私はあたりを見たが花屋が見当たらない……。


「ねぇ、コリンヌ、花屋さんはどこ?」

「花屋はこの路地の奥にあるはずよ」


そう言ったので、3人で路地の奥に向かう。

路地には古い建物が並んでいるが、どこも二階建ての事務所のような雰囲気のところだ。


「あれ?ここに花屋さんがあったんだけど」

その建物は一階が何かのお店であろう雰囲気で、ドアが固く閉まっている。


「今日は休みなのかな?」

ライザがつぶやいたが、なんだかおかしい。

ここで花屋を営んでも、お客さんが来るようなところではないと私は感じた。

まず、オフィスだらけだ。しかもなんだか活気がない。もしかして、どこも倒産したりして空いているのかな?


「この辺りの建物ってどんな会社が入っているのかな?ねえ、コリンヌは知ってる?」

私の質問にコリンヌは首を横に振った。


その後、3人で路地を抜けてみたが、この路地には他にお店があるような雰囲気のところはなかった。


「ねぇコリンヌ。カーネギー産業って大きな会社だから、そんな疑いを持たれただけでクビって事はないわよ。それでね、大変言いにくい事なんだけど、そのバラを研究させてもらいたいから、頂いてもいい?」


高い薔薇で貴重なのはわかるけど、どうも気になる。


「いいわ。こんなの持って帰ったら、姉はどこかの玉の輿になったんじゃないか?って騒ぐもの。姉はロマンチストなの」

そう言ってメッセージカードが付いたままの花束を紙袋ごともらった。


「ありがとう!これ、ブルーノに調べてもらうわ」

そう私が言うと、ライザはニヤッと笑った。

「ブルーノと会う口実?親戚とか言ってるけど、実は違うでしょ?2人で話す雰囲気が親密そうだもの」

ライザに指摘されて苦笑いを浮かべた。


「親戚ではないわ。曖昧な事言ってごめんね。ライザ」

私が申し訳なさそうに言うと、ライザはにっこり笑った。

「いいよ。気にしない。今度、ブルーノとの関係を聞かせてね」


「わかったわ。そろそろ2人は学校でしょ?」

「そうね。また美味しいお店、教えるね」

ライザが手を振ってくれた。

「今度は泣いてない時にね」

とコリンヌも手を振ってくれたので、私は歩いて図書館を目指すことにした……。


ここどこだろう?

コリンヌは勤め先が近いと言っていたから、ちょっと大通りを歩いてみよう。


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