新しい出会い
馬車の中でメガネをかけてセカンドクローゼットの服に着替える。
それから図書館に向かった。
もしかしたら、他に転生者がいるかもしれない。
歴史の本とかに出てるかな?
……なんて甘いはずないか。
前世の記憶持ちなんて変人だと思われる。
あっ、魔法がある国だと、科学が異端なんだから、科学の本がないか調べよう!
まず科学という項目を見たけどそもそも無かった。
では、魔法学の中に科学のようなものは無いのかしら?
魔法学の本を少し読んだけど、なんだか無さそう。
本を色々と探して疲れたので、カフェに行こう。
いつものカフェに行くと、ライザが帰るところだった。
タイミングが悪い。
「ライザ。もう帰るの?」
「今日は夜間学校の日なのよ。だから、友達と待ち合わせをしているの。クロはあまりこの街の事を知らないみたいだし、待ち合わせの店に行ってみる?」
「いいの?」
「いいよ。私も待ち合わせしている友達も地方から出てきたから、友人が少ないんだ。クロもでしょ?」
「ええ。少ないわ」
「じゃあ、行こう!」
そう言われてライザについて行く事にした。
そしてコリンヌという丸顔のフワフワの金髪の可愛らしい人を紹介してもらった。
すぐに打ち解けて、仲良くなれた。
2人は毎週水曜日に夜間学校に行く前に落ち合い、2人で登校しているそうだ。
今日は月曜日だけど、実習だから夜間学校があるとのことだった。
「今日も明日も実習だから、また待ち合わせするの。クロも来て一緒にお茶でも飲もうよ」
楽しそう!
「ええ。明日も必ず来るわ」
この日は2人と別れて大人しく帰った。
コリンヌともアドレスの交換が出来た。
この世界の2人目の友達だ。
次の日も3人でお茶をした。
もちろんメガネは必需品。
コリンヌはちょっと天然なところがある可愛らしい子で、年齢は25歳だった。
小さな会社の雑務と秘書をしていると言っていた。
ライザもコリンヌも他方から出てきていると言っていたが、私の何も知らない具合に驚いて色んな事をアドバイスしてくれた。
「クロはまず、都会の常識を知らないと働けないね。じゃないと騙されちゃうよ。ブルーノが働かせずに行儀見習いをさせる理由がわかるよ」
とまでライザに言われた。
「明日は水曜日だから、普通の授業なの。また、授業の前にお茶をしない?」
ライザの提案を2人で賛成して別れた。
この楽しみがあるお陰で、『メイベルへのなりきり訓練』をなんとか耐えた。
そして水曜日、ライザが連れて行ってくれるところは隠れ家的なカフェだそうだ。
馬車を降りる前にメガネをかけて、それからライザにあった。
そこは、大きなホテルの陰に隠れて見えない、隠家的なカフェだった。
出窓には陶器のオブジェが飾ってある!
「かわいいお店!」
私は外観を見ただけではしゃいでしまった。
「中はもっと可愛いよ?きっと驚くと思うよ」
そう言われて中に入ると、ドールハウスなどが飾ってあり、本当に可愛らしいお店だった。
「ここはケーキの配達が中心のお店でね。店内にカフェスペースがある事は常連さんしか知らないんだよ」
と言って、ライザは人差し指を立てて口に付けた。
入り口の所に沢山の種類の焼き菓子があり、レジの横には生クリームたっぷりのケーキが並べられていた。
ブルーノもこのお店は知らないだろう。
私はお土産としてフィナンシェを買った。
私が買い終わると、レジの所に立つ中年の女性がライザに声をかけた。
「こんにちは、ライザ。今日はどうする?」
「とりあえず紅茶を2つとお薦めのケーキを2つ。で、2階に上がっていい?」
ライザはそう聞くと私の手を引いた。
「いいけど……」
店主の女性の様子がおかしい。
「今日、コリンヌちゃん、男の人と来ててね。様子がおかしいの」
店主の女性は心配している様子でそう話した。
「コリンヌが?わかった。そっと様子を伺うわ。階段を上がってすぐの席なら、柱の陰になって他の席から見えにくいから、とりあえずそこに座るわね」
ライザはそう答えて私に手招きをした。
2人で音を立てないように2階へ上がる。
そして階段を上がってすぐの柱の陰になる席に座った。
私とライザからは向かい合って座る男女が見える。
コリンヌの向かいに確かに男性が座っていた。
男性は帽子を被って下を向いているので顔はわからない。
私とライザは顔を見合わせて耳を澄ました。
あまり広くない店内はその一組しか客がいない。
そのため、私たちが声を出さないと2人の会話が聞こえる。
「何故、今まで嘘をついたんだ?」
男性はどうもコリンヌに怒っているようだ。
「社長秘書だからと言って、なんでも社長に話す必要はないと思います。それに就業規則違反では無いと思います」
コリンヌは反論した。
「じゃあ、何故君の机の上に『この前はありがとう。ボリス・ブロル』というメッセージ付きの花束があるんだ?」
どうも痴話喧嘩かな?
なんかハラハラする。
「ずっと産業スパイの可能性を疑って見張っていたシンブロス商会の役員の1人がブロルというんだ。ブロルの名前はわからんがな。君はスパイだったのか?」
コリンヌは下を向いていたのに、この言葉で男性を見た。
「ブロルさんは足の悪いおじいちゃんです。先日、誰もいないところで転んで車椅子から落ちた所を助けただけです!」
「ほう!その言葉を私が信じるとでも?最近、データが改ざんされたりした事があったが君か?」
「違います!」
そう言って怒って立ち上がった。
「じゃあ定期的に早退をしてどこに行くんだ?それが言えないのか?」
男性も声のトーンを落としているが語気を強めた。
「それは…その…」
コリンヌは急にモジモジし出した。
「なんだ?」
男性は冷めた声で聞く。
「夜間学校の教員コースに通ってまして……」
その先は聞こえなかった。
しかし、男性の態度は更に悪くなる。
「学校の先生だと?将来先生になりたいとは一度も誰にも言ってないじゃないか!しかも誰も君の行き先を知らなかった。そんな見えすいた嘘は言うんじゃない!それに先生だけは絶対にダメだ。他の夢なら応援する。先生だけはダメだ」
そう言って男性は帰って行った。
階段を降りる時、私達に気がついて気まずそうに帰って行った。
残されたコリンヌは泣いているようだった。