久しぶりの1人飲みのつもりだった
本日3回目の投稿です
もう散々だ。
せめてブルーノを翻弄したい。
他の人はどうでもいい。
ディナーの時は平静を装って何気ない会話をした。
どうやったって、中身が涼木鈴である私は恋の駆け引きが苦手らしい。
気分を変えるためにオイルマッサージをしてもらおう。
今日は、甘ったるい匂いのオイルでマッサージをしてもらった。
ブルーノの宮殿では、就寝時はシルクのバルローブを着るらしく、私もそれを着る。
そして、眠る前に久しぶりに一人でお酒を飲みたくなった。
メイドにお願いすると、スパークリングワインがおすすめと言われたので、それをお願いした。
バルコニーに出て、ワインを飲みながら外を眺める。
そういえばこの世界に来てから唐揚げ食べてないなあ。
なんて考えてる私は全くロマンチックじゃないな。
思考はお洒落にはなれない。
フフフ
思わず声が出てしまった。
「何笑ってるの?」
突然、ブルーノの声がして横を向くと、離れた位置にブルーノが立っていた。
この宮殿のバルコニーは繋がっていて、どの部屋からも出られる。
ブルーノも就寝準備を終えたのかシルクのバスローブだ。
薄いシルクの上から、筋肉質な体が見て取れる。
なんてセクシーなんだろう。
そんな事を考えたら自然と笑みが溢れてきた。
酔っ払っている私はちょっとご機嫌だ。
「体は絶世の美女なのに、頭の中は平凡な会社員なのよ」
そう答えて、吹き出した。
そんな私を見てブルーノは甘く微笑む。
「ブルーノも飲む?」
「ああ。貰おうかな」
ブルーノがバルコニーを歩いてこちらに来た。
「じゃあ、待ってて。今持ってくるわ」
私はバルコニーに設置してあるテーブルの上に自分のグラスを置いて、部屋の中に戻った。
そして、メイドが持ってきてくれたお盆ごとバルコニーに持ち出す。
銀製のお盆の上には、スパークリングワインのボトルと、グラス、そしてフルーツが乗っていた。
「シャンパンにフルーツ?」
ブルーノはびっくりしている。
「昔、テレビで見たんだけどね。スパークリングワインにフルーツを入れて、回しながら飲むんですって。『フランベする』って言うらしいんだけど、人生の中でワインを飲む機会なんてかなったから」
そう言って私は自分のグラスにフルーツを入れた。
ブルーノと並んで外を見ながらシャンパンを飲む。
「今日はどうしてた?」
「んー。今日もメイベルらしい歩き方を学んだわ。やっぱりメイベルって『いい女』だったのね」
「そんな事ないよ。クロも魅力的だよ」
「魅力的?そんな事言われた事ないよ。鈴はいつも、恋愛は奥手でね。いい感じになっても『好き』って言えなくて、それで消滅しちゃうなんてよくあった」
「よくあったのか?」
「うん。なんで『好き』とか『付き合おう』とか言えなかったのかな? 言ってもらえなかったのかな?結局、その男達は私を選ばずに他の女の子を選ぶのよ」
「へえー」
ブルーノは抑揚のない声で答えた。
私はその返事を気にする事なく外を眺める。
「鈴は恋愛ベタだったんだよね。高校も大学も。それから会社に入っても、合コンに行っても」
「合コンってなんだ?」
ブルーノの質問にフフフと笑う。
「恋人のいない男女が3人ずつとか、4人ずつとか集まってお酒を飲みながらお互いを紹介していくのよ。気の合う異性がいたら、連絡先を交換して、後日また2人で会うの。後日じゃなくて、お持ち帰りされるケースもあるかなぁ」
「お持ち帰りって何?」
「それはね。男性が女性をそのままホテルとか、自分の家に連れて帰ってね。……」
私はブルーノの真横にピッタリくっついて肩に頭を乗せた。
「そこまで言えばわかるでしょ?それ目当ての人とかいてねー。フフフ。見極めなきゃいけないのよ」
それからブルーノの顔を見た。
ブルーノもこちらを見ている。
「クロはお持ち帰りされた事あるのか?」
「ないよ。あるはずないじゃない?」
だんだん私の声は小さくなっていって……私からキスをした。
ブルーノはそっとグラスを置くと、私を抱きしめて、そしてキスを返してくれた。
抱きしめる手が少しずつ下にずれていく。
シルクの上からブルーノの指の感触が伝わってきた。
それに合わせて私も脚を絡めてキスを返す。
絡めた足がブルーノの肌に当たりなんだかあつい。
脚を絡めたせいで太ももが露出した。
白い肌が室内の灯りに照らされて美しく見える。
それからサッと腕から逃れた。
「悪女になってた?」
ブルーノは何が起こったかわからずに固まっている。
「1人落とせたみたい。じゃあおやすみ」
そう言って振り返らずに部屋に入りカーテンを閉めた。
心臓の音がまたしてもうるさい。
私、頑張った。
あの雰囲気に流されずに終われた。
ブルーノを翻弄できたかな?
もしも出来ていたなら、この前からの仕返しになったはず。
私はベッドに潜り込むと、まだドキドキが止まらずに寝付けなかった。
次の日は何事もなかったかのようにブルーノと朝食を食べた。
「今日は久しぶりに図書館に行きたいの」
「わかったよ。じゃあ一緒に出かけよう。帰りは手紙をくれたら迎えに行く」
「ええ。お願い」