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翻弄したいけど、翻弄されている

本日2回目の投稿です

「クロ。君に足りない物がある。それはメイベルらしさだ。わかるか?パーティーをするという事は、皆が動いて話すメイベルをみるという事だ」


本当だ!

全く気にして無かった……。


「だから、今までのメイベルの言動や仕草を研究させといた。メイベルになりきる準備は整った」

ブルーノはそう言って笑った。


「俺としてはクロはクロらしくいてほしいけど。そうも言ってられない」

そう言って、立ち上がると私の前に来た。そしてまた額にキスを落とした。


「……この国の爵位が名乗れないのはプリンセスの称号のせいか。これも由々しき問題だな」

そう呟くと、私の座っている椅子の肘掛けに腰掛けた。


「そうだ!君は音楽は何かできるか?ピアノやバイオリンなどは貴族の令嬢としは必要な素養だ」

ブルーノの言葉に私は固まった。

貴族らしい物を演奏?


学生時代、吹奏楽部でサックスを吹いていた。

今でも、卒業生で作った吹奏楽サークルで吹く事はあるけど、仕事が忙しくて2ヶ月に一回くらいしか吹けていない。


「サックスなら吹けますけど……」

このお嬢様のドレスにサックス?

アンバランスすぎるでしょ。

「サックスとは?どんな楽器だ?」

「説明が大変なので、吹く楽器を並べていただければ、吹けるもので頑張ります」

私の答えにブルーノは苦笑いをした。


「この形の良い唇で楽器を吹くのか?」

そう言ってブルーノは私の唇を撫でた。


なんかドキドキする。


「ええ。吹きますよ」

そう答えると、至近距離に顔を近づけて来た。


「唇が荒れないようにしないと……」

そう言いながら、私の手の甲を撫でてくる。

優しく、指先で……。


至近距離に顔を近づけているブルーノの唇を見た。

なんだか心がザワザワする。

ゆっくりと顔を近づけようとすると。


『悪女は落ちないよ』

ブルーノの綺麗な唇がそう動いて、サッと離れた。

……揶揄われた!


「もう!バカ」

私はブルーノを見ることが出来ずに下を向いた。


すると、私の顎に手を当てて、ぐっと上を向くように動かされた!


今度は私から悪戯しよう。

そう思ったのも束の間。


唇がふれた。

一瞬触れたが、すぐに離れた。


あまりの出来事に心臓がうるさい。

大人しくしろ!メイベルの心臓!


私は28歳。

別にキスの経験がないわけじゃない。

『付き合おう』と言われた事がないだけで、中途半端かもしれないけど、それなりに経験値は積んできた。

……だから、2次元に走ったりしたのだけれど……


落ち着け!動揺しちゃダメ!


ブルーノがカッコ良すぎるからいけないのよ。

その顔で、その瞳で、優しく微笑まないでほしい。

その形のよい唇で翻弄しないでほしい。


ブルーノを見ると余裕の顔で笑っていた。

「じゃあお部屋に案内しますよ。お姫様」


私もなんとか取り繕う。

「悪女にならないといけないから、これくらいねー」

と言って咳払いをした。


私の方が年上なのに余裕がない。

部屋の前に来ると、私は営業スマイルで笑った。


「悪女になるために努力するわ。私、メイベルと違って女優じゃないから。悪女の道は甘くないわね」

そう言って、いきなりブルーノの胸ぐらを掴み、キスをしてから振り返らずに部屋に入った。


我ながら大胆だ。

しばらく心臓の音が鳴り止まなくて、ベッドにうつ伏せになっていた。


気がつくと朝だった。

メイドを呼んで汗を流す準備をしてもらう。

この辺りが、前世と違って不便だ。


この部屋のバスルームは、まるで温泉の露天風呂付き客室みたいな作りで、開放感があるロケーションになっている。

私はそこでオイルマッサージをしてもらい、ヘッドマッサージもしてもらう。

これは最高に気持ちいい。

メイベルのアパルトマンにいるパグ達も上手だが、ここのメイドの技術は凄すぎる。


バスタイムが終わった後、全身の肌を整えてもらう。

今日から悪女の練習をするつもり。


その決意は朝食の時に崩れた。


「今日からメイベルを研究した諜報員が来る。今からメイベルらしさの勉強だから」

ブルーノに言われて思い出した。

それもやらないといけない事の一つだった。


「次にラブラに会うまでに、何か一つメイベルらしくなっているように」

そう言ってブルーノは出かけて行った。


悔しい!

絶対に見返してやる!


しばらくすると、背の高い男性が入ってきた。

「はじめまして。業務の関係で名前は名乗れません。私があなたを『メイベル・イスト』に仕上げるために派遣されてきました」

そう言って男性は笑った。


「ははは」

男性の持つ独特の雰囲気に作り笑いしか出なかった。


それから一時間、メイベルの歩き方を学んだ。

「猫背になっていますよ」

「下を向かない」

「もっと歩幅は大きく」

「線の上を歩くように」


モデル事務所のように指導がすごい。

一時間歩き疲れて、休憩を取る。


「あなたはお顔は美人ですが、仕草が美しくありません。それでは全く美しく見えません」

先生の指摘に何も言えない。

「そのグラスの持ち方!」

休憩中も注意される。


「先生!提案です」

私は全てをメイベルらしくできないので、パーティーでやる事を決めてもらって、それだけを練習する事にした。


先生は1日5時間の指導をここからするらしい。

げっそりする。


次の日も先生は来た。

しかし、この『メイベルごっこ先生』が帰った後、音楽ホールに呼ばれた。


そこには沢山の楽器が並べられていた。

これは……。


「ご主人様より、メイベル様のお好みの楽器を調べるよう申しつかっております」

執事が凛とした態度でそう言った。


「わかりました」

私は返事をして、ここにある沢山の楽器を見た。


見たこともない楽器が沢山あるが、フルートなどもある。

国中から集めたであろう楽器が所狭しと置かれている中で、見つけた。

サックス!


でも、私が吹いていたサックスとは違う……。

これはバリトンサックスにそっくりだ!


私が使っていたアルトサックスはテレビでよく見るサックスだが、バリトンサックスは長さが1メートル、重さが6キロ以上ある。


奥に置いてあったバリトンサックスを手に取ると執事はギョッとした顔をした。


「その楽器は北部の山間部の祭りで、村の男達が弾く楽器です。大きすぎるのでメイベル様には難しいのではないかと…」


「私の使っていた楽器に1番近いと思うの」

そう言って、ストラップをかけて音を出した。


バリトンサックスの重低音が心地いい。

本当はアルトサックスを吹いていたのに…。


サックスを吹く私を見て執事がすごく驚いている。

「それは初心者ではなかなか音が出ないと聞いております。お嬢様!すごいですね!」


高校時代は強豪校とまではいかないけれど、それなりに吹奏楽部が有名な高校でサックスを吹いていた。

大学も、テニスサークルと吹奏楽のサークルに所属して、サックスをやめなかった。


よく演奏したナンバーをいきなり吹く事は難しいが、とりあえず簡単な童謡を吹いてみた。

うん。大丈夫。

なんとかできる。

私の親友は大学の時、バリトンサックスを吹いていて、何度か遊びで吹いた経験がある。


「この楽器なんて名前?」

「ええっと、そちらは、ガーゴイルです」

執事は手元に有る紙を見ながら答えた。


「じゃあ、このガーゴイルの練習も明日からします。今聞いてわかったようにかなり大きな音が出ますのでよろしくお願いします。それと、どの楽器を選んだのかブルーノには内緒にしてちょうだい。驚かせたいの」

「かしこまりました」

私は部屋に戻る事にした。


ストラップが体に装着するタイプでよかった。

あれ、首にかけたらメイベルの首が大変な事になるわ。


部屋に戻ってから男性を翻弄する悪女ってどんな感じなのか考えた。

まず、露出の高いドレス。

それから男性を魅了する笑顔。

甘い声。


この3つのうち足りないのは笑顔だ。

甘い声はメイベルの声がそもそも甘いので大丈夫だし。


私は鏡に向かって笑顔や仕草の練習をしてみるが、顔が引き攣ったり、目がただの半目になったり。

ウインクをしようとして両目を閉じたり。


なかなか難しい……


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