表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/42

キスの距離

本日4回目の投稿です


「メイベルが好きだったの?」


この言葉を出すのには勇気が必要だった。

私はブルーノに一目惚れだったのだから。

しかも、知れば知るほど好きになってしまう。

そんな人に、『私の中に眠っているかも知れないメイベル』への愛情を聞くのはかなり辛い。


「嫌。メイベルの事は、妹だと思って接していた。だからどんなわがままも『兄』として聞いていたつもりだよ。メイベルの過去を調べるうちに、もしかしたら俺の事が出てくるかもしれないから今話した」


それを聞いて少しホッとした。

……顔には出てないよね?

私はなんとか平静を装った。


「わかった。話してくれてありがとう。私はブルーノを信じる。だから、ヴェロニカの事件の詳しい事を教えてほしいの」


「あの事件の時、俺は講師として学園に居た。ラボ立ち上げの資金を稼ぐためにアルバイトをしていたんだ。だから、詳しい事は本当に知らない。」

「正規の採用じゃなかったから詳しい事は知らないのね」


「その通り。知っている事といえば、授業中に起きた事件で、何故か、ヴェロニカという女生徒は授業に出ていなくて被害にあった事と、結局、入り込んだ魔物は見つからなかったって事だ」


「この図にある沢山の名前が誰なのかわからないのよ。でも、バツ印が付いていない3人は、タブロイド紙で確認できたわ」

「確かに、有名人だもんな。これを調べに図書館に?」

「そうよ」


私の返事にブルーノは笑った。

「クロはこの世界の事が分からなくて、家に閉じこもってても不思議じゃないのに、行動力があるな」

「まあね。普通に会社に勤めていたもの。なんでも一人で出来て当たり前」

私の返事にブルーノは頭を撫でてくれた。


「資金集めのパーティーにこの3人も呼ぶつもりなんだね」

「そのつもり。直接会ってみないとわからないから」

私はフフフっと笑った。


「メイベルの残した手がかりを書き写してもいいか?バツ印の付いている他の人物を調べてみる」

ブルーノは長い時間かかって書き写していた。



この窓もない部屋でメイベルは何を考えていたんだろう。

どんな闇を抱えていたんだろう。

物悲しくなって子供の頃のメイベルの写真を見た。


そんな私に気がついたのかブルーノは顔を上げた。

「クロ、そんな顔をしないでくれ。……メイベルと同じ顔なのに言動や表情が全く違って混乱する」


そして一歩私に近づいた。

「気がついてる?今……涙が溢れてるよ」

その言葉で私は頬を触った。


涙で頬が濡れていた。

「あれ?なんでかな?」


ブルーノはもう一歩近づくと私の涙を拭ってくれた。

「泣きたい時は泣いていいんだよ」

そう言ってゆっくりと床に座るように促し、肩を抱いてくれた。


「クロとは出会ってまだ数日だけど、君がすごくいい奴なのはわかるよ。メイベルの外見を使って金持ちを次々と凋落させるとか、メイベル中心の逆ハーレムを作るとか、考えたら色々できるのに、それをしない」


その言葉を聞いて私は思わずフフフと笑うと、また肩をギュッと抱き寄せてくれた。


「君は最高だよ」

優しい声でそう言われてまた涙が溢れる。


「じゃあここから悪いメイベルになるわ」

涙声の私の宣言を聞いてブルーノは笑った。


「いいよ。受けて立とう」

私は涙を拭った。

「メイベルを殺した犯人を探るために、ラブラのパーティーでは色々な男を凋落する悪女になるわ。でも覚えておいて。その中の誰も信用するつもりはない」

私はメイベルの子供の頃の写真を見てそう言った。

きっとメイベルもわかってくれるはずだ。


「無理はしなくていいんだよ」

ブルーノはそう言ってくれた。

私は殺されたくない。


私はゆっくり立ち上がり、メイベルの作った関係図を見た。

「私は負けない」

涙声でそう言うと、ブルーノも立ち上がった。

「わかったよ。クロの気持ちを尊重する。でも、何かする時は必ず教えてくれ」

そう言ってくれたブルーノを見て頷いた。


するとブルーノは悪戯っぽく笑った。

「色々な男を凋落する悪女になるかもしれないけど、なんでも許しちゃダメだぞ」

と言うと、いきなり唇に軽くキスをして抱き寄せられた。


心がザワザワする。

思わず私からもキスを返して腕を回す。


なんだか甘い匂いがした気がした。


「ほら。今、クロが俺に落とされた。このバツ印のついていない3人は、すごくかっこいいぞ。悪女になるんだろ?簡単に落とされるなよ」


その言葉に我に返って顔が熱くなる。

簡単にキスなんてしないでほしい。混乱する!

ブルーノを突き飛ばそうとしたけど、抱き寄せられた腕の力が思いの外強くて逃げられない。


「わかってるわよ。私は落ちてません!!」 

そう言ったけど、ブルーノはまだ抱き寄せたまま離してくれない。


「ここに閉じ込めておけたら、危険な事をしないんだろうな。でもそうもいかないから、俺のウチに連れて帰る。あの何の魅力もない『早変わりメガネ』に時代遅れの服でも、声をかけられているんだから」

耳元で甘い声で言われて、心がざわつく。


「もう!メイベルは妹みたいな物なんでしょ?じゃあキスしたり抱き寄せたりはやりすぎじゃない?」

私は強い声でブルーノに抗議をして、腕から逃れようとする。

「妹思いの兄だから心配なんだよ。とりあえず連れて帰る」


ブルーノはそう言ってドアノブに手をかけると、秘密の部屋から出てしまった。

私はブルーノに抱き寄せられたまま、姿見の前に立っていた。


「成程。鏡の中に部屋を隠したのか。メイベルは思ったよりも魔力が強いんだな」

「いい加減離してほしいんですけど」

私の言葉で抱き寄せていた手を離してくれた。


でも、やっと離してくれたと思ったら、いきなり荷物のように担ぎ上げられた。


「なになに?」

「抱き上げたんじゃ暴れて危ない」

「はぁ?訳わからない事言わずに下ろしてよ」

私は足をバタバタさせて暴れたら、足を抑えられた。


そしてブルーノはドアを開けた。

「リトル!」

ブルーノが呼ぶと、どこからともなく飛んできた。

「メイベルを連れて行く。当分帰らないが家の管理はお願いできるか?」


リトルは楽しそうに飛び回った。

「大丈夫よ。スズキスズ、楽しんできてね」

リトルは呑気に飛び回らながそう言った。


何かを言う前に部屋から連れ出されて馬車に乗せられた。

馬車の中では何故かブルーノの膝の上に乗せられ、腰に手を回されて動けない。


「やりすぎじゃない?馬車から飛び出して逃げるとかしないわ」

私は呆れてそう言うが、ブルーノはにっこり笑って無視を決め込んでいる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ